賃金カットは合法? 違法になるケースと最新判例をわかりやすく解説!
「会社の業績が悪化して、賃金カットになりそう…」 「給料を減らされるなんて、法律的に問題ないの?」
近年、企業の業績悪化や経営合理化に伴い、賃金カットが話題になることが増えています。 賃金は労働者の生活の基盤となる重要な要素であり、安易な賃金カットは労働者の生活を不安定にさせる可能性も。
そこで今回は、賃金カットの合法性と、違法になるケース、さらに最新の判例や動向をまとめました。 賃金カットにまつわる疑問や不安を解消し、正しく対処できるよう、ぜひ最後まで読んでみてください。
賃金カットの法的根拠
賃金カットは、労働基準法、労働契約法、民法などの法律に関連しています。 これらの法律を踏まえ、賃金カットが認められるケースと認められないケースを整理してみましょう。
賃金カットが認められるケース
賃金カットは、労働者の生活に大きな影響を与える可能性があるため、慎重に行う必要があります。 法律に基づき、正当な理由と手続きを踏まなければ、賃金カットは無効になる可能性があります。
1. 労働者との合意がある場合
会社と従業員が減給について合意している場合、賃金カットは適法となります。 ただし、合意は労働者の自由な意思に基づくものでなければなりません。 会社から解雇や退職を迫るなどして、労働者を無理やり同意させることは許されません。 また、減給後の賃金が最低賃金を下回ってはいけません。
後日トラブルにならないよう、合意内容を明確にした同意書を作成しておくことが重要です。 労働基準法第24条1項では、賃金全額払いの原則の例外として、「労使の書面による協定」がある場合に、賃金の一部を控除できると定めています。 この「労使の書面による協定」とは、例えば、以下の費用を控除する合意を指します。
社員旅行の積立金
賃金過払いが生じた場合の過払い分
会社が推奨する銀行以外の金融機関口座に振り込む場合の振込手数料
2. 就業規則の変更による場合
就業規則を変更して賃金カットを行う場合、以下の条件を満たす必要があります。
変更後の就業規則を労働者に周知させる
就業規則の変更が合理的なものである
就業規則の変更が合理的なものであるかどうかの判断は、以下の要素を総合的に考慮して行われます。
労働者の受ける不利益の程度
労働条件の変更の必要性
変更後の就業規則の内容の相当性
労働組合等との交渉の状況
その他の就業規則の変更に係る事情
これらの要素は、単独で判断されるのではなく、相互に関連して判断されます。 例えば、賃金減額の必要性が高い場合でも、労働者の受ける不利益が著しく大きければ、合理性が認められない可能性があります。 逆に、賃金減額の必要性が低い場合でも、労働者の受ける不利益が小さければ、合理性が認められる可能性があります。
就業規則の変更による賃金カットは、会社の一方的な判断でできてしまうため、労働者の不利益が大きくなりすぎないように注意が必要です。 そのため、就業規則を変更する場合は、労働組合と協議を行い、労働協約で規定する賃金の部分を変更するなどの手続きが必要となります。
3. 懲戒処分として減給する場合
就業規則に懲戒事由として減給が定められている場合、労働基準法の範囲内で減給することができます。 ただし、労働契約法15条では、懲戒処分が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でないと認められる場合は、権利の濫用として無効となると規定されています。 そのため、懲戒処分として賃金カットを行う場合でも、その処分が妥当なものであるか慎重に判断する必要があります。
減給の限度額は、以下の通りです。
1回につき平均賃金の1日分の半額まで
1賃金支払期における賃金総額の10分の1まで
減給の限度額は法律で定められているため、就業規則でこの限度額を超える減給処分を規定することはできません。 また、減給処分は、1回の違反行為に対して1回限り行うことが認められています。 例えば、1年間減給する、6か月間減給するといったように期間を決めて減給することはできません。
さらに、労働基準法第91条に基づき、従業員に対する減給の適用範囲や期間には厳密な制限があります。 就業規則や懲戒規定を確認し、法律の範囲内で減給処分を行うようにしましょう。
4. 人事異動や人事評価による降格に伴う減給
人事異動や人事評価により降格となった場合、それに伴い賃金が減額されることがあります。 これは、企業の人事権の行使として認められています。 ただし、降格を伴わない賃金変更の場合は、労働基準法第91条の減給の限度額が適用される可能性があります。
就業規則に規定があれば、人事評価の降格に伴う減額は法的に問題ありません。 実務上は、職務内容と等級、および給与を連動させた「職務等級制度」を運用していることが重要です。
5. 会社都合による減給
会社業績悪化などにより、会社都合で賃金カットを行う場合があります。 会社都合による減給を行う場合は、労働契約法第9条、第10条に基づき、適切な手順を踏んで労働者と個別の合意を得るか、合理的な手順で実施する必要があります。
会社都合による減給の例としては、以下のようなものがあります。
一定の雇用を確保しつつ企業の維持存続を図るため
近い将来においても売り上げが好転する兆しはなく、人件費を抑制する必要があるため
6. 調整給
調整給とは、基本給に加えて支給される賃金のことです。 調整給は、歩合給やインセンティブと同じ性質を持っており、原則として基本給+業績給という形で支払われるケースが多くあります。 仕事の成果に連動するため、受注金額が目標に達しないなど、個人の業績が振るわなければ調整給は減額となります。 ただし、従業員が納得できる明確な評価基準が求められます。
就業規則等に調整給の減額について基準がなければ、減額する根拠がないため減額できません。 また、従業員の問題行為を理由に調整給を減額することは、労働条件の不利益変更として、無効と判断される恐れがあります。
7. 賞与
賞与は、労働基準法第11条において賃金の一種とされていますが、使用者に賞与の支給を義務付けるものではありません。 賞与を支給するかどうかは、使用者の裁量に委ねられています。
ただし、業績不振といった減額の理由が明確に認められなければ、賃金の未払いの問題が生じる恐れがあります。 「夏季と冬季に〇か月分を支給する」というように賞与の額が決められている場合、減額や賞与カットは賃金未払いとして、労働基準法違反となります。 賞与の支払い条件を変更するのであれば、不利益変更に該当し、個別の同意や労働協約の締結が必要です。
賃金カットが認められないケース
1. 会社の一方的な賃金減額
労働者の同意を得ずに、会社が一方的に賃金を減額することは、原則として認められません。 これは、賃金が労働者の生活の基盤となる重要な要素であり、会社側の一方的な決定による賃金の減額は、労働条件の不利益変更にあたるためです。
2. 労働基準法91条の限度額を超える減給
懲戒処分としての減給の場合、労働基準法で定められた限度額を超える減給は無効となります。
3. 不当な目的・理由による減給
妊娠・出産、病気、労働組合活動などを理由とした減給は、違法となります。 また、ノーワーク・ノーペイの原則により、労務の提供がない期間に対応する賃金は支払わなくてもよいとされていますが、欠勤控除は厳密には減給の罰則ではありません。
4. 最低賃金を下回る減給
減給後の賃金が、最低賃金を下回ることはできません。
5. 不合理な就業規則の変更による減給
就業規則の変更による賃金カットは、変更内容が合理的なものでなければなりません。 労働者の受ける不利益が大きすぎる場合や、会社側の必要性が低い場合は、合理性が認められない可能性があります。
賃金カットに関する判例
賃金カットに関する判例は、状況によって判断が異なるため、個別の事案に合わせて検討する必要があります。 ここでは、賃金カットが有効とされた判例と無効とされた判例をいくつかご紹介します。
賃金カットが有効とされた判例
日本鋼管事件
労働協約に基づく賃金改定により、若年層・中堅層の待遇改善を図る一方で、55歳以上の組合員に対しては月額最大で約3万円の減額が生じた事案。
裁判所は、このような賃金改定も不合理ではなく、憲法上の平等原則や労働基準法第3条等に反するものではないと判断しました。
キョーイクソフト事件
年功序列型の賃金体系から、能力・成果主義型の賃金体系に移行した際に、一部の従業員に減額が生じた事案。
移行に伴い試行期間を導入し、調整給を支給するなどの経過措置を設けていたこと、反対者には団体交渉を行っていたことなどから、裁判所は賃金減額を有効と判断しました。
賃金カットが無効とされた判例
みちのく銀行事件
役職定年制を導入し、55歳以上の行員に対して賃金減額を行った事案。
最高裁は、高齢の特定層のみに不利益を受忍させることは相当でないと判断し、就業規則変更の合理性を認めませんでした。
全日本検数協会事件
経営悪化を理由に基準内賃金を一律50%カットする就業規則変更を行った事案。
裁判所は、労働者の不利益があまりにも大きいとして、就業規則変更の合理性を否定しました。
幸福銀行事件
銀行側が業績悪化を理由として、従業員の賃金・一時金・退職金の平均30%を一方的に減額した事案。
裁判所は、労働契約において賃金は最も重要な契約要素であり、これを従業員の同意を得ることなく、一方的に不利益に変更することはできないと判断しました。
行政通達
行政通達とは、行政機関が、法令の解釈や運用について、部下や関係機関に示す指示や通知のことです。 賃金カットに関しても、厚生労働省からいくつかの行政通達が出されています。
例えば、労働条件通知書や就業規則に明記してある給料の額よりも実際に支払われる給料の額が少ない場合、労働基準法第24条違反(給料の一部不払い)となる可能性があるとされています。 また、就業規則の変更に伴う労働条件の変更等については、都道府県労働局等に設置されている総合労働相談コーナーの利用が推奨されています。

学説
賃金カットに関する学説は、法令や判例の解釈、社会通念などを踏まえ、様々な見解が示されています。
例えば、会社都合による賃金カットについて、労働者の受ける不利益の程度が大きいほど、会社側の必要性も高くなければならないという見解があります。 また、業績悪化の責任は経営者にあるため、賃金カットによる不利益は、経営者などの上層部に大きく、一般従業員に小さくするのが当然であるという見解もあります。
これらの学説は、賃金カットの妥当性を判断する際の参考となるでしょう。
賃金カットの最新動向
賃金カットに関する法令や判例は、時代とともに変化していく可能性があります。 常に最新の情報に目を向け、適切な対応をとるようにしましょう。
近年の裁判例
日本HP事件
管理職から非管理職への降格に伴い賃金が減額された事案。
裁判所は、就業規則や降給規程に降格に伴う賃金減額の根拠となる規定がなかったため、賃金減額を無効と判断しました。
この判例から、賃金減額を行う場合は、就業規則などに明確な根拠規定を設ける必要があることがわかります。
年俸制における固定残業代分の減額が無効とされた事例
年俸制で就労する労働者に対し、固定残業代を複数回にわたり減額した事案。
裁判所は、減額の手続きが合理性・透明性に欠けており、年俸決定権限の濫用にあたると判断し、減額を無効としました。
この判例は、年俸制であっても、賃金減額を行う際には、公正で透明性のある手続きを踏む必要があることを示しています。
同一労働同一賃金
近年注目されているのが「同一労働同一賃金」の考え方です。 これは、同じ仕事をしている正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で、不合理な待遇差をなくすというものです。
この考え方は、定年後再雇用時の賃金にも影響を与えています。 例えば、定年前と同じ仕事をしているにもかかわらず、定年後再雇用されたことで賃金が大幅に減額された場合、同一労働同一賃金に違反する可能性があります。
今後、同一労働同一賃金の考え方が、賃金カットの判断においても重要な要素となる可能性があります。
今後の動向
働き方改革や少子高齢化などの社会情勢の変化に伴い、賃金制度や労働条件は今後も変化していくと考えられます。 企業は、法令や判例、社会通念を踏まえ、従業員にとって納得感のある賃金制度を構築していく必要があるでしょう。
まとめ
今回は、賃金カットの合法性、違法になるケース、判例、最新動向について解説しました。
賃金カットは、労働者の生活に大きな影響を与える可能性があるため、会社は慎重に行う必要があります。 賃金カットを行う場合は、法律に基づき、正当な理由と手続きが必要となります。 判例も参考にしながら、個別の事案に合わせて適切な対応をとるようにしましょう。
特に、近年の裁判例や同一労働同一賃金の考え方は、今後の賃金カットの判断に大きな影響を与える可能性があります。 企業は、これらの動向を注視し、適切な賃金制度を構築していく必要があるでしょう。
参考資料
厚生労働省ウェブサイト
労働基準法
労働契約法
民法
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の法律相談には対応しておりません。具体的なケースについては、弁護士や労働基準監督署に相談してください。本記事の内容に基づいて生じた問題について、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。
