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第一話 僕はなんて言えばいいのだろう #悲しきエイリアンの最期

 夜に降るペットボトルは炭酸水が多い。
 この星では水道の蛇口をひねれば飲み水が出る時代はとっくに終わっている。高額な浄水器を買えない者は、市が朝昼晩の三回、ノロノロと走るトラックからばら撒くペットボトルを拾うしかない。白いキャップが飲み水で、青いキャップは炭酸水なのだが、夜の回は七割くらいが青いキャップのペットボトルのような気がする。
 僕の職場の同僚は「夜は酒を割るのに使う人が多いからじゃないかな」などともっともらしいことを言っているが、そんな配慮はして欲しくない。飲み水をくれ。肺を患っている幼い妹が薬を飲むのに必要なのだ。両親は妹と同じ病気で数年前に亡くなった。飲み水は僕が仕事終わりにトラックを追いかけて拾い集めるしかないのだ。

 今日はいつにも増して青いキャップが多い気がする。くそっ!もっと白いキャップを投げろよ。

 青、青、青、青、白!

 来た!でも、たったの一本。
 高齢者のための代行サービスをしている男達に全て拾われてしまった。ダメ元で一本だけでも分けてもらえないかと頼んでみたが断られた。それだけじゃない。これ以上ないような蔑んだ目で見られた。高齢者のための飲み水を欲しがるなんて。声に出して言われなくても分かる。そうだよ。高齢者のための水でもなんでも欲しいんだ。必要なんだ。

「ちょっとあなた。飲み水が欲しいのですか?」
 トラックを追いかける者の服装としては珍しい、タキシード姿の男に声をかけられた。
「はい。どうしても欲しくて……妹に、薬を飲ませるために」
 僕は少し期待して事情を話してしまった。
 男は心底気の毒に思っているような顔をして言った。
「それはお困りでしょう。どうです?私の持っている飲み水一本とあなたの持っている炭酸水三本を交換しませんか?」
 三本と一本か。親切な人かと思えば足元を見られている。
「いやー私も困ってまして。これから大事なお客様とお酒を飲むのですが、炭酸水が足りないのです。こちらが飲み水一本で恐縮ですが、どうでしょう?」
 なるほど、この男の事情は分かった。僕にとって炭酸水も大事だが飲み水には代えられない。
「分かりました。交換させてください」
 男は笑顔になって僕に白いキャップのペットボトルを渡してきた。代わりに僕は青いキャップのペットボトルを三本渡した。
 男に一応礼を言って時計を見ると妹が薬を飲む時間が迫っていた。早く帰らないと!

 自宅まで休まず走った。帰宅すると、妹が咳をしながら出迎えてくれた。
「遅くなってごめんな。今、水出すから」
 僕は白いキャップのペットボトルを鞄から取り出し、急いでキャップを開けた。すると、ブシャーッという音がしてペットボトルから勢いよく水が吹き出し、妹の顔にかかった。
 炭酸水!?騙された!
 僕は怒りで我を忘れて立ち上がり、外に出ようとした。すると、妹が聞いたこともない大声を出した。
「お兄ちゃん!私、濡れてる!タオル取って!」
「あ、ごめん」
 僕は急いでタオルを持ってきて妹の濡れた顔を拭いた。しかし、妹の目から涙が溢れてきて妹の頬がまた濡れてしまった。
「お兄ちゃん、ごめんなさい。私、本当はね、炭酸水でもお薬飲めるんだよ。だから、もう無理して飲み水持って帰らなくてもいいの。危ないことはしないで。私、お兄ちゃんがいなくなったら嫌だよ」
 僕はなんとか頷いて部屋の隅に移動した。そして、妹に背を向けて腰を下ろし、膝を抱えた。

(1400文字)


※シロクマ文芸部に参加させていただきました

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