【小説】雪のスターマイン
Saka.先生の夏祭り企画への参加作品です。
テーマは[B]私だけの夏祭り(創作)
さっそくいってみよー(どこへ?)
『雪のスターマイン』
「この恋が、冬を越せないことを、僕は知っていた。」
湖上のスターマインが、水平線にそって、闇を切り裂く瞬間、目の前に立っていた雪の少女に、どうしても手を伸ばさずにはいられなかった。
半円が湖面に反射し、円形に輝く純白のスターマイン、それは愛の始まりと、同時に別れの瞬間だった。
第一話 出会い
台湾の学校の新学期は9月はじまりだ。
つまり台湾の夏休みは、7月と8月の2ヶ月で、新学期が始まる時期は9月1日だ。
日本の駐在員が集まる日式居酒屋に、夏休みのバイトで働いていた彼女は、活気ある陽気な居酒屋に似合わず、何をしても笑わなかった。
青白い顔で、HOSHIZAKIの巨大な冷凍庫の前に、白い浴衣を着て、佇んでいた。
日本人向けの居酒屋は高い、でも駐在員は長い台湾生活で、高いお金を払ってでも、どうしても日本の味を楽しみたい時がある。
僕はこの台湾で、半導体向け装置のメンテナンスエンジニアとして、土曜も日曜も、朝でも昼でも真夜中でも、生産設備にトラブルがあれば、瞬時に現場に行き、状況を確認し復旧する。
この土日も休まず復旧工事で、夕方ようやく食事にありつけた。
お店に入るとむわっと、炉端焼き特有の熱気と、元気の良い掛け声がこだました。
「まいどー、ヒロくん、生でいいかい?」
カウンターに腰かけると、気さくな店長が、僕の顔を見るなり、お通しのマグロ山かけをスッと目の前に置いてくれた。
「あっ、はい、ありがとうございます!あと、ほっけと、白メシもよろしく」
「あいよ!」
ユキちゃん、カウンター1番さんに、生1つねー
浴衣を着た少女が、音もなく、よく磨かれた木製のカウンターに、コトっとやさしく置いた。
あまりの反応の速さにおもわずギョッとした。
「あ‥ありがとう」
置いたと同時に、カウンターと厨房の間にある、ビール瓶と、冷えたジョッキが入った冷蔵庫の前にスッともどった。
その姿は、どこか幽霊を彷彿させた。
飲み終わり、会計を済まそうと、レジに向かうと、浴衣の少女が、ガラの悪そうな日本人のおっさん達にからまれていた。
「キミかわいいねー、日本語わかる?」
失礼な客だ、日本の居酒屋で働いてるなら、わかっているはずだ、見下した態度に、同じ日本人ながら、腹が立つ。
「あー、すいません。急いでるんで、会計終わったら外に出てもらえますか?」
「は?なんだテメェは、今お話してんだよ」
「いや‥明らかにイヤがってるでしょ、ハズかしいんで、外出てもらいいますか?」
こういう輩に弱気な態度はダメだと思い、食い入るように、冷たい目線で、僕はグイッと前に仁王立ちした。
「けっ!カッコつけやがって、しらけたぜ、行こうぜ」
ガラの悪そうなオヤジたちが、バツが悪そうにゾロゾロと、店の外に出ていく。
浴衣の少女はぺこりと頭をさげて、厨房のほうへ下がった。
しばらくして、厨房からマスターが出てくる。
「ごめん、ごめん、ヒロくん、いやー助かった、あのお客さんちょっと困ってたんだよ、間に入ってくれてありがとう。」
いや、単純にイラッとしたんで、こちらこそ余計なことして、すいません。
冷蔵庫の前で、少し顔を赤らめた彼女が、申し訳なさそうに佇んでいた。
第二話 初恋
ユキは大学の夏休みの最後に、日本に旅行するために、日式の居酒屋で働くことにした。
大学の友達によれば、簡単な日本語がしゃべれるだけで、他の飲食店で働くより、2倍近いバイト代がもらえるらしい。
ユキは日本語に自信はなかったけど、実家が昔からアイスクリーム屋をやっていたので、客商売にはなれていた。
まあ、なんとかなるか‥
軽い気持ちではじめたが、思いのほかガラの悪い日本人客が多く、日本語がわからずモタモタしていると、酔った勢いもあるのか、罵声を浴びることもしばしばだった。
店長は気さく人だったけど、お客さんも多く、店長が厨房に入ってしまうと、とたんにホールの対応は修羅場だった。
でも、そんな忙しい日々の中で、いつもゆったりとして、お店の終わりくらいの時間にひょっこりくる、筋肉質で何かスポーツでもしてるような青年が、一人でカウンターで飲んでいた。
遠目に見ていると、その人はこのお店の常連らしく、マスターと仲良さそうに、話しているのをよく目にした。
ガラの悪い日本人の中で、そのお客様はマスターのかわりにお店のスタッフを気遣ってくれて、日本語がつたない、アルバイトのスタッフが困っていると、いつも助け舟を出してくれていた。
第三話 暗転
いつものように、仕事が終わり、居酒屋に向かう、今日はマスターが不在のようだ。
ふと冷凍庫の前に目を向けると、浴衣の少女が僕に気がつき、口の形でナマ?と合図をした。
うんとうなずくと、スッと生🍺が置かれた。
「昨日はありがとう」
バイトをはじめた頃は、つたない日本語だったけど、いつの間に日本語上手になったな。
関心してジッと浴衣の少女を見ると、少し顔を赤らめて、目をそらした。
這家餐廳的工作人員總是穿著浴衣嗎?
このお店のスタッフはいつも浴衣なの?と中国語で話しかけると、その少女はハッとして、この夏だけだと、中国語で
我通常不穿浴衣,只有夏天才穿。
と返ってきた。
なるほど、夏だけのキャンペーンか何かなのか‥
僕が中国語を話せると思い、安心したのか、その後、仕事と合間でよく二人で話すようになった。
第四話 秘密
ユキは人に言えない秘密があった。
白血病で、おそらく冬まで生きられない。
白血病とは、造血幹細胞という、血液の元となる細胞ががん化し、無秩序に増殖する血液のがんだ。
ユキは自分が白血病になり、はじめてその病気のことを知った。
白血病細胞が骨髄を占拠することで正常な赤血球、白血球、血小板の産生が低下し、貧血、感染症、出血などの症状が現れる。
医者にはもって、3ヶ月といわれた。
でも、ユキには夢があった。
お金をためて、日本語の学校へ行って、やさしい日本人の彼氏をつくって、浴衣を着て花火を見てみたい。
第五話 別れ
ユキを連れて空港へ
ユキの小ぶりのスーツケース、海外旅行にしてはつつましい、小さな荷物だった。
だいじょうぶ?
顔をのぞきこむように問いかけと、小さくうんとうなずいた。
ああ‥コレはダメなヤツだ
台中のバスステーションから、桃園空港までの高速バスに乗る、昼過ぎの便だから、大阪のホテルに着くのは夕方くらいかな、大阪に着いて、滋賀まで車で飛ばして、20:00には琵琶湖に着けるか‥
最後に花火だけは見させてあげたい。
それがユキとの別れになるとは知らなかった。
でも、花火をバックにほほえむ、浴衣姿のユキが、フラッシュの残像のように、いつまでも僕の網膜に焼きついている。
(おわり)
EDテーマ「雨景色」
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
