令和2年・春場所雑記
新型コロナウィルスとやらの影響で、史上初の無観客で開催された春場所。
何はともあれ、無事に千秋楽まで開催されたのは何よりでした。
なにしろ無観客での開催を発表した記者会見で八角理事長が「力士など関係者に感染者が出たら、即刻中止」と宣言してしまったのですから、休場者が出るたびに冷や冷や。
なかでも中日に幕内の千代丸が発熱のため休場したときには、これは場所も打ち切りかと覚悟したものです。検査の結果、原因は蜂窩織炎と判明してホッと一息。千代丸も3日間休んだだけで復帰しました。
無観客場所については、いろいろな感想がありました。
なによりも、その異様な静けさは強く印象に残ります。
観客の歓声が、大相撲にとっていかに大きな要素なのかを痛感しましたが、おかげで、いつもは聞くことが難しいいろいろな音、四股の力強い響き、締め込みが立てるキュキュッという擦れ音、飛び出しが時間いっぱいを力士に告げる声、などなど。
またその静けさが、神事である相撲の本来なのではという感想も、マスコミやネットなどでは散見しました。
でも、この意見には同意しかねますね。なんといっても大相撲は、もちろん神事っぽい側面はあるものの、根本的にはスポーツ興行です。これは江戸時代にはすでに成立したもので、大相撲はたぶんわが国では最古のプロスポーツなのです。
観客がいない相撲場の雰囲気は、やはり盛り上がりに欠けました。千秋楽結びの一番で東西両横綱の白鵬と鶴竜が相星で対峙するという最高の優勝争いを見せてくれたのに、残念ながら「史上もっとも盛り上がらない相星決戦」になってしまいました。やはり飛び交う歓声、観客の熱気、野次と怒号、舞い飛ぶザブトン(あ、これはほんとはダメ)がなければ、相撲場じゃないよ。
ということで、こんな場所は今回限りにしていただきたいものです。
ただ、こんな異常な状況下で、滞りなく本場所を挙行した日本相撲協会には感服しました。かつてない、だれも経験したことのない状態なのに、事故もなく乗り切ったのだから、大したものです。
協会幹部や親方衆、そして力士はもちろん、行司、呼び出し、職員の全員が一丸となって臨まねば不可能だったでしょう。過去にも様々な危機を乗り越え、したたかに生き残ってきた、角界の底力を思い知らされました。恐れ入りました。
そしてそんな異様な場所を引き締めたのは、やっぱり横綱・白鵬。今場所の相撲と態度は、これぞさすがに第一人者。ビシッと引き締めましたね。ここのところ休場も多く、そろそろ限界かと思いましたが、まだまだ白鵬時代を譲るつもりはないようですね。こちらにも、恐れ入りました。
ということで今場所は、どうしても無観客という状況に目が行きがちでしたが、どうしてどうして、相撲内容も非常に良かったと思います。やはり力士一同も気合が入っていたのでしょう。いやいや毎場所こんな相撲が続けば、大相撲の将来は大丈夫だぞ、などと思いましたよ。
そんな状況下でしたが、テレビ中継を見ていて目についたことをいくつか。
長年大相撲を見てきて、それでも気づかなかったんだけど、呼び出しってあんなに大勢いたんだね。
ふだんは観客にまぎれているせいだろうけど、その障壁(笑)がなかった今場所は、呼び出しさんたちの姿が目につきました。みなさん忙しそうで、いやいや裏方ってタイヘンなんですね。逆にいえば、日ごろはテレビの前の我々も含めて、いかに観客の邪魔にならないように働いているか、そのすごさが逆説的に浮かび上がった次第です。
そして、ことに後半戦から目についたのが、土俵を飛び出した力士が、無人の桟敷席に転がり込んだり、勢い余って駆け込んだりする姿。
考えてみりゃあ、あれだけのパワーとスピードで土俵から突き飛ばされるのだから、勢いがつくのは当たりまえ。ということは、ふだんあそこまで飛び出す力士がほとんどいないのは、観客にケガや迷惑がかからないよう、必死に砂かぶり席あたりまでで勢いを止めているんですね。満席の桟敷席に巨体の力士が突っ込んだら大惨事になりかねませんから。
そう、力士たちはいつもは、観客の身の安全まで意識して戦っていたんですね、たぶん。
今場所はこんな状況だったので、飛び出し放題だったわけです。そうか、相撲内容がよかったのは、そうした気兼ねもなく相手を吹っ飛ばせたからなのかもしれない。だとしたら、そして力士みんながそれに慣れてしまっていたとしたら、観客が入った状態で開催されるはずの来場所、桟敷席のお客さんは要注意ですね。
私は川崎市民なので、わが川崎フロンターレとも仲良しな川崎市内唯一の相撲部屋・中川部屋を秘かに応援しています。
先場所は序二段の旭勇幸が7戦全勝で優勝決定戦に臨みました。色々あった中川部屋にとっては初の優勝のチャンスでしたが、相手が元幕内の宇良だったのであえなく敗戦。
そして今場所は、部屋頭で幕下の旭蒼天が無敗で6連勝。今度こそ中川部屋に初の優勝が……と思いましたが、残念ながら錦富士との全勝決戦に敗れ、またも大魚を逸しました。
でもこうして着々と所属力士は力をつけています。旭蒼天は来場所は幕下最上位で十両アタック。
また昨年春場所でデビューした、中学横綱の吉井はまだ16歳ながら負け越し知らず、今場所は三段目上位で5勝を挙げて来場所は幕下昇進も確実そうです。近々、中川部屋にも初優勝がもたらされることでしょう。応援してるからね。
場所前から焦点となっていたのは関脇・朝乃山の大関盗り。
12日目までで10勝2敗とし、終盤戦で両横綱との連戦を迎えたときには、これは大関当確かと思いました。
ところが、両横綱の牙城を崩せずに無念の連敗。どちらも土俵際できわどい展開となりましたが、負けは負け。
正直いってこれは来場所に持ち越しかと思いましたが、千秋楽に大関・貴景勝に気迫の押し相撲で圧勝して、見送りムードをひっくり返しました。
大関昇進、おめでとう! でもここはまだゴールじゃない。横綱へのスタート台と思って、いっそう頑張ってください。
さて来たる夏場所は……その新大関・朝乃山は? カド番となる貴景勝は? 次なる大関候補に名乗りを上げつつある正代は? 鶴竜の巻き返しは? そしてまたしても健在ぶりを見せつけた白鵬は? 見どころは豊富になりそうです。
でも最大の注目は、来場所こそはちゃんと興行できるのかどうか?ですかね。
