非パニック映画
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いまではすっかり普通名詞になっている「パニック」という言葉が、日常的に定着したのは、やはり1974年から1975年にかけて「パニック映画」がブームとなったころからだろう。
それより前にも、「大空港」(1970年)や「ポセイドン・アドベンチャー」(1972年)がヒットしていたものの、「パニック映画」という言葉が使われ始めたのは、1974年末にお正月映画として「大地震」と「エアポート’75」が公開されてからだった。そして1975年夏に「パニック映画」の本命「タワーリング・インフェルノ」が大ヒットして、一気にジャンルとして定着した。
「パニック映画」とは何なのか。ざっくり言えば「天災、事故、犯罪などに大勢の人々が巻き込まれる大変な状況を描いた映画」。「大勢の人々」がポイントで、必然的にオールスターキャストの大作映画となる。興行的にヒットしやすいので、その後も、次々と「パニック映画」が誕生し、いまでも作られ続けている。
そうなると、この世界では、そうした「パニック映画」の条件を満たさない、タイトルだけに「パニック」を冠したマガイモノも生まれるわけだ。それも、たくさん。
前にちょっと書いた「スパイダーパニック」もそうしたもののひとつだが、わざわざタイトルに「パニック」と入っている映画は、そのほとんどが500円クラスのマガイモノと思っても間違いないだろう。
だがそんな中にも、素晴らしい映画がたまにある。すごく面白い、優れた作品なのに、タイトルに「パニック」がついたために損をした映画だ。
たとえば、パニック映画ブームのさなかの1975年2月に公開された「サブウェイ・パニック」など、その最たる例だろう。
元傭兵たちがニューヨークの地下鉄をハイジャックし、市当局に身代金を要求するという、まったくの犯罪サスペンス映画。無駄なところが一つもなく、切れ味もリズム感も最高の傑作だ。その後リメイクもされているが、このオリジナルにはまったく敵わない。
原題は「THE TAKING OF PELHAM ONE TWO THREE」 この「PELHAM ONE TWO THREE」とは乗っ取られた地下鉄の運行ナンバー。つまり直訳すると「ペラム123号の乗っ取り」なのだが、日本公開時は乗っ取り犯の銃撃で乗客たちが泣き叫ぶ光景を描いたポスターと、完全に日本オリジナルの「サブウェイ・パニック」のタイトルで、すっかりパニック映画に仕立てられた。
オールスターのパニック大作にくらべればいかにも小粒に見える配役なので、だいぶ損をしたのではないだろうか。とはいえ、ウォルター・マッソー、ロバート・ショウ、マーティン・バルサムと、いい俳優ぞろい。私にとっては、オールタイム・ベストワン級の傑作なのに。
いまでも正当に評価されているとは言いがたいこの傑作。まったく、罪作りな邦題だ。
まったく関係ない話だが、後年この「サブウェイ・パニック」に主演したウォルター・マッソーが主演した別の映画に「マシンガン・パニック」という邦題がついたことがあった。原作はスウェーデンの警察小説の名作『笑う警官』で、英語の原題も「The Laughing Policeman」なのだが、やはりまったくパニック映画ではない。さすがにのちにソフト化される際には「笑う警官/マシンガン・パニック」になったっけ。まあこのテの邦題づけは、よくあることだが。
さて、同じように損をしている「パニックもどき映画」をもう一本あげれば、その翌年に公開された「パニック・イン・スタジアム」だ。
謎の狙撃者がスーパーボウル開催中のスタジアムで観客を無差別に射殺しようとする、こちらも純然たる犯罪サスペンス。だが、主演がミスター大作映画ともいえるチャールトン・ヘストンだし、撃たれる観客役にもそれなりのスターが揃っていたので、クライマックスシーンとあわせて、まあパニック映画といえなくもない。
ただ、そのクライマックスに至るまで、つまり映画のほとんどは、正体不明の狙撃者がどこで何を狙うかを追うヘストン刑事らの捜査を描くので、ぜんぜんパニック映画っぽくないのだ。むしろポリス・サスペンス。
原題は「TWO-MINUTE WARNING」 アメリカンフットボールの用語からきているのだが、しかし「パニック・イン・スタジアム」とはうまくつけたものだとは思う。大作の雰囲気もないではないし。
ただ「正体不明の狙撃者がどこで何を狙うか」を追う捜査を中心にした映画と思うと、このタイトル、微妙にネタバレだよなぁ。まあ予告でもクライマックスシーンをちゃんと出していたし、確信犯か。
映画も、消費者に売る商品である以上、その時点での流行に乗っかる方がいいには決まっている。この2本も、そうしてうまく売られたからこそ私の目にも触れ、面白い映画であることを認識できたのだから「パニック映画」仕立ても効用があったということだろう。
教訓「マガイモノだと思っても、念のために見てみるべし」
損しても、知らないけど(笑)
【本文はこれで全部です。もしもお気に召しましたらご寄進下さい(笑)】
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