令和3年・九州場所雑記
昨年はコロナ禍のせいで東京開催、その名も「11月場所」となってしまったが、今年はなんとか無事に福岡で開催、2年ぶりの「九州場所」になりました。関係各位、ご苦労さまでした。
先場所後に白鵬が引退したので、横綱昇進2場所目の照ノ富士が名実ともに一人横綱となりました。
横綱の重責をたった一人で背負わねばならない一人横綱、昇進直後だけに、さぞや重圧がかかることだろう、照ノ富士がそれに耐えられるかと場所前には心配したものですが、余計な心配だったようです。
15日間、ほぼ危ないシーンなしの盤石ぶりを見せつけて、みごとな全勝優勝。ここ数年つづいていた混戦の優勝争いもなし。ちょっとばかりのモノ足りなさを感じたけれど、安定感があるに越したことはないわけですね。
それにしても、照ノ富士の強さ、安定感は抜群でした。追い込まれたかに見えた相撲も何番かありましたが、コメントなど見ていると、どうやら本人的には余裕があったようです。
今場所は上位にかなりの実力者が並んでいたのですが、結局のところ誰一人として照ノ富士城の本丸に攻め込むことはできなかったわけで、これでは当分の間、照ノ富士の独走状態が続きそうです。
白鵬引退とほぼ同時に、照ノ富士の安定政権が誕生したようで、さてそうなると、ここからの見どころは「どこまで記録を伸ばせるか」になりそうですね。
すでに先場所達成した「新横綱場所に優勝」に続いて「新横綱場所から二連覇」という記録を達成したわけです。
新横綱場所に優勝したのは、過去に太刀山、栃木山、双葉山、東富士、大鵬、隆の里、貴乃花、稀勢の里の8人しかいなかったわけですが、その次場所にも優勝して連覇したのは、1911年(明治44年)の太刀山、1918年(大正7年)の栃木山、1938年(昭和13年)の双葉山、そして1962年(昭和37年)の大鵬の4人だけ。史上5人めで、しかもいずれ劣らぬ名横綱の面々と伍しての達成だけに、これは大記録といえるでしょう。
さてこうなると、今後白鵬のように優勝回数を積み上げられそうな気もしますが、照ノ富士はすでに30歳。年齢的に見て、これから優勝回数を積み上げるのには、さすがに限界があるでしょう。
今場所が6回目の優勝なので、大横綱の目安ともいえる優勝20回まではまだ14回の上積みが必要。とりあえず、優勝回数2ケタの10回は可能でしょうが、そのあとどれくらい上積みが出来るのか。
優勝回数の最多記録は、いうまでもなく白鵬の45回ですが、大鵬(32回)、千代の富士(31回)、朝青龍(25回)、北の湖(24回)、貴乃花(22回)、輪島(14回)、双葉山(12回)、武蔵丸(12回)、曙(11回)までが上位10人。あと5回優勝すれば照ノ富士も10位タイ、ベストテン入りできるわけですから、ここは狙えるでしょう。
そのほかの記録では、まずは連続優勝が狙えるのでは。朝青龍と白鵬の7連覇は金字塔ですが、現在の照ノ富士の安定感を見ると、チャンスはありそうです。
たとえば、来年の6場所をすべて制すれば8連覇の新記録。ついでに、いままで朝青龍しか出来ていない年6場所完全制覇も達成できるわけですから、是非とも達成していただきたい。いずれは出現するであろう強力なライバルが出現する前にね。
そして照ノ富士の安定ぶりを見ていると、連勝記録への期待も膨らみます。白鵬も大鵬も千代の富士も届かなかった、あの双葉山の69連勝を超える可能性もあるんではないでしょうか。
秋場所13日目からスタートして、現在のところ18連勝。
あと51番勝ち続ければ、双葉山に並びます。場所数にすると3場所と6日。来年名古屋場所の6日目には達成できますね。期待していいでしょうか?
その安定・照ノ富士を揺るがすのは誰か。今場所の取組を見ている限りでは、貴景勝、正代の両大関や、準・大関ともいうべき御嶽海でも、肉薄はできても打倒するのはむずかしそうです。
むしろ可能性を感じたのは、最後まで優勝を争った阿炎。
いろいろあって3場所の出場停止後に幕下から再スタート、今場所でようやく7場所ぶりの再入幕を果たした阿炎でしたが、初日から快進撃。照ノ富士がいたために平幕優勝かの機運はいまひとつ盛り上がりませんでしたが、11勝を挙げました。なかでも14日目に組まれた照ノ富士との一番では、横綱を追い込むシーンを作りました(照ノ富士は余裕があったようですが)
もともと心技体の「心」以外には定評のあった阿炎だけに、出場停止の間にその点が改善されたのなら、むしろ当然の成績だったのかもしれません。来場所は幕内上位に戻ってきそうですし、それ以降にも注目ですね。
そしてもう一人、同じく3場所出場停止となって今場所から出場した竜電も幕下優勝を果たしました。出場停止というお灸が効いたのでしょうか。
だとすると、現在6場所出場停止中の朝乃山の復帰も楽しみになってきましたね(笑)
さて、今場所も苦言をひとつ。
今場所もまた、物言いのついた相撲が何番もありました。それ自体はもつれた相撲が多かった証拠で、べつに文句をいう筋合いではありません。
文句をいいたいのは、そのシステムです。
いちばんの例は8日目の貴景勝対逸ノ城の一番。
ご覧になった方はおわかりでしょうが、この一番はスッキリしないものが残りました、それもたっぷりと。
立ち合いから激しい押し合いとなり、その後は両者の動きが止まって膠着状態に。2分以上の大相撲となって、最後は逸ノ城が攻勢に出て、必死に回りこむ貴景勝が土俵下に転落して勝負あった。軍配は逸ノ城に……と思いきや物言い。
じつは、両者の動きが止まる際に、逸ノ城が貴景勝の頭を押さえこんだ、その手が髷(まげ)にかかっており、判定は逸ノ城の反則負けとなりました。
その判定自体には疑問はありません。故意ではなくても髷に手を掛けるのは反則。
ただ、その反則行為が起きてからも相撲は続き、2分ほども相撲を取ったあげくの反則裁定。反則負けが成立してからも両者は2分も相撲を取らされたわけで、結果的に勝った貴景勝はもちろん、2分余もくたびれもうけの相撲を取らされた逸ノ城が憮然としたのも無理はないでしょう。
しかし、これは仕方なかったこと。勝負途中で審判が手を上げて中断させたとして、その判断に間違いがあったらどうするのか。その時点から勝負再開というわけにはいきません。ここはいったん勝負がつくまで取らせるのはうなずけるところです。この一番ではそれが異常に長引いたのは誤算だったでしょうが。
サッカーでもビデオ判定(VAR)が導入されて以降、得点シーンでのオフサイド判定はプレーが切れるまで旗を上げないオフサイドディレイが採用されていますね。あれと同じことでしょう。
問題は、それが説明不十分なことです。
もちろん審判長がマイクで場内に説明するのですが、それで場内の観客は納得いったのでしょうか?
とくにこの一番の場合、勝負が決した瞬間は髷とはまったく関係ない体勢だっただけに、見ている側としては「は? 反則? 髷? なんで?」となりますよね。
テレビやネットの中継で見ている分には、リプレイや解説があるので、ああそうか、その場面かと納得できるのですが、場内の観客は「?」だったと思いますよ。
こういうケースは、ふつうの物言いでもよくあることです。勝負が決する瞬間でなく、展開の途中で踏み越しや手付きがあった場合などですね。
テレビ桟敷の視聴者とは違って、時間とお金を使って観戦している場内の観客だけが置いてきぼりなのは、やっぱりマズいんじゃないでしょうか。
とはいっても、審判員の説明だけでわからせるのは不可能。どうしたって言葉だけでは説明しきれませんよね。
やはり、国技館をはじめとする会場に、野球やサッカー、プロレスなどではおなじみの、大型ビジョンを導入すべきではないでしょうか。ビジョンで問題のシーンを流せば、場内の観客たちにも納得がいくはずです。
大型ビジョンはほかにも演出上のさまざまな応用が効きます。まずは国技館の四隅の花道上にでもビジョンを設置してはどうでしょうか。いまはそんなに難しいことではないでしょう。
大相撲って保守的に見えて、じつはけっこう大胆な改革をしてきています。ビデオ判定の導入にしても、もう50年以上も前から。ほかのどんなスポーツよりもはるかに早く導入しているのです。ビジョンの設置くらい、軽い軽い。早いところ実現してほしいものですね。
さてこれで令和3年の本場所はすべて終了しました。来年は照ノ富士の独走が予想されるのは先に述べたとおりですが、スンナリとそのとおりになっては、それはそれで面白くないですよね。大関をはじめとする上位陣の巻き返し、若手の台頭に期待しましょう。
そしてなによりも、来年も6場所が無事に開催されますように。
