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本当に苦しいのは、仕組みに移行している途中

スタートアップが急成長したり、チームに新しいメンバーが増えたりしたとき。

ふと、
「なんだか前より仕事が進めにくくなったな」
と感じる瞬間があります。

組織が大きくなっていく中で、今までと同じようにコミュニケーションが取れなくなる瞬間があるのです。

人数が少ない頃は、誰に何を言えば動くのかが分かっていました。

ちょっとした相談も、口頭で済んでいました。

「これ、お願いできますか」
「了解です、やっておきます」

そんなやり取りで、物事が前に進んでいた。

でも、組織が大きくなると、少しずつそれが難しくなっていきます。

「前はもっと話が早かった」という寂しさ

自分の部門のことは、まだ見えている。

誰が何を考えていて、どこで詰まっていて、何を優先すべきかも、ある程度は分かる。

けれど、他部門になると急に距離が生まれる。

以前なら直接話せば済んでいたことが、

「上司に言ってください」
「稟議を回してください」
「正式な依頼として出してください」

と言われるようになる。

もちろん、相手が冷たくなったわけではない。
むしろ、組織としては正しい対応をしているのだと思います。

属人的なやり取りだけで進めると、抜け漏れが起きる。
誰が決めたのか分からなくなる。
責任の所在も曖昧になる。

だから、育成が必要になり、仕組みが必要になり、階層や承認フローが必要になる。

頭では分かっている。

でも、少しがっかりするのです。

前は、もう少し話が早かった。
前は、もう少し気軽に相談できた。
前は、こちらの意図を分かってくれた。
前は、同じ温度感で動けていた。

そう感じてしまう。

仕組みそのものより、移行期がしんどい

組織拡大で本当に苦しいのは、仕組みがあることではなく、仕組みに移行している途中なのだと思います。

まだ昔の距離感を覚えている。
でも、もう昔のやり方だけでは回らない。
一方で、新しい仕組みはまだ十分に馴染んでいない。

だから、口頭で伝えたことが止まる。
善意の相談が、正式な依頼に変わる。
スピード感が落ちたように感じる。
人と人の間に、急に制度が入ってきたように見える。

この時期は、どうしても摩擦が増えます。

「なんでそんなに面倒になったんだろう」
「そんなに形式ばらなくてもいいのに」
「前みたいに直接話せばいいじゃないか」

そう思うこともある。

でも、それは組織が冷たくなったのではなく、個人の関係性だけで支えられる大きさを超え始めたということなのだと思います。

少人数の強さと、大きくなった組織の強さ

少人数の頃の強さは、近さにありました。
大きくなってからの強さは、再現性にあります。

誰かがいなくても進む。
口頭で聞いていない人にも伝わる。
判断の背景が残る。
担当者が変わっても、同じ基準で動ける。

そのためには、少し面倒でも、言葉にする必要がある。
手順にする必要がある。
合意を残す必要がある。

属人的な強さを、組織としての強さに変えていく必要がある。

ただ、その移行期には、どうしても寂しさがあります。

今までのように直接届かない。
今までのようにすぐ動かない。
今までのように空気で伝わらない。

その寂しさを無視して、「仕組みだから仕方ない」と片づけると、現場の納得感は失われていく。

一方で、寂しさだけを理由に昔のやり方へ戻すと、組織は次の大きさに進めなくなる。

仕組みの中に、人の温度を残す

だから必要なのは、仕組みに移行することと、人の温度を残すことを両立することなのだと思います。

「昔はよかった」と嘆くのではなく、新しい仕組みをリスペクトしながら、そこにどう血を通わせるか。

正式な依頼は必要。
稟議も必要。
上司を通すことも必要。

でもその前に、なぜそれが必要なのかを伝える。
相手の事情を少し想像する。
ただ突き返すのではなく、次に進む道筋を示す。

「それは上司を通してください」だけではなく、

「この内容なら、上司を通してもらえると進めやすいです」
「稟議に必要な観点はここです」
「先に背景だけ聞かせてもらえれば、通し方を一緒に整理します」

それだけで、仕組みは少し冷たくなくなる。

そして依頼する側も、昔と同じ距離感だけを求めすぎないことが大切なのだと思います。

直接話せば分かってもらえるはず、ではなく、相手が組織の中で動かしやすい形に整える。
口頭で伝えるだけでなく、背景や目的を残す。
相手が上司や関係者に説明しやすいように、必要な材料を渡す。

仕組みを面倒なものとして避けるのではなく、相手が動きやすくなるための共通言語として使う。

そこに少しずつ慣れていく必要があるのだと思います。

組織が次の段階に進もうとしているサイン

組織が大きくなるということは、関係性が薄まることではない。

関係性だけに頼らずに、物事を進められるようになること。

でも、その途中はやっぱり苦しい。

昔の近さを手放しながら、次の進め方を覚えていく。
暗黙知を言葉にし、善意を仕組みに変え、個人の信頼を組織の信頼に変えていく。

その移行期に感じる違和感やがっかりは、組織が悪くなったサインではなく、組織が次の段階に進もうとしているサインなのかもしれません。