史上最強の大横綱〔その2〕
俗に大横綱といわれるのが、以下の優勝20回以上の力士(当然、全員横綱)たちであることに異論はないだろう。
大鵬(優勝32回)、北の湖(24回)、千代の富士(31回)、貴乃花(22回)、朝青龍(27回)、白鵬(33回)。
もちろんこれ以前にも多くの強豪横綱がいるが、場所制度も、優勝制度も、いや相撲のあり方そのものも違うので、数字での比較対象は不可能に近い。大相撲が現在の形態に近くなり、個人優勝制度ができ、東西制や引き分けがなくなった昭和以降、それも優勝決定戦制度ができ、年6場所、年間90番となった戦後からを対象に考えるのが妥当だと思う。
さて、上記の横綱たちの優勝占有率は、以下のとおり。
大鵬(優勝32回)
初優勝 1960年11月場所 最終優勝 1971年1月場所
優勝期間 53場所 優勝占有率 50.7%
北の湖(優勝24回)
初優勝 1974年1月場所 最終優勝 1984年5月場所
優勝期間 63場所 優勝占有率 38.0%
千代の富士(優勝31回)
初優勝 1981年1月場所 最終優勝 1990年11月場所
優勝期間 60場所 優勝占有率 51.6%
貴乃花(優勝22回)
初優勝 1992年1月場所 最終優勝 2001年5月場所
優勝期間 57場所 優勝占有率 38.5%
朝青龍(優勝25回)
初優勝 2002年11月場所 最終優勝 2010年1月場所
優勝期間 45場所 優勝占有率 55.5%
白鵬(優勝33回)
初優勝 2006年5月場所 最終優勝 2015年1月場所
優勝期間 53場所 優勝占有率 62.2%
こうしてみると、現役の白鵬と他約1名をのぞいて、優勝期間がほぼ10年間、60場所前後で共通していることに気づく。なるほど、大横綱の全盛期というのはそれくらいなものなんだな。
なので、優勝回数が多いほど占有率が上がるという、しごく当たり前の結果になった。
そうしてみると、大鵬、白鵬、千代の富士がいかに凄いかも、わかるだろう。逆に言えば、優勝占有率で50%を超える、つまり年6場所中3場所以上優勝するくらいでないと、優勝30回を超えることは出来ないということなのだ。
その差を如実に示すのが、初優勝から10回目の優勝までの期間。いわば大横綱へのスタートダッシュ時期だ。
前回示したように、この間に大鵬は15場所66.6%、白鵬は18場所55.5%。これに対して北の湖は10回目優勝までに25場所を要して占有率も40.0%、貴乃花も25場所45.4%にとどまっている。この差が最終的に優勝回数で10回ほどの差になったということか。
その点、千代の富士は多少パターンが違う。10回目優勝までの所要は24場所占有率41.6%で、北の湖、貴乃花と大差はないが、最終的には31回を積み重ねているのだ。
この原因は、明白だ。その期間に立ちはだかる先輩がいたかどうかだ。これは前回問題にした「同時代に強敵がいたかどうか」にも連なる。
北の湖の場合、このスタートダッシュの時期に、輪島(優勝14回)を筆頭に、魁傑、貴ノ花(初代)、若三杉(のち2代目若乃花)らが花籠一門包囲網を敷いたので、10回目の優勝まで一度も連続優勝がない。千代の富士はスタートダッシュ時期がその北の湖の晩年と重なり、そこに隆の里(優勝4回)もいたりで、3連覇は一度あったものの連続5場所優勝から遠ざかったりもしている。一番きつかったのは貴乃花で、ほぼ同時代に曙(優勝11回)、武蔵丸(優勝12回)のみならず、実兄の若乃花(優勝5回)、そして名大関の魁皇(優勝5回)、千代大海(優勝3回)までいたのだから、「強敵が多くて優勝回数で割を食った」のは、じつはこの貴乃花がナンバーワンなのではないのか。
千代の富士が回数を大きく伸ばしたのはその後で、11回目から20回目までは、所要わずかに13場所で占有率76.9%、21回目から30回目も16場所で62.5%と高い数字を残している。北勝海、大乃国、旭富士らを向こうに回してのものだから決して楽な相手ばかりだったわけではない。まさに大器晩成で、大横綱たちの中でも異色の存在だろう。
この数字で見ると例外中の例外なのが朝青龍だ。スタートダッシュの優勝10回目までに要した場所数はわずかに14場所、占有率じつに71.4%の高率で、他の大横綱たちをはるかに凌駕する。11回目から20回目はさらにすごく、所要12場所占有率じつに83.3%。このまま進めばどうなるかと思われる数字だったが、その後に白鵬が台頭してペースダウンし、ご存じのような事情で晩年を迎える前に引退した。通算の占有率55.5%を考えると、仮にほかの大横綱と同じように10年60場所を勤め上げていれば、たぶん大鵬の記録を白鵬より先に破っていただろう。数字上では。
あくまでも数字の上の可能性だが、こうしてみると大横綱たるには、時代の運もつかまないといけないことが、よくわかる。
長くなったのでこれくらいにして、次回はもう一人、別格の大横綱を取り上げることにしよう。
