燃えよ!野生のリーグ ”ワ” !!
スポーツマンガの敵役をざっくりと紹介するこの企画、野球マンガが多くなるんですが、その中でもやはり水島真司の作品が多くなるのは当然ですかね。これまでに「ドカベン」の吉良高校とBT学園、「極道くん」の北野屋高校を紹介しましたが、今回はプロ野球をあつかったマンガでいきましょう。
1981年から1984年まで、「少年マガジン」に連載され、コミックス全19巻にまとめられた「光の小次郎」
時速160キロの剛速球を武器にする超高校球児・新田小次郎を主人公に、彼のプロ入り(1978年の江川騒動を下敷きにしてます)からルーキーイヤーを描いた作品ですが、異色なのはその舞台。
水島マンガでプロ野球といえば大河野球マンガ「あぶさん」が思い浮かびますが、あれは基本的に実際のプロ野球を舞台にしています。たいがいのプロ野球マンガはそうですね。
ところが、この「光の小次郎」では、同じく日本のプロ野球を舞台背景にしながら、そのほとんどすべてをフィクションにしています。
プロ野球機構からチーム、選手に至るまですべてを水島ワールドに作り替えているのです。これ、考えるの楽しかっただろうな、水島センセイ。私も「プロ野球拡大計画」とか「天皇杯争奪全日本野球選手権」とか妄想するの楽しかったもんな(笑)
という「光の小次郎」の世界では、プロ野球はエキサイト・リーグとワイルド・リーグの2リーグ制。各6球団で計12球団なのは現実のプロ野球と同じですが、球団は名称やフランチャイズ、チームカラーから親会社まで細かく設定されてます。だから連載1回目では、冒頭に全12球団のガイドが掲載されていました。
そこに反映されているのは、たぶん当時の水島センセイが現実のプロ野球に抱いていた不満への解答なんでしょう。ドラフト会議への反発なども色濃く感じられましたが、12球団のフランチャイズ配置には、それがもっとも出ていたと思います。
さらに感じるのは、水島式パ・リーグ愛。主人公の景浦安武がホークス一筋だった「あぶさん」もパ・リーグが舞台でしたが、「光の小次郎」も主人公・小次郎が入団するのはパ・リーグ・ライクなワイルド・リーグのほう。必然的にストーリーは、ほとんどがワイルド・リーグ(ワ・リーグ)で展開されます。
では、小次郎が入団した武蔵オリオールズを筆頭にした、「野生のリーグ」ワ・リーグをご紹介しましょう(ちなみに本欄のタイトルはワ・リーグのキャッチフレーズ。連載当時にパ・リーグが実際に使っていた「エキサイティングリーグ・パ!」の改良版)
武蔵オリオールズは本拠地を東京の小金井市に置き、親会社は武蔵乳業。現実には東京西部にはプロ野球が開催できる野球場はないんですがね。あんまり予算豊かな球団ではないようで、ドラフト会議で小次郎への交渉権を引き当てたときには球団首脳がひるんだりします。それまでは弱小球団で選手一同もやる気ナッシングだったのが、小次郎入団に続き、草野球の名監督・俵幸太郎を監督に据えるなどし、一躍優勝戦線へと躍進します。
開幕戦でその武蔵オリオールズと対峙するのが新宿メッツ。建設会社が親会社で、その名のとおり新宿にスタジアムがあります。ホームラン王の郡司、高校時代の小次郎のライバルでアイドル的人気の国友、ターザンの異名をとるエース投手の三の酉らを擁し、開幕戦で小次郎が投げるオリオールズと延長17回の死闘を演じます(ワ・リーグは引き分け規定なし。これも水島ドリームのひとつ) ちなみに内野手(サードだったかな)に伊勢丹というデパートみたいな名前の選手がいて笑わせてくれます。こうした選手のネーミングはこのマンガの名物のひとつです。
福岡に本拠を置く博多パイレーツもなかなかユニーク。監督は球団オーナーで親会社の経営者でもある玄海という究極のワンマン球団。これはいいねぇ、好き勝手がやれて。そこに惚れた小次郎がドラフト前にパイレーツを逆指名したことから、オリオールズとの入団交渉が難航すると見るや、玄海オーナーにして監督、策謀をめぐらし奇策「三角トレード」で小次郎取りを画策するんです(実際の江川事件で阪神-巨人間でやったよな) その際にトレード要員に指名されたエース投手海峡の「親分のためならどこへでも行きやす」的な発言が泣かせたな。かように任侠的球団で、もちろん玄海監督はワ・リーグの退場王だったりします。
札幌に本拠を置くのが札幌ブルワーズ。札幌にドーム球場があってプロ球団があるってのはいまでは現実になっていますが、連載当時はまだ夢のまた夢。当時は九州にも球団はなかったんですから。日本ハムファイターズが北海道に移転したのは2004年だから、20年以上も先行していたことになりますね。水島センセイ、えらいぞ。親会社が北斗ビールという食品系会社なのも予見してるし。ちなみにドーム球場での対戦ではオリオールズの酔いどれ投手・馬場がアルコール注入で好投するとみるや、スタジアムそのものが巧妙な掩護射撃をしてくる見せ場がありました。
大阪ドジャースとの対戦は、ある意味ひとつのクライマックス。ダブルヘッダー(最近は今はあんまりやらなくなった)での対戦ですが、その試合までの間にオリオールズでは小次郎入団までのエースだった伊達が俵監督と対立するという内紛が発生。小次郎との「両雄並び立たず」と見た俵監督は一計を案じます。このダブルヘッダー第1試合ではドジャースのエース通天閣(このネーミングもいいね)がオリオールズをおさえて勝利。すると第2試合までの間の休憩時間に、伊達と通天閣の電撃トレードを成立させてしまうのです。間髪いれずにドジャースの馬場監督は伊達を第2試合の先発に起用。「通天閣と伊達で連勝とは、こりゃあおいしい」とニヤリ。小次郎と伊達の白熱の投手戦を演出するのであります。
残る1チームが高知ロイヤルズ。四国にプロ野球球団をというのは水島センセイの悲願らしく、2004年の例の騒動のときも「あぶさん」のなかでバファローズの四国移転を主張していたし、「ドカベン」の「スーパースターズ編」ではパ・リーグに四国アイアンドッグスを新設させています。この高知ロイヤルズは荒くれ球団で、特にその応援団の荒っぽさが売り物。ヤジで相手選手を倒すと主張する応援団長が、その名も軍鶏(しゃも) あれ高知なのに闘犬じゃなくて闘鶏なんだ。このヤジでペースを乱された小次郎に、ロイヤルズの重量打線が襲いかかる! 4番・土佐が怪力で小次郎の剛速球をスタンドへ運ぶと、5番・太、6番・宿毛と、豪快に3連続ホームランを叩き込んで見せるのです。私はこの打線が大好きなので、ワ・リーグで応援する贔屓チームは断然このロイヤルズ。
という具合に盛り上がる「光の小次郎」ですが、残念ながら盛り上がるのはシーズン前半くらいまで。オリオールズは前期優勝を果たす(当時のパ・リーグと同じく2シーズン制)ものの、その後、小次郎は剛球「光る球」の開発に夢中になってしまい、そこからはわりと凡百の野球マンガになってしまいます。せっかく構築した独自のプロ野球世界を生かし切れていなかったのは、なんとも残念。全体として尻すぼみに終わった感は否めないですね。
あ、そうそう、最後にもう一方のエキサイト・リーグの球団も紹介しておきましょう。小次郎がワ・リーグに所属したので、こちらの6球団はオールスター戦くらいしか活躍の場がなかったんですが。
東京エンゼルス、名古屋カージナルス、神戸ホワイトソックス、広島レッズ、千里エキスポズ、横浜マリナーズ。
明らかにセ・リーグ・ライクなこのリーグ、パ・リーグ推しの水島センセイの視線がなんとなく冷たいのは、当然でしょうか。同じく2004年まではパ・リーグ・ファンだった私には、よくわかりますよ。
しかし、これくらい古くなると、さすがにいろいろと今昔の感がありますね。小次郎がオリオールズ入団時の契約条件が「超破格の年俸1200万円。なんと月給100万円」 ああ、古き良き時代ですねえ。
小次郎や相棒のキャッチャー・武蔵らは、現在の「ドカベン」にも登場していますが、この架空球団群は登場しません(そりゃそうか) ちょっともったいない気がするんですが、水島センセイ、そう思いませんか?
