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「孫」は、どこをめざすか

「孫」といっても子供の子供のことではないし、『西遊記』や『ドラゴンボール』の主人公でもない。

先日、プロ野球のソフトバンク・ホークスが日本シリーズ優勝を遂げたことで、インタビューを受けた、同球団の孫正義オーナーのことである。

その孫さんが、さまざまな話のなかで「次はJリーグへの参入を狙っている」と明言したのだ。

このニュースを見たJリーグサポーター界隈は、おおむね好意的な反応を見せているようだ。

ちょうど今年、経営危機にあったV・ファーレン長崎に、ジャパネットでおなじみの高田明氏が乗りこんで立て直し、みごとにJ1昇格を決めたばかりなのも、この反応につながっているのだろう。

早くもツイッターなどでは、孫さんがどこのクラブを買収するのかなどといった話題が盛り上がり、ホークスと同じ福岡県に本拠地があるアビスパ福岡ギラヴァンツ北九州(孫さんは佐賀県出身だがサガン鳥栖は無理なのかな)、名門復活を願う東京ヴェルディ1969、あるいは経営危機に瀕しているというザスパクサツ群馬などの名前が取り沙汰されている。

まずはキミらが落ち着け(笑)

ここで気になったのが、ほとんどの人が、孫さんが既存のクラブを買収してのJリーグ参入を想定していることだ。

おいおい。

あの孫さんが、そんなスケールの小さいことを考えるわけがないだろう。

たしかにプロ野球参入にあたっては、ダイエーからホークスを買収したのだが、それはそもそも日本のプロ野球が12球団に固定されていて、ほかに参入の手立てがないからだろう。

その点、Jリーグにはそんな根性の狭い規約はないので、条件さえ整えれば誰でも参入できる。

簡単にまとめてしまえば、Jリーグのクラブを経営するライセンスを取得し、しかるべき戦績を残せば、Jリーグに加盟することは可能なのだ。

ライセンス取得にはいろいろな条件があるが、大雑把に言えば、会社になっていて資金が担保されていて、プロ選手を一定数確保できて、本拠地に試合をするスタジアムと練習場があって、ユースやジュニアの普及活動ができる見通しがあれば、ほぼOK。

つまり、下世話な言いかたをすれば、資金さえあれば可能なことばかりだ。

もうわかるよね。

孫さんが目指すべきは、何のしがらみもないところで、ゼロからクラブを立ち上げ、いきなり人気スター選手や代表クラスの選手ををずらりと揃えたビッグクラブ並みの超強大なチームを作り、無敵の快進撃でJ1のてっぺんまで一気に突っ走ることではないだろうか?

これはすごいぞ、いまからワクワクしてきたぞ。孫さんならば、充分できるだろう。

では実際にそうするとして、どんな道のりを歩むことになるんだろうか?

いくら孫さんが資金を投じても、いきなりJ1参加というわけにはいかない。それなりのステップを踏む必要がある。

まず参加する必要があるのは、社会人の都道府県リーグ。ここがスタートになるだろう。

J1を日本サッカーの第1部とすると、ここらは第6部くらいにあたる。都道府県ごとにその構成は変わるが、都道府県リーグの中でもカテゴリーがわけられて数部になっていることが多い。ただし、Jリーグ加盟を目指すクラブなどは、いきなり各都道府県のトップリーグから参加できることも多いようだ。まずはここを戦うことが必要になるだろう。

ここを勝ち抜くと、その年の11月に開催される各地区大会(北海道、北東北、南東北、関東、北信越、東海、関西、中国、四国、九州の10大会)に進出でき、その上位が来年度の地域リーグに昇格できるのだ。ここまでが初年度ということになる。

2年目は地域リーグでの戦いとなる。ここが第5部に相当する。

全国が9つの地域(北海道、東北、関東、北信越、東海、関西、中国、四国、九州)に分けられていて、春から秋までのリーグ戦を戦う(このほかに全国社会人サッカー選手権と天皇杯の予選を並行して行なう)

このリーグ戦で優勝するか、全国社会人選手権で上位に入ると、全国地域サッカーチャンピオンズリーグ(地域リーグ決勝)が待っている。地域リーグ終了後の11月に開催される短期決戦だ。昇格できるのは上位2チームのみという過酷な戦い。

そしてここを勝ち抜くと、翌年からはいよいよ全国リーグであるJFL(日本フットボールリーグ)に参戦することになる。

ここはカテゴリー的には第3部と位置づけられていて、プロのJ3と同格で、アマチュアではここが最高峰になる。ただし、今話題にしているJリーグ加盟への道筋としては第4部に相当。アマチュアの最高峰なので、ここの最上位チームには天皇杯の予選免除の特典があったりする。

リーグ戦は16クラブで戦われる。ここでアマチュアの強豪とも戦って、上位4位までに入らないと、次のステップには進めない。

2017年のJFLには、Jリーグを目指す8つのクラブが所属している(FC大阪、ヴァンラーレ八戸、MIOびわこ滋賀、奈良クラブ、東京武蔵野シティFC、栃木ウーヴァFC、FC今治、ヴィアティン三重) まだ今年の決着はついていないが、この中から来年のJリーグに参戦するチームが出るのだろうか。

ライセンスを所有していて、上位4チームまでに入れば、めでたくプロの第3部であるJ3に昇格となる。

ここまで来て初めて、Jリーグ参入となるわけで、これ以降のステップは、比較的知られているだろう。

J3上位2チームがJ2へ、J2では上位2チームがJ1へ自動昇格、3位から6位は昇格プレーオフで残り1チームの昇格枠を争う。

ここまできて、やっと国内サッカーの最上位カテゴリーであるJ1リーグに到達できるのだ。

実際にはどこの都道府県でスタートするかなど色々条件はあるだろうが、最短での道のりはこうなる。

  1年目 都道府県リーグ → 地区大会
  2年目 地域リーグ → 地域リーグ決勝
  3年目 JFL
  4年目 J3
  5年目 J2

そして6年目に晴れてJ1昇格。

順調に来ても5年かかる。意外と長い道のりだ。

だが、考えようによっては、たったこれだけの年月でトップリーグに到達できるのだ。プロ野球と違って自分たちの力次第でのし上がれるのも魅力だろう。

資金も信用もパワーもある孫さんならば、充分可能だろうと思うぞ。

そして、孫さんにぜひこのルートを歩んでいただきたい理由が一つある。

孫さんクラブがJリーグへの道を歩むその過程は、当然かなりの注目を集めるだろう。

そしてマスコミをはじめとしたその視線は、必然的に下位カテゴリーのサッカーそのものにも、向くことになる。

一般の新聞やテレビ、あるいはサッカー専門以外のスポーツマスコミでも、下位カテゴリーまでの試合内容や試合結果、その順位や優勝争いまでを報道することは極めてまれだ。

そんなところに、全国の目が向くのである。

これは、そのカテゴリーの他チームや選手にとっては大きな励みになるだろうし、よっしゃ注目チームに一泡吹かせてやろうという強烈なモチベーションにもなるだろう。

孫さんがトップクラスの選手をそろえたチームを作れれば、これまでそうした選手と戦う機会がなかった選手たちも、トップ選手と直接コンタクトする貴重な体験を積むことができるのだ。

そうした中から、ひょっとすると従来では埋もれてしまっていた人材が発見されるかもしれない。

そう、もしも孫さんとそのクラブがこのルートを歩んでもらえれば、日本のサッカー全体のレベルアップにつながるに違いないのだ。

そして、何よりも、かっこいい。日本人の大好きな「立身出世ストーリー」でもある。

孫正義さん、ぜひともゼロからの出発で、日本サッカー界に伝説を築きあげてください。

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