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未発売映画劇場「ジミー・ザ・キッド」

2024年2月、新潮文庫から『うしろにご用心!』(ドナルド・E・ウェストレイク/木村二郎・訳)が発売された。いや、まさかこんなに時間が過ぎてから、不運な大泥棒ことジョン・ドートマンダ―に再会できるとは思ってもみなかった。ありがたや。

全部で14作の長編があるドートマンダー・シリーズのうち、この作品は第12作目にあたり(2005年発表)邦訳は10作目になる。つまりまだ未訳作品があるわけで、引き続きの邦訳刊行に期待したい。

このシリーズは過去に7度も映画化されている。【詳しくはこちら】 そこで、ひさびさの邦訳刊行を勝手に記念して、日本ではまったく見ることのできなかった「Jimmy the Kid」を紹介してみよう。

前記の記事に書いたように、映画化された7作品のうち4作品は劇場公開をはじめなんらかの形で日本でも見ることができたのだが、残る3作品はまったくの国内未公開。そして不思議なことに、その3作品はいずれも同じ小説を原作にしているのだ。

その小説が、『ホット・ロック』『強盗プロフェッショナル』につづくシリーズ第3作『ジミー・ザ・キッド』(1974年/1977年角川文庫/小菅正夫・訳)だ。

ドートマンダ―とその一味が、リチャード・スターク(ウェストレイクの別名義だ)のミステリ小説で描かれる誘拐計画をそのまま実行しようとするが、例によってさまざまな予期せぬ不幸が襲いかかるというのがストーリーの骨子。なかでも誘拐する子どもが天才少年で、一味がすっかり翻弄されるのがミソ。次々と襲い来るトラブルにどう対処するか、あるいはたまたま回避できるか、名手ウェストレイクの腕前が最大限に発揮されている傑作で、3度も映画化されるのもある程度は納得がいくものだ。

今回取り上げるのは、そのうちの2作目。本国アメリカでは1982年11月に公開されているが、日本では今日まで未公開のまま。アメリカでも劇場公開後にVHSソフトにはなったものの、なぜかDVDにもブルーレイにもなっていない。

それでもネット上にはいくつか全長版がアップされていて無料で見ることができるが、著作権的にどうだかはわからないので、興味のある方はご自分で探して自己責任でご覧ください。

作品スペック的なことをまとめておくと、監督はゲイリー・ネルソン、脚色はサム・ボブリック。いわゆるメジャー作品ではなく、ニューワールドピクチャーが配給している。尺は85分

ドートマンダ―を演じるのはポール・ル・マット、相棒のケルプがウォルター・オルケウィック、ドートマンダ―の同居相手のメイがディー・ウォレスという顔ぶれ。原作では運転手役のスタン・マーチとそのおふくろが参加するが、マーチは割愛され(なぜだ?)おふくろのみがケルプの母親として参戦している。演じるのは大物ルース・ゴードン。悪くない布陣だと思うが、どうかな?

ドートマンダ―の姿がないデザイン

小説『ジミー・ザ・キッド』のおもしろさには、2本の柱がある。

ひとつは言うまでもなく、ドートマンダ―とその一味が次々と遭遇する不幸の連発ぶり。今回は小説をそのまま再現しようとする無理ヘンな計画の招く騒動がその中心だ。

そしてもうひとつの柱が、誘拐の被害者となる子どもがある種の天才少年だということが招くドタバタだ。監禁された部屋からいとも簡単に脱出したりして、いつのまにかドートマンダ―たちを手玉に取ってしまったりする天才ぶりが笑いを誘うのだ。映画ではよくある手で、「ホームアローン」あたりを思い浮かべよう。

前記のように85分というコンパクトな映画なので、このすべてを映像化するのはハナから無理だと踏んだのか、脚色のボブリックはこの2本柱の片方を捨て去ろうとしたようだ。どちらを捨てたのか、それは上掲のポスターやビリングを見れば一目瞭然だろう。

天才少年ジミーを演じるのは、子役として人気を博していたゲイリー・コールマン。彼がこの映画の主役になるのだ。

ゲイリー・コールマンといわれてもピンとこないと思うが、テレビの「アーノルド坊やは人気者」といわれると、あるいは思い出す人もいるかと思う。

これがアーノルド坊やことコールマン氏

「アーノルド坊やは人気者」は1978年から1986年までアメリカで放送された人気コメディ番組。日本では全国放送はされていなかったが、ローカル局ではけっこうゴールデンタイムに放送していたそうなので、地域で知名度に差があるようだ。関東ではごく一部でローカル放送されただけなので、この時期に東京暮らしだった私はまったく見た覚えがない。

そんな人気者をジミー役に配したのが、この映画のツボ。「Jimmy the Kid」は1982年の作品だから、「アーノルド坊やは人気者」のシーズン4と5の間くらいに撮影したのか。番組の人気がまだまだ高かった時期だけに、彼を主役に据える作戦もわからんではない(ちなみにコールマンは1968年生まれだからこのころはもう14~15歳のはず。じつは彼は腎機能に障害があり身長142センチで成長の止まった小人症だった)

作戦はよかったのだろうが、結果的にはこれが原作のおもしろさを削いでしまった感がある。ドートマンダ―一味が単なる脇役になってしまって、影が薄いのだ。

原作ではジミー少年の父親は証券投資家で、身代金を値切ろうとしたり、身代金引き渡し中にもビジネスの電話をかけたりと、とぼけたムードでなかなかいいのだが、映画ではジミーの両親は人気ミュージシャンに設定されていて、あまり面白みはない(ただし父親を演じるのが「ブレージングサドル」クリーボン・リトルなのは、私的にはポイント高い)

かわりに「活躍」するのは、両親が呼び寄せた私立探偵(ピンカートン探偵社かな?)役で登場する、ドン・アダムス。こちらは日本でもガッツリ放送された「それ行けスマート」の主役でおなじみだ。かれがスマートさながらのボケ演技で映画の後半を引っ掻きまわす。

ということで、テレビの2大スターが揃ったせいで、ドートマンダ―一味は完全にかすんでしまった。映画製作陣も、そっちに目が向いていたのだろう。原作小説のファンとしては、残念きわまりない。

それでも、出来上がった映画がおもしろければ良かったのだが、その面でも残念なことになっている。テレビの2大人気者のドタバタした演技が、意外と緻密なストーリーのバランスを大幅に崩しているのだ。彼らだけでなく、ジミーの家の運転手(演じるのはパット・モリタ)がお約束の暴走ドライブで暴れまわったりするのは、ひたすらに蛇足っぽい。

そういえば、監督のゲイリー・ネルソンも脚本のサム・ボブリックも主にテレビ畑で活躍した人で、ネルソン監督は「それ行けスマート」も多く演出している。映画自体がなんとなくテレビっぽいのはそのせいか。「ホット・ロック」のような映画的なスケールがあまり感じられないのだ。

まぁ映画の観客のほとんどは、原作小説なんか知らないだろうから、それはそれでいいんだろうが、やはり映画としての出来はもうちょっと頑張ってほしかったな。アメリカでの興行は失敗したようだし、日本にも入ってこなかったし、ソフト化もほとんどないのだから、残念映画なことは疑いようもない。

不運な大泥棒は、この映画でも不運だった

じつはドートマンダ―を演じたポール・ル・マットは悪くない。「強盗プロフェッショナル」のジョージ・C・スコットよりは「ホット・ロック」のロバート・レッドフォードに近い印象で、TV陣のドタバタに引きずられた面は少々あるものの、意外とドートマンダ―にハマっている。歴代ドートマンダ―のなかでも善戦したほうではなかったか。惜しかったな。

いにしえのVHSジャケット

私にとっては思い入れもある原作の映画化なだけに、どうしても点が辛くなったが、まぁ賛同してくれる人のほうが多いだろうと思う。

ちなみに、これに先立つ1976年の映画版「ジミー・サ・キッド」はイタリア映画、そして1999年のリメイク版はドイツ映画らしい。なかなか見ることがむずかしそうだし出来ばえもあまり期待できそうにないが、いつか見てみたいものだ。

原作初版本。楢喜八さんのイラストが懐かしい

わが友、ドートマンダー(映画版)

未発売映画劇場「強盗プロフェッショナル」

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