第1章 夏休みの秘密基地 (背中)

(コッソリ買ったパソコン)
トントン!トントン!!
6畳一間に響き渡る釘を打ち進める音。
飾り棚を設置する為に部屋の壁に穴を空けているのだが、残すところ最後の一カ所となり私は複雑な心境でその場所を見つめていた。
もう引くに引けない。
当初は仮住まいのはずだった。寝具に洗面用品、あとは充電器さえあればそれで良かったはずだった。
「まるで独房みたいな部屋だよ(笑)」
妻にそう言いながらも借りたことを少し悔いていたあの頃が懐かしい。
そう、独房みたいな部屋で良かったのだこの部屋は。
うすうす感じていたし戒めてさえいた。居心地の良い部屋にしてはいけない!自分の色を出してはいけない!! と。
逃げ場が居場所に変わり、元居た場所から関心がなくなるのは思ったより早かった。
あれほど熱心に手入れし愛着のあった家が、今では雑然でヨソヨソシイ場所に変わった。
ご褒美シールが貼られたホワイトボード、目につく場所に置かれた百科事典、色分けされた収納用品と色違いの包丁。
目につくもの全てにあの時の情熱とあの時の挫折が染みついている。
食卓・水回り・玄関・仏壇の掃除。
心を傷みながらもこの場所だけは矜持を持ってやり続けたが、私がいない今、見て見ぬふりさえできる。
そして妻。
私の気持ちを感じ取っているのだろう。いつも背中が暗い。
「ダメな母親でごめんね。私さえいなくなれば皆ごきげんでいれるのに。もう消えたい。何もないところにいきたい」
この家には全てがある。それがたぶん嫌だ。
子供を連れて別宅に行く自分の背中はたぶん明るい。
