お気をつけください!

スポーツに怪我はつきものです。それはプロであろうと、アマチュアであろうと、遊び半分であろうと、同じこと。負傷のリスクは、スポーツの宿命でもあるのです。

そのスポーツも、見るだけならば、負傷のリスクはほとんどありません。野球やゴルフの観戦中にボールに当たることはあっても、それはきちんと観戦していないから。

しかし、数あるスポーツの中で、観客にまで身の危険がおよぶものが一つあります。

プロレスです。

プロレス最大の見せ場の一つに、場外乱闘があります。本来リング上でやるはずの戦いが、会場全体に広がる、そのダイナミックさと、ある意味でのルーズさこそが、プロレスの魅力を見せつける最大の見せ場でもあるのです。

必然的にそれは、観客を巻き込む可能性を秘めています。

私が長年見てきたレスラーたちの中でも、その危険がもっとも大きかったのは、「超獣」ブルーザー・ブロディでした。彼のトレードマークは、太いチェーン。こいつをジャラジャラ鳴らし、ウォウォと雄たけびをあげながら入場してくるのです。そして、さらに激してくると、そのチェーンをぶんぶん振り回しながら客席へなだれ込む。

これは危険極まりない。ブロディにその気はなくても、チェーンに当たればタダではすみません。なのでブロディが客席に乱入してくると、みな必死で逃げたものです。

当時も今も、ほとんどのプロレス会場で、客席は折りたたみ式のパイプ椅子です。試合でよく凶器にもなる、あれですね。なので、ブロディが乱入し、客が逃げまどった後は、パイプ椅子の山。指定席もなにもあったもんではないですね。ブロディの乱入後には、自分たちで自分の席を確保して、ガチャガチャと椅子を立て直さねばならなかったもんです。

タイガー・ジェット・シンやアブドーラ・ザ・ブッチャーといった凶悪レスラーたちもよく客席に乱入してきたものですが、彼らのはたぶんに計算づくの演出だったりするし、ブロディのチェーンのようにコントロール不可能なものでもありません。本人たちにそれなりの「正気」が残っていれば、そうそう直接危害を加えられることはありませんでした(ただし、余分な挑発行為をすれば別です。レスラーは舐められたと感じれば、容赦なく牙を剥きます)

とはいえ、デカいレスラーがすぐ横に来て、フーフーと息を荒げていられたりすると、やはり心穏やかではなかったですね。

もちろん、「事故」は多かったです。私も場外乱闘の時に逃げ遅れて、後楽園ホールの舞台とスタン・ハンセンの間に挟まれてしまった経験があります。全視界がハンセンの背中になりました。幸い大事には至りませんでしたが、いやあ、まいったまいった。

そんなわけで、場外乱闘になると、本部席にいるリングアナウンサーがマイクを掴んでこう叫ぶのが定番。

お気をつけください、お気をつけください! 危険ですから下がってください!

学生プロレスでこれをやると、すごく受けたもんです。どんなにシラケた空気が漂っていても、レスラーが場外に出て観客の間に入った瞬間にこのアナウンスを叫ぶと、それだけでウケが取れたもんです。

でも、われわれの学生プロレスは、貧弱なる文科系サークル。で、体育学科があった我が母校では、観客のなかに、オリンピックに出るような柔道やレスリングの選手、学生横綱やのちに関取になるような相撲部員、当時無敵のアメフト部員などが、ゴロゴロいました。だから「危険」な目に遭うのは、ほんとうはレスラーたちのほうだったんですが。

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