見出し画像

史上最強の一人横綱

春場所中に鶴竜が引退を発表し(ご苦労さまでした)、夏場所から番付に横綱は白鵬だけという「一人横綱」の時代が出現しました。

東西でワンセットになっている相撲の番付で、その頂点の横綱が片肺飛行という状態は、やはり異常事態。一刻も早く照ノ富士あたりが横綱に昇進して一人横綱の解消を……というのが相撲協会をはじめ、世間一般の相撲ファンまでの共通した意識でしょうね。

でもちょっと待った。一人横綱って、そんなに異常事態なんでしょうか。

はい、番付に「横綱」の文字が登場するのは1890年(明治23年)5月場所から。じつはまだ130年ほどしか経っていないのです。俗に相撲の歴史は1500年以上とかいうのですから、まだその10分の1にも達していないわけですね。つまり相撲の歴史の90パーセント以上は、横綱が番付に1人以下だったわけで、ほらむしろ横綱が複数いるほうが異常なんですね。

そして、この初期(横綱番付記載の黎明期)には、横綱は第16代横綱・西ノ海(初代)だけ。番付の東西に横綱が並び立つのは1903年6月常陸山と二代目・梅ケ谷が同時昇進するまで待たねばならず、この間13年間、西ノ海と、そのあいだの小錦(初代)、大砲も一人横綱だったわけです。この当時の横綱は番付上の地位というよりは名誉称号みたいなものだったからですかね。

まあそのへんはおいといて、では東西に両横綱が並ぶようになってからあとの一人横綱場所はというと、数えてみたら70場所ありました。この間の場所数は550場所くらいですから、おおよそ12パーセント。1割以上なので、思ったよりは多い印象になりますかね。

もっとも、年月で見ると、118年間で70場所だけだから、やっぱりめずらしいことですね。

では、その一人横綱たちはどんな顔ぶれだったかをざっと紹介してみましょう。

まずは、1930年(昭和5年)10月場所から3場所一人横綱だった宮城山。横綱の相棒だった常陸山が引退して、取り残されたんですね。

次いで、1933年(昭和8年)1月場所から5場所をつとめた玉錦。ここまでが戦前の一人横綱。

いずれも場所数は少ないものの、当時は年間2場所。しかも宮城山は一人横綱のまま引退してしまい、その後に玉錦が昇進するまでの6場所は横綱空位でした。当然ながら玉錦は昇進後も一人横綱で、1935年(昭和10年)5月場所に武蔵山が横綱に昇進するまでの14場所は横綱が1人以下。7年にわたって横綱片肺だったので、昭和初期には一人横綱はめずらしくなかったわけですね。

それにくらべると、戦後は一人横綱の場所が減少します。

ライバルだった柏戸が引退した1969年(昭和44年)9月場所から3場所をつとめた大鵬は、当時およそ34年ぶりの一人横綱でした。すぐに北の富士と玉ノ海が同時昇進して一人横綱は解消しましたが。

その一方の雄だった玉ノ海の急死で、1971年(昭和46年)11月場所から琴桜が昇進するまでの8場所一人横綱だった北の富士。突然のことでしたが、1年半近く一人横綱で耐え忍びました。

その15年後、隆の里が引退して1986年(昭和61年)3月場所から双羽黒が昇進するまでの3場所のあいだ一人横綱だったのが、千代の富士。こちらは大鵬同様、半年の短期間でした。

ここまでが昭和の一人横綱たち。

この時期には、一人横綱はかなりレアだったんですね。ここまでの最長が北の富士の8場所ですから。

1992年(平成4年)3月場所、旭富士が引退して北勝海が平成初の一人横綱になったのですが、5月場所前に今度は本人が引退してしまったので一人横綱は1場所のみ(5月場所番付には記載されているので、番付上は2場所) おお九重部屋の師弟3横綱がいずれも一人横綱を経験しているのは奇遇ですね。

北勝海が引退したあと、1993年(平成5年)3月場所にが横綱昇進するまでの5場所は横綱不在となり、そのあと曙が11場所にわたって一人横綱となって新記録を樹立します。

このときは18場所にわたって横綱が一人以下だったわけで、昭和初期の記録を場所数では上回りました(年数では半分以下ですが) いちおうこれが史上最長の横綱片肺時代。

この記録をあっさり更新したのが、朝青龍でした。武蔵丸が引退したあとの2004年(平成16年)1月場所から白鵬が昇進してくるまで、じつに21場所にわたって孤塁を守りました。新記録樹立。

つづいて、その朝青龍が引退した後の2010年(平成22年)3月場所から白鵬15場所の一人横綱をつとめています。日馬富士の昇進で記録が途絶えて朝青龍におよばなかったのは、記録王・白鵬には痛恨だったかも。

でも、今回の一人横綱2場所で、白鵬は「一人横綱を2度経験する」という新記録を達成しました。これは史上初。さすがは白鵬。

以上、宮城山、玉錦、大鵬、北の富士、千代の富士、北勝海、曙、朝青龍、白鵬の8人が一人横綱経験者なわけですが、ではその中で最強の一人横綱は?

まぁ文句なしに、最長記録保持者の朝青龍でしょうね。

しかも21場所の一人横綱在位中15場所で優勝。一人横綱としての優勝回数も、7割5分を超える優勝占拠率も、歴代一人横綱で最高。一人横綱在位中の勝ち星数(266勝)も全勝優勝の回数(5回)も最高と、ほぼ死角なし。

ちなみにこれらの記録で第2位はほとんどが白鵬(優勝10回、勝ち星202勝、全勝優勝4回) 白鵬が朝青龍を上回るのは一人横綱在位中に63連勝を成し遂げたくらいなのかな(優勝占拠率は3場所中2場所を制した千代の富士が第2位)

記録王・白鵬としてはここからの第二次一人横綱で記録を上積みし、朝青龍の牙城を崩したいので、きたる名古屋場所での照ノ富士の綱取りを何がなんでも阻止して一人横綱を続けたいところ……かな?

なお名古屋場所の結果次第では、秋場所の番付に東西の横綱が並ぶか、白鵬の一人横綱が続くか、あるいは史上三度目の無横綱時代が来るのか、いずれもありうるので、名古屋場所はやっぱり見逃せないですね。

大相撲/丸いジャングル 目次

いいなと思ったら応援しよう!