500円映画劇場「パラダイスウィルス」
病気というのは、だれでも怖いもの。それが細菌などによる感染症となると、相手の姿が見えないだけに、恐怖も倍加する。なので、サスペンスやスリラーでは常套手段のひとつになっている。
今回の「パラダイスウィルス」は、原題も「PARADISE VIRUS」 500円映画にしてはめずらしく、ストレートに中身のわかる外見だ。2003年のTVムービー。
カリブ海のリゾートアイランド。そこで突如として謎の疫病が蔓延する。ちょうど休暇でやってきていたウィルス学者のリンダ・フレミング教授は、病気が出血性のウィルス感染症であることを突き止める。だが最初の感染者が西洋医学を否定する新興宗教の信徒だったことから感染は急速に拡大。人口2000人、警察もなく、病院もひとつだけの島は隔離封鎖されてしまう。島民や観光客は死を待つしかないのか……
まさに典型的な伝染病パニックもの。ほんとに、教科書通りと形容したくなるくらい、このジャンルの約束事通りにことが進む。
伝染病がまさに勃発するタイミングで、たまたま島に来ていた女性ウィルス学教授のリンダと、彼女が宿泊するホテルの経営者ポールの二人が、主役。ともに人生のパートナーを失っている二人なので、まあ予想通りにロマンス関係になるかなと思わせておいて、そんな暇もないほどあっという間にパニックが広がる。
感染症のモデルは、明らかにエボラ出血熱だろう。空気感染はなく接触感染で広がるが、伝染力が強く、症状も早く出、死亡率も高い。そういえば劇中でも顕微鏡写真でエボラウィルスの不気味な姿が効果的に使われていた。もちろん設定は、あくまで未知のウィルスで、エボラより凶暴だが。
現実のエボラの猛威を思い起こせば、たしかに大変な事態であることはよくわかる。主役のリンダ教授が事態の収拾に追われ、ロマンスが一向に進まないのも無理はない。
そこで、忙しい主役に変わってロマンスを担当するのは、リンダの息子とポールの娘。若いから仕方ないのかもしれないが、映画が始まっておよそ2分間で恋仲になるあたり、自分の仕事をわかってるね。親孝行だ。しかも、すぐに二人とも感染し、ドラマをさらに盛り上げてくれるし。
脚本にも演出にも大きなミスもなく、余分な特殊効果も必要ないのでボロも少ない。そう、500円映画にしては、出色の手堅さで、破綻のない映画に仕上がっている。
ただし、それが「面白い映画」になっているかというと、まったくもってそんなことはない。
伝染病発覚→患者多数→もうダメだ→血清発見→めでたしめでたし
このラインから一歩も踏み出さないので、ある意味安心して見られるが、パニック映画が「安心して」見られてちゃダメだよな。
こうなった原因の一つは、ストーリーに、くだんのウィルス以外にこれといった「悪役」がいないせい。
当たり前に考えて、憎まれ役がいなけりゃ、お話しは盛り上がらない。
たとえば、観光への影響をおそれて疫病の勃発を隠蔽する政治家とか、疫病の正体が軍の細菌兵器であるとか、テロのためにワクチンを奪おうとするテロ組織とか、予期せぬ悪天候でアメリカ本土からの支援が途切れるとか、手段はいくらでも思いつくけど。
もちろん主人公たちはその強大な悪役に立ち向かいつつ、疫病の蔓延を食い止めようとする――それでこそドラマとして盛り上がろうというものだ。
ところが「パラダイスウィルス」では、そうした悪役は登場しない。ストーリーの初めに、患者の治療を拒否して感染を拡大させる新興宗教の教祖様が出てくるが、悪役というほどではない。
登場人物みながウィルスを食い止め、事態を解決しようと奮闘するのだ。
なんか、感動のドキュメントみたいで、いまひとつパニック映画を見ている気分にならないんだよね。
感染の「仕組み」をCGを使って可視化したほかは、さほどの特撮も必要ないし、低予算でも面白く作れるチャンスがあっただけに、なんとももったいない限り。
もちろん真面目に医学ドラマとして作るんならそれでもいいが、それは500円映画ではお呼びでないジャンル。やはりスリルとサスペンスがなくっちゃあねぇ。
なので評価は「もう少し頑張りましょう」てっところだな。ヒマつぶしに見るなら、もっとツッコミどころのある映画のほうがよかった気がします。


