いいんだよ、遊んできな
窓を開けていないのに、部屋に蝶がいた。
最初に見つけたのは、サンルームのあたりだった。
観葉植物を置いているので、その影響なのかもしれない。
不思議ではあったけれど、駆除しようという気にはならなかった。
ただ、しばらく様子を見てみようと思った。
小さな扇風機を回して、サンルームの空気を循環させる。
その中で、蝶は静かにそこにいた。
モンシロチョウのようだった。
幼虫らしきものは見当たらない。
どこから来たのだろう。
そんなことを考えながら眺めていると、少しだけ癒されている自分がいた。

昨夜帰宅してから、今朝にかけて。
蝶はずっと同じ窓辺にいた。
じっとしていて、少し元気がないようにも見えた。
私は、普段ほとんど開けていない窓ガラスを開けてみた。
これで外へ出ていくだろうかと思った。
けれど、蝶は動かなかった。
そっと息を吹きかけてみる。
すると、ようやく羽を動かした。
それでも、すぐには飛び立たない。
まだここにいたいのかな。
そんなふうに思った。
そのとき、心の中で自然に言葉が浮かんだ。
いいんだよ、遊んできな。
声に出したのか、心の中だけだったのか。
今となっては、少し曖昧だ。
でも、その言葉をかけたあと、
蝶はふっと軽くなったように見えた。
そして、窓の外へ出て、
高く飛び立っていった。
すぐに視界から消えると思っていた。
でも、そうではなかった。
目の前にあった他人の自転車にとまり、
しばらくこちらを見ているように見えた。
もちろん、本当に見ていたのかはわからない。
ただ、私にはそう見えた。
それだけで、その朝の時間は、
ただの出来事ではなくなった。
私は窓ガラスを開けたまま、
しばらくその様子を見ていた。
戻ってくるのかな。
そんなことまで思った。
でも、戻ってこない。
それでも窓は開けたままにして、
朝食の準備をした。
準備が終わって、もう一度窓辺へ行く。
そこには、もう蝶の姿はなかった。
ほんの短い時間だった。
それなのに、朝ごはんを食べながら、
私はずいぶん長い余韻の中にいた。
自然界へ旅立っていった。
ただそれだけのことかもしれない。
特別なことではないのかもしれない。
でも、涙がこぼれた。
命のリレーのようなものを感じたのかもしれない。
いや、そこまで大きな話ではないのかもしれない。
ただ、心が動いた。
それだけは確かだった。
蝶は成虫だから、きっと長くは生きない。
そう思うと、少し切ない。
それでも、外の世界へ飛んでいけてよかったと思う。
そして、ふと思った。
もしかしたらあの蝶は、
窓ガラスを開ける習慣は大事なんだよ、
と教えに来てくれたのかもしれない。
部屋の窓だけではない。
心のどこかの窓も、
ずっと閉じたままにしていないだろうか。
そんなふうにも思った。
いつかまた、窓の外にそっととまっていたらいいなと思う。
もし一匹でも仲間を連れてきたなら、
そのときもまた、そっと入れてあげよう。
そして、帰りたくなったら、
きっとまた同じように言うのだと思う。
いいんだよ、遊んできな。
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