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嫌いなあの人を「見張る」ために、私は今日を生きているわけじゃない

どうしても、どうしても気に障って仕方ない人がいる。

ある日、会社で同僚にそう愚痴った。

「なんであの人がいちいち注意するわけ?
 関係ないじゃない。そんな立場でもないのに、偉そうじゃない?」

鼻息荒くプンスカ怒る私に、同僚は「うんうん」と頷く。

「しかも、ずっと人の仕事を見て粗探ししてるんだよ。
 自分の仕事に集中しろっていうの!」

「そうだよねぇ。」

「本当にストレスたまるわ!」

話すほどヒートアップしていく私に、彼女はふと尋ねた。

「あなたは直接何か言われたの?」

私はすっと眉をひそめた。

「私は言われてないんだけどね。」

「……。」

「いや、そうだよ。わかるよ。私に言われたわけじゃない。
 でもさ、人が言われているのを見るのも嫌じゃない?
 それに、ずっと人がやった仕事の確認ばっかりしてるし。」

「まぁそうだねぇ。
 でも彼女が人の仕事を後からこっそり確認してるなんて、
 私は知らなかったよ?」

「え?まじで?いっつも人の書類を取ってみてるじゃん。」

同僚は首をかしげて、うーんというと

「私の席からは彼女は見えないし、
 なんだったらあなたの席からも彼女の席はみえなくない?」

「うん。見えない。だけど、彼女が席を立つとわかるんだよね。」

同僚は私の顔をじっと見た。

「それって。

 あなたも彼女を見てるってことじゃない?」

「・・・うん。見ちゃってるかも。」

「だよね。」

同僚は笑っていった。

「もうさ、見なきゃいいじゃん。」

その言葉に私は頭が真っ白になる。

「そうなんだけど見ちゃうんだよ。だって気になるじゃん!
 次は私がやった仕事に注意してくるんじゃないかって。
 私の仕事に『いちゃもん』つけてくるんじゃないかって。」

「いちゃもん(笑)。でもさ、まだ注意されてないじゃん?
 気にするだけ損じゃない?」

「損?」

私は同僚を見た。

「まだ起きていない嫌なことのために、
 自分が気に障って仕方ない人を一日中見てるなんて、
 ストレスでしかないじゃない。」

「……確かに。」

同僚に言われて気が付いた。
私は知らず知らずのうちに、
嫌いなもののために一日の時間の結構な割合を使っていたらしい。

その事実に愕然とした。

さらに考えてみれば、その人は私の一日を奪おうとしていたわけではない。
勝手にその人を観察し、勝手に未来を不安がり、
勝手に腹を立てていたのは私の方だった。

嫌いな人を見続けるということは、
その人に自分の意識と時間を差し出し続けることなのかもしれない。

それなら、その時間を好きなことや大切な人のために使った方がいい。

そう思った瞬間、不思議と胸の奥が少し軽くなった。

嫌いな人を許せなくてもいい。

ただ、その人に自分の大切な時間まで渡さなくていいのだ。

嫌いな人は、明日もきっと同じようにそこにいる。

けれど私は、その人を見張るために生きているわけじゃない。

「なんか、ありがとう。」

私は同僚を見て笑う。

同僚も私を見て笑う。

「どういたしまして。帰り、少しだけ買い物していかない?
 新しいコスメが欲しいの。」

「いいね。」

新しいコスメ。

美味しいスイーツ。

日が暮れるのが遅くなった夏の空の色。

好きな本の続き。

私の毎日には、目を向けるべきものがたくさんある。
そのことを思い出したとき、
私はようやく嫌いな人から少し自由になれた気がした。

嫌いな人を許せたわけではない。
けれど、嫌いな人のために使う時間を少し減らすことはできそうだった。
それだけでも、十分な前進なのだと思う。

明日の私は、今日より少しだけコスメを見る時間が増えるかもしれない。
スイーツを味わう時間が増えるかもしれない。
本のページをめくる時間が増えるかもしれない。
その分だけ、嫌いな人のために使う時間は減っていく。

それはきっと、私が私の人生を取り戻していくということなのだ。


帰り道、同僚と歩きながら思った。
私、褒め言葉も
届けるべき場所を間違えてたかもしれない。


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妃沙 彩未 「続きを読みたい」「また見たい」と思っていただけたことが何より嬉しいです。 いただいたチップは、これからの創作活動に大切に役立てます。