《創作BL 1week》夜の喫茶店で【4日目】
開店からしばらく経ち、ふと視線が入口に向く。
いつもなら、そろそろ扉の鈴が鳴る頃なのに、今日はまだ静かだ。
「……今日は遅いな」
自分に言い聞かせるように呟きながら、手元のカップを磨き続ける。
昨日までが少し特別すぎただけだ。
毎日来る理由なんて、三宅さんにはない。
そう思えば思うほど、気持ちは落ち着かなくなる。
閉店15分前。
もう今日は来ないだろう、と半ば諦めて棚に手を伸ばしたそのとき——
扉の鈴が鳴った。
「こんばんは。遅くなって、ごめん」
思わず胸が跳ねる。
でも、顔に出るのが嫌で、慌てていつもの調子を装う。
「こんばんは。いらっしゃいませ。
……大丈夫です、まだ少し時間ありますから」
三宅さんは席につくと、いつもより少し息が荒い気がした。
「今日はさすがに間に合わないかと思ってたんだけど……どうしても、来たくて」
その言葉に、胸の奥が再びざわついた。
「お仕事、遅かったんですか?」
「うん。ちょっと立て込んじゃって。
無理して来たわけじゃないよ。ただ……なんとなく、朔くんの声を聞きたくて」
また、そういうことを言う。
なんの含みもなく、いつも通りの口調で言われただけなのに、胸がざわつく。
「……間に合ってよかったです」
言葉を選びながら返すと、三宅さんがふっと目元を緩めた。
「朔くん、今日は少し元気なさそうだったから」
「え……見て、ないじゃないですか。今日来なかったし」
「でも、なんとなく。そういう日かなって」
――そんなの、どうしてわかるんですか。
言えないまま、淹れた珈琲の湯気だけが静かに立ちのぼった。
閉店後。
片付けをしながら、胸の違和感がずっと収まらない。
——来ないだけで気になるなんて。
そんなの、ただの常連さんに抱く気持ちじゃない。
それでも扉が閉まる直前、振り返った三宅さんの「来られてよかった」の笑顔が、いつまでも離れなかった。
