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私、カスハラしてますか? #シロクマ文芸部

 レシートに気になる文字を見つけた。

元気になるたまご(変) ¥298

 (変)って何?変なたまごを売られた?どういうこと?

 私は細かいことが気になるタイプの人間で、一度気になると確認するまで落ち着かない。ましてや食べ物のことだ。もう確認するまで、このたまごは食べられない。
 レシートを財布に戻して、昨日買い物をしたスーパーに向かった。サービスカウンターにいる若い男に声をかける。

「すみません、昨日こちらで買い物をしたんですけど。このレシートに書いてある(変)って何ですか?このたまご、食べても大丈夫ですか?」

 若い男にレシートを見せると「私では分かりません」と言うので、「分かる人に確認してもらえませんか」と伝えた。若い男は「分かりました!」と言って小走りでどこかへ行った。店長を探しに行ったのだろう。待っている間、目の前のカスハラに関するポスターが目に入った。私は違うわよ。気になったことを確認しているだけだもの。お客様を不安にさせちゃ駄目でしょ。
 さっきの若い男が店長らしき中年男性を引き連れて戻ってきた。

「お客様、いつもありがとうございます。私、店長の永沢と言います。お待たせして申し訳ありません。私にもレシートを見せていただけないでしょうか?」
「いえ、こちらこそごめんなさいね。でも、気になっちゃって。このレシートなんですけど」

 店長は私が渡したレシートを見て、少し考えるような仕草をしてから言った。

「お客様、まず申し上げたいのですが、こちらのたまごに関しては問題ございません。安心してお召し上がりください」
「いや、無理です。この(変)の意味がはっきりするまで、私は食べられません。どういう意味なんですか?」
「それが、ちょっと今すぐには分かりませんで、食品担当の者に確認する必要がありまして」
「確認してくださいよ」
「今日はお休みをいただいておりまして。あの、申し上げにくいのですが、気にしないでいただくことは難しいでしょうか?」
「それができたら、私、来てませんよ!気になるから来たんです!これ、私にとっては『元気になるたまご』じゃなくて『気になるたまご』ですから!」
「あ、なるほど!面白いですね。お客様、もしかして芸人さんですか?」
「は?違いますけど!誤魔化さないでください」
「いいえ、誤魔化すつもりはございません!失礼しました。すみません、私、お笑いが好きなもので。明日担当の者が出勤してからの確認とさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「分かりました。ではまた明日お昼頃に来ますから」
「申し訳ありません。ありがとうございます。よろしくお願いいたします」

 店長が大きな声を出して頭を下げるものだから、他の客がチラチラこっちを見てきた。私がカスハラしてるみたいで嫌だった。この店が変なたまごを売ってるかもしれないから私が確認してあげてるのに。納得いかないわ。たまごも昨日買ったやつは使えないし。別な店で六個入りを買い足すしかないか。もう。

 翌日の昼頃、スーパーに向かった。サービスカウンターには店長とすらっと背が高い三十代くらいの男性がいた。食品担当の人だろうか。

「すみません、昨日レシートの件で伺ったものですけど」

 店長に声をかけると、背の高い男が話しかけてきた。

「お客様、昨日は申し訳ありませんでした。私、食品担当の小林と申します。レシートに印字されていた内容について確認されたいということで、お手数ですが、今一度、私にもレシートを見せていただけないでしょうか?」

 大人しく財布からレシートを出して男に渡した。男はふむふむと頷いてレシートを返してきた。

「お客様、こちら、ありがとうございました。結論から申しますと、昨日店長の永沢が申し上げました通り、『元気になるたまご』自体にはなんの問題もありません。安心してお召し上がりください」
「だ、だから……」
「お客様、(変)という文字はどういう意味だ、ということですよね?はい、こちらはですね、社内の管理用の表記でして『違う商品に変更する予定』という意味になります。近々ですね、『もっと元気になるたまご』というのが発売されるので、『元気になるたまご』は販売終了となるのです」

 なんだ、そういうことか。何か問題がある変なたまごというわけじゃないのね。

「分かりました。私は問題がないたまごだと分かればそれで良いので」
「ご理解いただき、ありがとうございます。レシートというのはお客様にお渡しするものですが、我々が管理する上で必要な情報も載っておりまして。紙切れを検知する赤い線などはよく知られておりますが、ご理解いただけますと幸いでございます」

 何かカチンときた。

「あなた、それはちょっと違うんじゃない?レシートの赤い線はね、ほとんどの人は知ってると思うの。もう文化として認知されていると言ってもいいレベルよ。それに比べて、あなたのところの商品名の横に(変)って表記するやつなんて、誰も知らないから。気になる人は気になっちゃうから。もっと控えめにした方がいいと思うわ。私は理解したから別に変えなくていいけど」

「は、はい、申し訳ありませんでした!」

 店長がまた大声を出して頭を下げてくる。

「もういいです。私、帰ります」

 はー、また余計なこと言っちゃった。なんで私、こんなに細かい事が気になっちゃうんだろう。

 少し時間をあけてから、またこのスーパーに買い物に来た。家から一番近いし、他のスーパーより安いし。「元気になるたまご」はまだ売っていた。「もっと元気になるたまご」に変わるって言ってたのに。レジで支払いを済ませてレシートを見た。

元気になるたまご chg ¥298

 気には、なるけどね。もういいよ。気にしないことにする。店長さん、ありがとう。

(2350文字)


※シロクマ文芸部に参加しています

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