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令和3年・夏場所雑記

まずはやっぱり照ノ富士からでしょう。

場所前に「史上最強の再大関」で触れたように、これまで大関陥落から復帰して再大関となったその場所に優勝した例はまったくなかったのですが、照ノ富士はその「壁」を難なく突破してみせました。横綱不在という状況が幸いしたのは事実ですが、これはやはり偉業というべきでしょう。

これが4度目の優勝。これまで4回以上の幕内優勝を果たしたのは35人にのぼりますが、そのうち横綱に昇進していないのは5回優勝の魁皇(最高位・大関)のみ。どうやら照ノ富士の「綱取り」も待ったなしのようです。ちなみにこれで師匠の伊勢ヶ濱親方(元・旭富士)の優勝回数にも並びました。

また、先場所の優勝に続いての連続優勝になったわけですが、大関以下で2場所連続優勝を果たしたのも大記録。もちろん、横綱での連続優勝には5連覇だの6連覇だの7連覇だのと言った怪物たちが居並びますし、大関で連続優勝して横綱に昇進した例もありますが、照ノ富士の場合は先場所が関脇での優勝だったのがポイント。

過去に関脇以下で連続優勝をした力士はいません。そして、関脇→大関での連続優勝は過去にただ一人が果たしただけなのです。

場所制度が現在とは違う年2場所制だった昭和11年(1936年)の5月場所と翌年1月場所で連続優勝した、角聖・双葉山が、これまで唯一の関脇→大関での2場所連続優勝なのです。照ノ富士は、あの双葉山と肩を並べたわけだから、これは凄い!

もっとも双葉山はこの後も優勝を続けて、昭和13年(1938年)1月場所まで5連覇を達成しています。しかもこれがすべて全勝優勝なのですから、やはりケタ違いですね。これが不滅の大記録69連勝なのです。

という具合に大記録を達成した照ノ富士ですが、もちろんここで満足してはいないでしょう。

次は、これまでに三重ノ海だけが達成している、大関陥落→再大関→横綱昇進への挑戦が控えています。次の名古屋場所(になるかどうか微妙ですが)で優勝かそれに準ずる成績をあげれば、文句なしの横綱昇進でしょう。なにしろ今は一人横綱ですからね。大チャンス到来です。

じつをいうと場所終盤にさしかかるまで照ノ富士が全勝を続けたので、このまま全勝優勝でもしたらどうなるだろうと心配していました。2場所連覇、しかも全勝ともなれば、これは大関1場所で横綱昇進待ったなしになりそうですが、横綱昇進の内規には「大関で2場所連続優勝に準ずる成績」が必要となっているそうです。「大関で」を重視するのか「準ずる」を重んじるか、こりゃあひと悶着あるかもな。

結果的には11日目に妙義龍に反則負けで、この心配は杞憂に終わったわけですね。

さて、その反則負けの際に感じたことなんですが、今回は日本相撲協会のファンサービス、とくに国技館などの会場の観客に対するサービスについてモノ申しておきたいと思います。

11日目の妙義龍戦、照ノ富士は豪快な小手投げで妙義龍を投げ飛ばして11連勝と思ったのですが、物言いがついて審判員の協議。結果、投げを打った際に相手の頭を押さえつけた照ノ富士の手が妙義龍の髷にかかっていたということで反則負けが宣せられました(この判定を下した審判長が照ノ富士の師匠である伊勢ヶ濱親方だったのは何とも皮肉。また反則裁定の場合は行司の差し違えにならないというのは今回学びました)

判定そのものは妥当なものだと思うのですが、問題はその際の場内説明。いや審判長の説明は明快でしたが、それが場内の観客にどの程度理解されたかというと、そこにかなりのギャップを感じました。

私はテレビで見ていたので、何度もリプレイを見られたし、解説の北の富士さんの「こりゃあ拙いぞ」というコメントも聞いたので、難なく状況を理解できましたが、場内説明が終わり妙義龍が軍配を受けたあとも、観客席にはなんとも微妙な空気が流れていたように思えました。

そりゃあそうでしょう、髷に手がかかったといっても一瞬のこと、百戦錬磨のNHK放送席も最初は気づかなかったほどの事象です。おまけに両力士の背後にあたった西側や向正面の観客からはまったくの死角だったはず。

そうした観客からしたら、なぜ圧勝したように見えた照ノ富士が負けになったのか、ピンとこなかったのではないでしょうか。

同じような事象は、最近になってビデオ判定(VAR)が導入されたサッカー・Jリーグの試合でもしばしばありました。それへの対応なのか、最近は場内のビジョンで判定画面を見せたりしています。

大相撲のビデオ判定は圧倒的に歴史が古く、もう導入から半世紀以上が経っているのですが、このへんの対応は遅れています。

地方場所はともかく、東京での本場所は協会所有の国技館で開催されているのですから、場内向けの大型ビジョンの設置くらいはそろそろ実行したほうがいいのではないでしょうか。今回のような微妙な場合だけでなく、物言いのシーンでは審判長の場内説明とともに、問題の場面を映し出せば、観客や当事者の力士の納得も得られるでしょうし、安易な誤審も減るんじゃないでしょうか。

ついでにいえば、今でもビデオ判定の画像はNHKのものを使っているんでしょうか。

これは放送でもしばしば触れられていますが、NHKやそのほかのテレビ中継カメラは、土俵全体を写す必要もあって、やや高い位置に据えられています。

なので、ビデオ画像は常に土俵を見下ろす形となります。そうなると、土俵についたかつかないかなどの細かい判定にはいささか不足。

なにしろ、髪の毛一筋、砂粒ひとつついても負けの世界です。その微妙な判断を下すには、見下ろす形のカメラは不向きでしょう。

昔と違って今では、超小型、高画質のカメラは安価でたくさんあります。土俵周囲や、なんなら土俵のそのものにこうしたカメラを多数埋め込んだらいかがでしょうか。判定の正確さ、それに対する納得の度合いは、ぐんと増すと思いますがね。

それなりの設備投資は必要でしょうが、ここらへんをきちんと整備しないといけない時代がきていると思いますよ。ホントの話。

ついでのついでにもうひとつ苦言。

今場所の三賞は、殊勲賞、敢闘賞が該当者なしで、技能賞に遠藤若隆景ということになりました。これ、もうちょっとなんとかならなかったんでしょうか。

三役で2ケタの10勝をあげた関脇・高安と小結・御嶽海をはじめ、2枚目というむずかしい地位で勝ち越した明生、下位でも久々に幕内で10勝した千代大龍。こうした面々も、せめて候補に挙げるくらいはしてもよかったと思うんですがね。

でも一番文句いいたいのは、遠藤の殊勲賞。千秋楽発表の時点で「優勝したら」の条件がついていたのですが、ご存知のように意地を見せた大関・正代に屈して優勝決定戦進出を逃がし、殊勲賞も手にできませんでした。

ちょっと待ってよ。千秋楽結び前まで優勝の可能性を残し、なによりも優勝決定戦を戦った両大関に勝っているんですよ。これで何が不足だというんですか。

最近の三賞は、どうも出し渋りの傾向が強いようです。安易な大盤振る舞いも困りますが、もうちょっと力士たちの励みになるような出しかたをしてもらいたいものです。

土俵内のことにあまり触れませんでしたが、横綱がいない場所を大関同士の優勝決定戦で締めたんだから、上出来というべきでしょう。総じて相撲内容もよかったし、来場所以降への期待も高まろうというものです。

で、最後にまた苦言を呈さねばならないのは心苦しいのですが。

場所直前に前頭の竜電が、協会が定めた感染防止の規程に違反したとかの理由での全休が発表され、ちょっとあきれたのですが、場所終盤の12日目には大関・朝乃山が外出禁止の規程を破ったとかで途中休場に追い込まれました。

どちらも「外出」の理由はいろいろ報道されていますが、そのへんはツッコみません。でも明白な規定違反があったのだから問題視され、処分を受けるのは当然でしょう。両力士とも猛省が必要です。昨年7月場所に同じような違反で処分を受けた阿炎は3場所の出場停止で幕下まで番付を下げ、幕下連続優勝でようやく来場所十両復帰。その例をまのあたりにしてきたのに、なんたるテイタラクですか。

先に事が露見した竜電の処分は5月27日に、阿炎の時と同等の3場所出場停止に決まりました。今場所が幕尻に近い前頭14枚目だったので、幕下陥落は免れないでしょう。

朝乃山のほうは6月に入ってから処分決定のようですが、同様の3場所出場停止だと、大関陥落。おまけに「陥落直後の場所の10勝すれば特例で大関復帰」の規程も使えないことになります。協会の看板力士である大関ということもあってさらに重い処分になる可能性もあるので、平幕か、下手すれば十両からの再出発を余儀なくされるでしょう。なんとも高くついた外出になりました。

さて最後になりましたが、一人横綱の白鵬はいよいよ次場所が待ったなしの正念場。綱取り・照ノ富士の壁となって立ちはだかるのか、あっけなくトップの座を明け渡すのか、どちらにせよ時代の節目を迎える場所になります。見逃せませんね。

大相撲/丸いジャングル 目次

【追記】 朝乃山の処分は6場所出場停止という重いものになりました。番付は幕下まで降下するでしょう。猛省し、再起してください、ぜひとも。

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