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未発売映画劇場「そして誰もいなくなった」(1987年版)

ミステリの女王アガサ・クリスティーの最高傑作ともいわれる(異論あり)『そして誰もいなくなった』は、その殺人数の多さや舞台設定から、やりやすい、あるいは映画人の意欲を駆り立てやすいのか、何度も映画化されてきたことは、これまでも紹介してきましたよね。そのへんはこちら【↓】をご覧ください。

  そして誰もいなくならなかった

  そして誰もいなくなっちゃった

その多くは日本でも公開、発売、放送されていますが、なかには知られざる作品も多いようで、そのうちのひとつがこちら【↓】

  未発売映画劇場「そして誰もいなくなった」(1959年版)

というわけで、第2弾(笑)

「そして誰もいなくなった」列伝の中でも異彩を放つ、ソビエト連邦製の一作であります。

タイトルは「Десять негритят」 読めないぞ(笑) キリル文字でないと「Desyat negrityat」 まだわからん。英語版のタイトルでは「Ten Little Indians」がポピュラーなようです、もともとのロシア語の意味も同じのようです。

ちなみに「アガサ・クリスティー(Agatha Christie)」をキリル文字で書くと「Агатха Чристие」になるそうです。

ソ連映画といっても、あのモス・フィルムではありません。当時のウクライナ人民共和国で作られた映画だそうで(オデッサ・フィルム・スタジオ製作)、現在ではウクライナ映画に分類するほうがいいかもしれませんね。

さて、歴代『そして誰もいなくなった』の映像化では、毎度毎度、次の点が問題になります。

【1】舞台設定 原作ではご存じのように、英国沿岸の孤島。それゆえ「孤島もの」の代表作とされています。にもかかわらず、ジャングルだ雪山だ砂漠だと、映画屋さんはそれを変えたがることは、前にも書きましたね。英国のヤスモノ映画大社長ことハリー・アラン・タワーズは3度にわたってこの作品を映画化したのに、一度も原作どおりの設定にしなかったくらいです。

【2】童謡と島の名称 原作は同時に「見立て殺人」の名作でもあります。「10人の黒人の子(穏当な表現)」というマザーグースの童謡にしたがって次々に殺人が起きるのですが、いろいろなサシツカエがあって原作でも「黒人」→「インディアン」→「兵隊」と童謡のテーマが変わり、それにともなって島の名前も変わっているのですが、それは映画も同じこと。

【3】物語の結末 ネタバレになるので詳しくはいえませんが、原作と結末を変える映画が多いのです。そもそもクリスティー本人もやっているんだから、まあいいんですがね。

さて、ではこのソ連(ウクライナ)版ではどうだったか。

じつは、この3点すべてにおいて、非常に原作に忠実なのです。これはちょっと意外。

舞台はちゃんと孤島。なんでもウクライナの古城でロケをしたそうで、荒涼とした原作に近いイメージが、ちゃんと再現されています。

まあ、ロシア語なのでホントにそう言っているかは知りませんが、少なくとも英語の字幕では「黒人島」を採用していますし、劇中に出る見立て人形もインディアンや兵隊ではなく黒人らしい。なので、クリスティーのそもそものオリジナル原作に、ひどく忠実に映画化したようです。あれ、タイトルは「インディアン」なのに。

結末については多少アレンジしてありますが(原作は2段構えの解決編なのですが、そこまでやる必要は映像的にはないかな)ほぼ忠実。クリスティー本人が戯曲版で作った別バージョンをはじめとする多くの映像化版が避けたあの結末をきちんと映像化しています(先年のイギリスのTVミニシリーズ版と似た処理でした)

そう、非常に原作に忠実に、ストイックなまでに忠実に作っているのです。

なので、ロシア語のセリフを別にすれば、ここは「ソ連映画だから」というような部分はまったくなし。登場人物の名前もすべて原作どおりに英語人名(島の位置については言及なし) クリスティーの原作をそのままシナリオに使ったかと思えるほど、英国風でありました(でもちょっとムードが陰鬱なのがソ連映画らしさか)

イギリス映画だよといわれても、疑わずにそう思ってしまうかもしれないくらいで、ひょっとしたら数多い『そして誰もいなくなった』映画化のうちで、もっとも原作に忠実な映画化ではないでしょうか。

1987年製作なので、すでにペレストロイカ開始後の作品とはいえ、ソ連という社会主義国家で、もっとも英国っぽいクリスティーの代表作が敢えて映画化されていたのも興味深いですね。ましてや、ウクライナの映画人がこの作品に取り組んだ背景には、何があったんでしょうか。まあ、ここではそのへんには深入りしませんが。

じつのところ、このほかにも西ドイツやインドやフィリピンでも「そして誰もいなくなった」があるようなので、可能ならば、そのうち見てみましょうかね。

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