AIで、経験者の先読みを借りる
AIを使うようになって、仕事の進め方で大きく変わったことがあります。
実行する前に、これから起こりそうなことを、かなり広く想定できるようになったことです。
感覚としては、天気予報に近いのかもしれません。
その場所では何時頃から雨が降りそうなのか。
傘が必要なのか。
強く降るなら、着替えまで用意したほうがいいのか。
天気予報は、雨を止めてくれるわけではありません。予報が必ず当たるわけでもありません。
それでも、雨が降る可能性を事前に知っていれば、準備の仕方を変えられます。
AIも同じです。
未来を正確に言い当てることはできなくても、このまま進むと、どのような結果になりそうなのかを事前に考えることはできます。
たとえば、事業のデータを見ながら、半年後にどのあたりへ着地しそうなのかを予測する。
目標に届かないのであれば、どれくらい不足するのか。
何もしなければ、どこで問題が起きるのか。
悪い結果を避けるには、いつ、何に手を打つべきなのか。
結果が出てから反省するのではなく、起こり得る未来を見ながら、今の行動を変えられるようになりました。
最近、コンペの提案資料をつくる中でも、同じことを感じました。
自分一人で考えていると、どうしても自分の専門や関心に視点が偏ります。
営業系の方なら、売上や成果への効果を聞くかもしれない。
管理系の方なら、費用や運用負荷が気になるかもしれない。
プロジェクトマネージャーなら、体制やスケジュール、リスクへの対応を確認したいかもしれない。
相手の立場ごとにAIと壁打ちをしていくと、本編に必要な資料だけでなく、質疑応答で求められそうな資料まで先に見えてきます。
この数字には根拠が足りない。
この方針を出すなら、実行体制も必要になる。
この提案には、失敗した場合の対応まで用意しておいたほうがいい。
実際に会議室へ入る前に、画面の中で何度もロールプレイができるようなものです。
考えてみると、これは経験者が普段からやっていることに近いのでしょう。
経験のある人は、目の前の資料だけを見ているわけではありません。
「この数字は質問される」
「この説明では意思決定が止まる」
「このまま進めると、数カ月後にここで詰まる」
過去の失敗や修羅場をもとに、少し先の天気を読んでいます。
これまでは、自分自身が同じような経験をするか、近くにいる経験者から教えてもらわなければ、その視点を身につけるのは難しいものでした。
AIが示してくれるのは、本物の経験者が持つ、現場の文脈に即した高度な判断そのものではありません。
それでも、自分では気づかなかった視点を候補として並べ、事前準備の抜けを減らすことはできます。
AIによって、経験者の先読みの一部を、事前に借りられるようになった。
私は、そこに大きな価値があると感じています。
もちろん、AIが出す予報がすべて当たるわけではありません。
現場への理解が浅ければ、見当違いな心配を並べることもあります。可能性を広げすぎて、かえって準備が過剰になることもあります。
だからこそ、使う側にも、現場を見る眼や、何を問いかけるかを考える力が必要になります。
何を重視し、何を捨てるのか。
どこまで備えれば十分なのか。
最後に判断するのは、人です。
AIを使えば経験が不要になる、という話ではありません。
AIは経験を代替するのではなく、経験者の先読みを借りるための道具なのだと思います。
未来を当ててもらうのではない。
起こり得ることを事前に知り、備えておく。
経験は、実際に現場へ出なければ手に入りません。
ただ、その前に天気予報を見ることはできるようになりました。
