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ドイツ、デュッセルドルフ: お菓子の箱のような城、ベンラート城

2025年12月16日
 この日、私はデュッセルドルフ市内にあり、周辺でも一番有名な城、ベンラート城Schloss Benrathに行くことにした。ベンラートとは市内の地区の名前である。私はもうデュッセルドルフ周辺に5年近く住んでおり、当城は近くにあるからこそいつでも行けると思って、中々足を運ばずにいたが、最近、転職活動とそれに伴うドイツ語の検定試験の勉強により忙しい日々が続いていたので、短時間で気分転換が出来る場所として、ここに行くことにした。
 城の公式サイト曰く、当城は1755年にプファルツ選帝侯カール・テオドールKurfürst Carl Theodor von der Pfalzが庭園及び建築の監督であるフランス人、ニコラ・ピガージュNicolas Pigageに、夏季や狩りの際の別荘として建築させた。城の建築は戦争による中断を挟んで1771年に完了した。
 私はデュッセルドルフ中央駅からS68のトラムに乗り、14分後、城最寄りのベンラート駅に着いた。そこからは西に徒歩約15分で城に着いた。時刻は既に15時を回っており、最終入場時刻の16時半まで余り時間は残されていなかった。

帆立の貝殻のような形の人口池

 ここからは城の敷地内の建物や庭の位置関係に関して書いて行く。先ず、一番北に帆立の貝殻のような形の人口池があり、その南縁には上空から見ると横に寝せた日の字型の城本館がある。本館左右それぞれには、上空から見ると二等辺三角形に見える別館があり、両三角形とも池に向いた等辺でない辺が内側に湾曲していて、二等辺三角形の形に沿った中庭を持っている。本館南には約1kmの細長い人工池があり、その中頃の東隣には、上空から見るとLの字を反転させて左に90度倒した格好の、旧城のオランジェリーが、そしてオランジェリーの直ぐ東には小さな小屋のようなチャペルがある。それにオランジェリーの北には賽の目状に区切られた正方形の庭園が、前述の人工池の東側には各辺約1kmの正方形型の森が、それぞれ隣接していた。

本館

 館内に入ると、城や庭園のミニチュアが置かれた白壁の部屋に、各部が破損した白い半裸の男性やライオンの石像が置かれた茶色い煉瓦の倉庫のような部屋があり、両部屋を抜けると、城らしい豪華な部屋の幾つかに繋がっていた。説明書き曰く、これら豪華な部屋は自然との共生を体現していた。
これらの部屋の床は二種あり、一種類目はダイヤ型や正方形に切り出された緑色や臙脂色の大理石の床であり、もう一種は同じくダイヤ型や正方形に切り出された木材を繋いで作られ、強い光沢が出るまでにニスを塗られた床だ。
 内壁も大きく分けて二種あり、一種目は白壁で、そこにはリース、壁龕に沿った貝殻、羊の頭部、子犬、木の葉など自然のモチーフが天使と共に浮き彫りにされていて、葉の形の種類でバリエーションが表現されていた。二種類目は部屋毎に統一された淡い黄色やピンクなどの色の布で覆われた部屋で、これらの布は、優しいタッチで植物モチーフの模様が描かれていた。
 それに興味深いドーム型の天井を持った部屋もあった。この部屋の床は一種類目の方で、黒い大理石の壁には、格子窓や白い天使像を挟んで白い柱が浮き彫りにされていた。白いドームの内側には、白い蒲公英らしき花が幾つも螺髪のように等間隔で浮き彫りにされていて、ドームの中心には雲の上にいる人々や天使が描かれていた。そして興味深かったのは、この人々や天使の絵の中心が丸く窪んでいたことである。この窪みは、黒い格子模様が入った白いカーテンを模した装飾で縁取られていて、このカーテンは一人の天使に持たれていた。また、この窪み自体には、霧掛かったような分かりにくいタッチで雲の中の人々数名が描かれており、この絵の色かそれとも照明の色は分からないが、窪みは水面のような青色で満たされていた。このドーム内側中央の二段構造は、天界を天使が住む世界と神が住む世界に二分して描き出しているようであり、とても前衛的だったし、新しい宗教的な芸術表現だと思った。

 本館は城としては決して大きくなかったし、私は営業時間を考慮して速足で見た心算だったにもかかわらず、城がとても美しかった上に、来場者が私一人だけだったので、結局1時間いてしまった。別館二2館はそれぞれ、庭園関連の絵が中心に展示された美術館と、自然史博物館になっており、私は営業終了まで30分もない限られた時間を利用して、後者をかなり足早に見た。
 両別館は本館のように下部がピンクで上部が黒い屋根になっていたが、内部は何の変哲もない白壁の倉庫のような空間だった。自然史博物館の展示物はドイツで捕獲された動物を大半とした数百体もの剥製で、ドイツや周辺の自然環境の歴史が書かれたパネルが壁を覆い尽くしていた。私は本館が持っていたような建築芸術の素晴らしさを別館にも期待していたので、肩透かしを食らった気分だった。
 城の見学の最後、私は細長い池沿いに歩き、オランジェリーとチャペルの外観も見た。前者は縁のない寄棟屋根を、後者は縁のない方形屋根を被っていて、両者共に屋根は黒く、外壁はプリンのような淡くも明るい黄色だった。前者は2階各階に格子窓が付いており、その中からは図書館として転用されていた内部の様子が見えた。外の駐車場では図書館帰りらしき親子連れ数組が楽し気に歩いていた。私は独身の状態で国外にて35歳の年を迎えたが、多くの同級生達のように地元に残って家庭を持っていたら、別な人生もあったのかなと、楽しそうな親子連れを見ると時々思う。

約1kmの細長い人工池
オランジェリー
チャペル

 それから直ぐそばで開かれていた小さなクリスマス・マーケットにも足を運んだ。売られているものはグリューワインにクッキーやソーセージなどドイツでは代わり映えのないものだったが、本館を模したピンク色の屋台のカウンター下には、ピンク色の花輪に縁取られた本館が横並びに2個描かれていて、可愛らしかった。小さいことではあるが、私はこう言う風に細部に旅先の土地柄や伝統が発現されるのが好きだ。ドイツの建築家、ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエLudwig Mies van der Roheが芸術に関して「神は細部に宿る。」と言ったように、伝統もまた細部に宿るのだ。

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