ザ・グレイテスト
すでにニュースなどで大きく報じられているように、元ボクシング世界ヘビー級チャンピオンのモハメド・アリ氏が亡くなった(6月3日)
いろいろ報道されているが、なんといってもアリの最大のハイライトは「キンシャサの奇跡」につきる。そこに触れたニュースが少ないのは、残念だ。
奇跡が起きたのは、1974年10月30日。
当時の私は高校1年(だったと思う) 日本の一高校生にも、この戦いがけっこう重要なことは知れていたが、当時無敗のチャンピオンであるジョージ・フォアマンが、すでに峠を越えた元チャンピオンの挑戦を受ける。そんな印象を持っていた。いや私だけでなく、当時の世界中がそう思っていただろう。
決戦は、アフリカの地、ザイール(現在のコンゴ民主共和国)の首都であるキンシャサで行なわれた。フォアマンもアリもアフリカ系で、そのルーツはアフリカの地であるというような理由づけだったのだろう。
試合開始は現地時間の午前4時。「アフリカ夜明けの決戦」と銘打たれ、世界中に生中継された。言うまでもなく、最大のマーケットであるアメリカ東海岸のプライムタイムに合わせてのものだ。だが、これが、決戦の地がアフリカであることと相まって、破格のビッグマッチ感を高めていたのも事実。この演出を考えついた人間は、偉大だ。
そのおかげで、日本ではこの一戦、土曜日の午後はやくに生放送されることになった。まだ週休二日制などは一般的でなかった時代、高校も土曜日の午前中は授業だった。
もちろん、決戦を見るために学校を休むことなど思いもよらない(当時は真面目な学生だったのだよ) というわけで、私は授業を終えると一目散に帰宅した。電車通学だったが、いつもの土曜日よりも早い電車に乗った記憶がある。
駅から走るように帰宅し、テレビの前へ。
試合開始には間に合わなかったが、たしか6ラウンドくらいから見られたと思う。その私の目に写ったのは、ロープに追い込まれたアリを打ちまくるフォアマンの姿だった。
これが「ロープ・ア・ドープ」と呼ばれるアリの作戦であったことは、知る由もない。ああ、やっぱりフォアマンが強いんだと思いつつ、運命の第8ラウンド。
この時の印象は、もう40年以上が過ぎた現在でも、強烈に覚えている。
まさに、アリが「とつぜん動いた」としか見えなかった。
その後、何回も画像で見たし、今回の訃報ニュースでも再三流されていたが、あの時の衝撃はとても再現できていない。それほど鮮烈な数秒間だったのだ
アリが20世紀最高のスポーツ選手であることは、この一瞬を生で目撃した者にしか理解できないだろう。
もちろん、その2年後に同じようなシチュエーションで目撃した、格闘技世界一決定戦、対アントニオ猪木も強烈な印象があるが、インパクトはこの「キンシャサの奇跡」に遠くおよばない。いや、その後も含めて多くのスポーツシーンを、ライブでも目撃してきたが、テレビ中継で見たこの一戦を越えるインパクトを、私ままだ知らない。
人類史上屈指のスポーツイベントの、史上最高のクライマックスを味わえた時間だった。
たぶん同時代の人間にしかわからない、生の迫力。これこそが、モハメド・アリの「ザ・グレイテスト」であろう。
あらためて、モハメド・アリ氏の冥福を祈る。合掌。
ここから先は
¥ 100
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?
