【熊本オフグリッドプロジェクト⑤】週末から始める“生き延びる畑”
──農業知識ゼロからの食料レジリエンス設計
完全な自給農業を目指すわけではない。
この構想において、農業とは“日々の糧を得る手段”ではなく、将来の供給不安や物流停止に備えた、生存のための基礎インフラである。
そしてスタート地点は明確だ。農業知識ゼロ・週末しか通えない・不定期滞在──この条件から、何が可能で、どこを目指せるのか。
この章では、その現実的な立ち上げ戦略とゴール設計を示す。
1. 知識ゼロ・週末農業でも成り立つ設計にする
──と、その前に、現実を直視する必要がある。
● 中山間地の畑は、柵がなければ“餌場”になる
熊本の山中で畑を作るなら、まず獣害(シカ・イノシシ・ハクビシン等)への防御が絶対条件になる。
特に週末管理前提=人がいない時間が長い場合、彼らにとっては“安全な餌場”でしかない。畑の完成=食べ放題オープンになる。
→ 柵は「追加装備」ではなく「畑の一部」と考えるべき。
シカ:90〜120cmあれば物理的には防げるが、地形次第では飛び越える
イノシシ:下から掘る。地面に沿って金網+杭を打つ必要がある
完全囲いが基本。畑を家のすぐ横に作ることも効果的(威嚇力)
→ 初期設計時に「囲うこと」が組み込まれていない畑は、ほぼ確実に全滅する
基本は「水さえあれば放置しても死なない」作物から始める
芋類(じゃがいも・さつまいも)
豆類(そら豆・黒豆・大豆)
葉物(小松菜・チンゲンサイなど短期ローテ)
ネギ・ニンニクなど「放置型」作物も組み込む
→ 毎週手入れしなくても“死なない構造”が重要
2. 手間を省くための構造設計を先にやる
高畝で水はけを確保+畝間に有機物を積み上げるパーマカルチャー方式
水やりは「湧水 or 雨水+簡易給水ライン」設置が鍵
防獣ネットや簡易フェンスで“やられにくい”環境にする
マルチ(草抑え)や敷き藁で管理負担を大幅軽減
→ 「作業」ではなく「構造」で解決できることを先に設計する
3. 保存と再生産を考慮した作物選定
乾燥豆・根菜類・芋類 → 保存性高い
トマト・きゅうり → 保存向きでないが調味加工で活用可能
種取りできる在来種を組み込むことで、数年スパンでの“再生可能性”を確保
→ 目指すのは「一度種が手に入れば、2〜3年自走できる畑」
4. 鶏は次の段階で導入
卵=毎日採れるタンパク源、かつ保存可能(燻製・塩漬け)
飼料は野菜くず・雑草・コメぬかなど、循環できる
雑食で病気に強く、雑草処理や虫除けにも寄与
→ ただし世話が必要なので、週末拠点が“ほぼ常駐”に近づいてからが適正タイミング
5. ゴールは「収量」ではなく「安定性と再開可能性」
数ヶ月手入れできなくても、再開すればすぐ立ち上がる土壌
他の家族や仲間が代行可能なシンプル構造
加工・保存で“時間を引き延ばせる”作物設計
→ ゴールは“自立農家”ではなく、“生活の延命力を持つ畑”
結論:種が蒔ける場所を作ることが、備えになる
──と、色々書いたが、正直な話。
まずは現地の農家と仲良くなるのが一番早い。
教科書も動画も大事だが、近所の畑を見て、苗をもらい、失敗を笑ってくれるおばちゃんがいれば、畑は回る。
「土を知る」前に、「人と繋がる」こと。
自給とは、孤立ではなく、“支え合える構造”を自前で作ることでもある。
農業はゼロからでも始められる。だが、失敗の許されない畑ではなく、失敗しても次が蒔ける畑にすることが、この構想における戦略だ。
つまり:
生き残るために農業を始めるのではない。
生き残れるように、農業の“土台”だけは作っておく。
この段階から、拠点は“食べ物がある場所”へと進化し始める。
