最高の景色
2017年12月2日。
長いあいだ待ち望んでいた、最高の景色を見た。
まだ小学生だった息子が学校でもらってきた招待券を持って、父子でぶらりと何気なく川崎フロンターレの試合を、等々力に見に行ったのが最初だった。その時から、いつしか月日は流れ、息子は高校生になり、干支はひとまわり。そして、その間タイトルを獲れなかったフロンターレは、シルバーコレクターと言われ続けた。悔しい日々が続いた。
だが、この日とうとう、その瞬間がきたのだ。
川崎フロンターレ、初優勝。
その瞬間は、ずっと思い描いていたのと違い、そんなにクッキリとしたものではなかった。
今季最終節の大宮アルディージャ戦。その試合前の段階で、首位の鹿島アントラーズとは勝ち点差2点の2位。こちらが勝っても向こうが引き分け以下でないと逆転できない。
だから、スタジアムにはなんとなく「ダメならダメでしょうがない」的な空気があった。もう慣れてるのだ、そういう状況には。
目前の試合は圧倒的有利に進んでいった。
しかし、アントラーズの状況が、はっきりわからない。選手にもベンチにも知らせないというチームの方針が徹底していたためか、いつもならハーフタイムに表示される他会場の途中経過も出されないまま。
なのでわれわれも、なんとなく気にはなっても、過剰にアントラーズの戦況を意識し過ぎることはない。
キャプテンの小林悠が、得点王をほぼ手中にする3ゴール目を決めた時点で「今シーズンも、いい終りかたができるな」みたいな気分がスタジアムに流れていた。
アディショナルタイムに入り、いよいよ終了間際のところで、途中出場の長谷川竜也がドリブルで持ち込んで5点目のゴール!
今季躍進したルーキーのゴールで喜んでいるところで試合終了のホイッスルが吹かれたらしいが、気がつかない。
次の瞬間、ベンチメンバーがどっとピッチになだれ込んできて、観客も「え、えっ、もしかして?」
タイミングよくビジョンに「磐田0-0鹿島」の表示が!
正直言って、そのあとはよくわからない。
「ついにやった!」とか叫んだような気がするが、たぶんわけのわからない言葉になっていただろう。隣りでは妻子が吠えていたらしいが、それも覚えていない。
ピッチの感動的な様子は、テレビなどでさんざん流れたからご覧になった方も多いだろうが、現場ではよくわからなかった。
頭の中が空っぽになるとか真っ白になるとか言うのとも、ちょっと違う。
なんか、言葉で言い表わせない、今まで経験したことのない、何とも言えない感覚にとらわれて、ただひたすら叫び拳を突き上げる。
でも、これこそが、最高の景色というやつなんだろう。
優勝という経験は、いままで多くのクラブが味わってきた。そのたびに、そのクラブの選手や関係者やサポーターは、こういう感覚を味わっていたのか。
ただ、われわれは、長い長いあいだ、この時を待っていた。
ちなみにJ2からスタートした、いわゆるJ2オリジナル10(札幌、仙台、山形、大宮、FC東京、川崎、甲府、新潟、鳥栖、大分)から叩きあげて、J1の優勝を手にしたのは、フロンターレが初めてだ。
それだけに、たぶんいままでの優勝クラブとは、格別の味わいがあっただろうと思う。それに、「初優勝」はまた特別だろう。
こんな素晴らしい経験を与えてくれた川崎フロンターレには、感謝以外の何物もない。
とはいえ、これはゴールではない。
「たどり着いたら そこがスタート」 (樋口了一「1/6の夢旅人」より)
そう、まだまだやることは、たくさんある。
圧倒しての連覇、3連覇。
ルヴァンカップ、天皇杯の獲得。
ACLを勝ち抜いての制覇。
そしてクラブワールドカップから世界の頂点へ。
「旅に終わりはない 歩きつづけるかぎり」 (怒髪天「歩きつづけるかぎり」より)
でも、われわれは最高の景色を見た。
次は何が見えるんだろう。
スポーツ雑記帳 目次
【追記 2017/12/8】
読み返してみたら、なんかこの日の等々力がいつも通りみたいに読めたんで、反省。じつはこの日の等々力には、試合前から一種異様な熱気が立ち込めていた。とにかく観客数が多く、またその出足が早かったので、客席は文字どおり立錐の余地もないありさま。バックスタンドのコンコースはまさに満員電車状態で、トイレに行くのも一苦労だった。そのせいか、いつも買っていたマッチデープログラムも早々に売り切れたらしく、とうとう買い損ねたのは残念。きわめつけは、川崎市長の試合前の挨拶。地元密着のフロンターレだけに節々での市長挨拶は恒例。いつもは政治家らしく、アウェイサポーターにも歓迎の言葉などあるのだが、この日は一切なし。「絶対勝ちましょう!」と応援団顔負けの熱い檄で、超満員の場内をヒートさせてくれた。試合開始早々の阿部浩之のゴールは、この熱気にあおられたせいかも。
