見出し画像

「冬木部長にふりかかった『だいたいニャー』の超絶ハッピーな呪縛」ヒスイの毎週ショートショートnote

その野良猫は、はじめから冬木部長に敵対心を持っていた。
寒い1月の夜、おでん屋の入り口いた黒猫。
冬木にくっついて店内に入ろうとしたので、足で蹴とばしたら、にらみつけられたのだ。

「……なんも出来ない猫のくせに」
冬木のつぶやきに、猫はガッキ!と視線をとがらせてにらんできた。
一瞬、腰が引けた冬木は乱暴におでん屋の戸を閉じた。
がっしゃん、という音が牢の閉じた音のようだった。

その夜、帰宅した冬木部長は高熱にうなされた。
夢にあの猫が出てきて、こう言った。

『これは呪いだ。以後、お前は『だいたい』と言いかけたら、ニャーとしか言えなくなるのだ』

目がさめた冬木はつぶやいた。
「……夢だろ」

しかし夢ではなかった。その日以来、冬木部長は『だいたい……ニャー』としか言えなくなったのだ。
不便である。
実に不便である。
なぜなら、冬木は『イヤミ部長』といわれるほど、部下を辛辣に批評することで有名だったからだ。

その日も、新人営業マンにねちねちと尖った言葉をあびせていた。
最後に『だいたいお前は……』と言いかけた時、
ぐるん、と冬木の舌がねじれた。
口が勝手に言う。

「だいたい……にゃ、にゃ、ニャー!」
「えっ」

叱責を受けていた新人が、驚いて顔を上げた。
「……にゃーっていいました、部長?」
「い……いわん! だいたい……ニャー……」
「にゃーって、ニャーって言いましたね!?」
「ううう、うるさい! もういい、行け!」

新人は首をひねりながら戻っていった。
冬木はドスン、と席に座った。

まずい。
このままでは上司の沽券にかかわる。
以後、『だいたいお前は……』を禁句にしよう。


しかし口癖というものは、意識せずに出てくるものだ。
翌日も、翌々日も、やはり冬木の口からは『だいたいニャー』がでてきた。
はじめは聞こえないふりをしていた部下たちが、やがてニヤニヤ笑いながら、期待するようになった。

「部長のあの顔、あの声で『だいたいニャー』っていうの、めっちゃ笑える」
「言わないぞって、むりやり言い換える言葉を探しているときの顔が、たまらん」
「おととい、言いたくて言いたくて、口元がけいれんしてるの見ちゃったよ」
「次はいつ言うんだろうね?」
「早く聞きたい」
「まちきれない」
「たまらない」
「だれか、部長に叱られて来い。聞きたいよ!」

もはや、冬木部長の『だいたいニャー』は、営業部だけの話ではなくなった。
隣の人事部や経理部からも人が来る。
通りすがりに部屋をのぞきこみ、冬木がいないと、ガッカリして帰る人も出始めた。

あるとき、部下の一人が『だいたい……ニャー!』をこっそり録画して、SNSにアップした。

いかつい上司が、口元を震わせて
『だい……だ……ちがう、言わんぞ、お前はな……お前は……だいたいニャッー!!』

ニャーの声が裏返っているのが面白すぎると、SNSで大反響が起きた。
再生回数はあっというまに100万回をこえ、どんどん伸びつづけた。

冬木は口癖に逆らおうとしたが、どうしても出てくる。
しまいには、『だいたいニャー』だけでなく
『そもそも……ニャ』となり
『どうせ……ニャ』
『一体お前は……ニャ』になった。

冬木が使える叱責言葉は無くなってしまった。
冬木はイイ人、いい部長になり、部下に慕われるようになった。

今では、冬木の『だいたいニャ』は叱責するときではなく、
社を挙げてのイベント時に、場を沸かすためだけに使われるようになった。


1年後、冬木はあのおでん屋に行った。
1月の寒い夜、入り口にはあの猫がいた。
冬木はしゃがみ込み、猫に向かって言った。

「……お前のおかげで、おれはすっかり骨抜き、いい部長になってしまった。人生が変わった。
……ありがとうよ」

カラカラと軽い音を立てて扉が開き、冬木はおでん屋に入っていった。
後に残った猫は、かすかに首をかしげた。

『……おれの呪いは”だいたいニャ”だけだ。
”そもそも”だの”どうせ”だの、余計なものまで封印するとは。
おぬし……やるニャ』

にゃん。

【了】

本日は たらはかにさんの #毎週ショートショートnote  に参加しております。お題は裏お題の「だいたいニャ」の字余りバージョンです。

相方ヘイちゃん、戻ってきました。
サクッと【逢いたい菜】を仕上げてます。

この感じ、いいよな。郷愁が刺さるよなあ


いいなと思ったら応援しよう!

ヒスイ~強運女子・小粋でポップな恋愛小説家 ヒスイをサポートしよう、と思ってくださってありがとうございます。 サポートしていただいたご支援は、そのままnoteでの作品購入やサポートにまわします。 ヒスイに愛と支援をくださるなら。純粋に。うれしい💛