史上最強の「白鵬」
9月30日に白鵬が正式に引退、年寄・間垣を襲名した。まずは長年の現役生活、お疲れさまでした。
ということなんだが、どうも白鵬の引退にあたっての報道や、協会幹部のコメントなどを見ていると、この大横綱の引退にふさわしい雰囲気ではない気がする。
そもそもこれだけの実績を残した横綱に対して、一代年寄の話すら出てこないのは、いかがなものだろうか。
ご存知のように、横綱のうち「現役時代の功績が著しかったもの」にのみ、現役時代の四股名をそのまま年寄名跡として贈るのが一代年寄で、譲渡や継承はできないものの一般の年寄名跡と同じ扱いがされる特権。
優勝20回超がひとつの目安とされ、過去には大鵬(優勝32回)、北の湖(優勝24回)、千代の富士(優勝31回・辞退)、貴乃花(優勝22回)の4人のみが贈られている。朝青龍(優勝25回)についてはご存知の通り。
白鵬の優勝45回(史上1位)は、これら歴代の一代年寄たちに比して、劣るどころか凌駕している。このほかにも15戦全勝優勝16回、通算勝ち星1187勝、幕内勝ち星1093勝、横綱勝ち星899勝、15日制下での横綱勝率 .875、年間最多勝10回などなど、いずれも史上1位であり、幕内連勝記録63(15日制下では1位)も上記の面々を凌ぐ。どこに文句があるというのか。
じつはこの一代年寄という制度、相撲協会にはいっさいの規程がない、いわば習慣のようなものらしい。
2021年4月に開催された「大相撲の継承発展を考える有識者会議」の第11回会合で、現在の協会の定款に根拠となる規定はないなどとして、一代年寄の存在意義を示すものは見いだされないと論じられた。
それが今回の処置の根拠なのだろうか。
わかってますよ、問題になったのはむしろ現役時のさまざまな行動に対する批判であることは。
土俵上での雄叫びやガッツポーズ、カチ上げや張り手などのラフな取り口、先般の東京五輪観戦など土俵外での行動が「不行跡」とされ、年寄襲名に当たっても行動誓約書を提出させたそうだ。
いやしかし、白鵬ってそんなに非道な力士だったのだろうか。
土俵上のことについていえば、そもそも大相撲は「国技」とか「神事」である以前に、格闘技なんではないか、それもプロの。
ならば、勝つために、優勝するために、ルールで認められているあらゆる手段を使うことは、なんら批判される筋合いのものではないだろう。
プロレスを引き合いに出すと怒られるんだが、あの程度の肘打ちや張り手で文句をいっていては、若手のレスラーにだって笑われてしまうよ。
優勝したときの土俵下インタビューでの振る舞いもいろいろ言われるが、プロのエンターテイナーとしてはむしろ当然のことだろう。プロスポーツの会場で、選手が観客を盛り上げてどこが悪い?
もちろん、白鵬がまったく問題なしとは思わない。審判批判はプレイヤーとしてはダメだろうし、東京五輪観戦など土俵外のルール違反もあった。これらの点は、たしかに反省が必要だろう。
だがこれらがそれほどの「不行跡」なんだろうか。
角聖・双葉山は引退直後の1947年にカルト宗教にはまり、取締りに入った警官隊と乱闘沙汰を起こして逮捕されている。白鵬が私淑しているという大鵬も、1965年にアメリカから拳銃を密輸して罰金刑を受けている。
どちらも現在だったらたいへんな炎上案件になっていただろう。このほかに一代年寄を受けた面々や、そのほかの過去の横綱たちもさまざまな「不行跡」を残している。
人さまの過去をほじくり出して批判する気はないが、彼らとくらべて白鵬がきわだって「不行跡」とも思えないんだが、いかがだろうか?
どうも現在の相撲協会幹部やその周辺の人々に、白鵬嫌いがかなりいるようだ。前記した有識者会議の結論にしても、白鵬に一代年寄を与えたくないがゆえの結論だったのではないか。
まぁまぁ、いまさら言っても仕方がないことか。
何はともあれ、白鵬は引退して間垣親方となり、宮城野部屋の部屋付き親方として後進の指導に当たることになった。そして師匠の宮城野親方が定年を迎える来年には、宮城野部屋を継承することになるという。
すでに炎鵬や北青鵬といった話題性のある力士を擁している「白鵬部屋」がいよいよ姿をあらわすわけで、これは楽しみだ。
ちなみにだが、過去の優勝20回超の名横綱たちは、誰一人として師匠として横綱を育て上げてはいない。名横綱かならずしも名師匠ならずということか。
ひとつここは「記録王」たる白鵬、いや間垣親方こと次期・宮城野親方には、ぜひとも自身を超える名横綱を育てて、ここでも限界を突破してみせていただきたい。
期待してますよ。
