森は、目に見えない“脈”でつながっている──『マザーツリー』を読んで、鍼灸師として思ったこと
『マザーツリー 森林に隠された「知性」をめぐる冒険』
(著:スザンヌ・シマード/訳:三木直子/ダイヤモンド社)を読み終えました。
読みながら、何度も立ち止まりました。
「これは森の話なのに、私たちの“生き方”の話だ」と、からだが先に反応してしまったからです。
この本は、ただの自然科学の本ではありません。
研究者が、森の奥で、時間をかけて、仮説を立て、否定され、傷つきながら、それでも森に通い続けて、ある“仕組み”に触れていく物語です。
そして、その仕組みが、あまりにも人間的で、あまりにも東洋的でした。
まずは、これだけ知っていれば話が早い
著者のスザンヌ・シマード先生は、TEDトークでもこの研究を語っています。
文章だけでなく、本人の口から出てくることばの圧がすごい。研究の熱が、そのままこちらのこころに届いてきます。
YouTube:
https://youtu.be/Un2yBgIAxYs?si=2NICsdbpY-jhLKbm
本を読む前でも、読んだ後でもいい。
このトークを観ると、「森の見え方」が変わります。
木々は、地中で“つながっている”
私たちが森を歩くとき、目に入るのは幹と枝と葉です。
けれど森の本体は、むしろ地中にあるのかもしれない。
木は、地面の下で菌と手を組みます。
菌糸のネットワークが広がり、木と木が情報や栄養をやりとりする通路になっていく。
私はこの話を、知識としてはうっすら知っていました。
でも本書がすごいのは、「それが本当に起きている」と言えるところまで、どう実験し、どう疑われ、どう検証していったのかを、物語として見せてくれるところです。
科学って、冷たいものではなくて、執念と愛情でできている。
読んでいると、そんな感覚になります。
「マザーツリー」という存在
本の中で、ひとつの核になる概念が出てきます。
それが「マザーツリー」。
森の中には、中心になる木がいる。
年老いた長老のような木が、ネットワークの要になり、森全体とつながり、必要な場所に必要なものを回す。
炭素、窒素、水。
それらが、“助け合い”として動くことがある。
著者はそれを、家族のようだ、とたとえます。
私はこのたとえに、最初は少し躊躇しました。擬人化しすぎでは、と。
でも読み進めるほどに、むしろこの言い方以外で説明できない気がしてくる。
森は、個体の集合ではなく、関係性そのものとして生きている。
そう見えてくるんです。
衰退は、終わりではなく“受け渡し”になる
この本の中で、私がいちばん胸をつかまれたのは、ここかもしれません。
傷ついたマザーツリーが、すぐに倒れるのではなく、ゆっくり衰退していく。
その時間の中で、残りの力を使いながら、次の世代へ渡していく。
私は読みながら、こう思いました。
エネルギーは、創造も破壊もされない。
形を変えて、循環していく。
森の中でも、人の人生の中でも。
何かが失われているように見えるとき、
実は別の場所で、いのちの受け渡しが起きているのかもしれない。
この感覚は、頭で理解するというより、からだの内側に沁みてくる感じでした。
570ページ超。読むのに“覚悟”がいる本
正直に言うと、この本は軽く読めません。
ページ数も多いし、内容も濃い。読めば読むほど、森の話がどんどん自分の内側に入ってくる。
でも、だからこそ「読み終えた後に残るもの」が大きい。
知識が増えるというより、世界の輪郭が変わる。
森を見ても、人を見ても、関係を見る目が変わってしまう。
大げさに聞こえるかもしれませんが、私はそうでした。
鍼灸師として思った。「脈」は、個人の中だけにない
私は日々、鍼灸の場で「見えないもの」を扱っています。
気、そして経絡。
誤解を恐れずに言えば、私はこう感じています。
経絡は、人ひとりの中に閉じて存在しているのではない。
からだの内側で完結しているように見えながら、実は外へ、外へと開いている。
人と人の間にまで、“脈”の延長がある。
この本を読むと、その感覚が強くなります。
森のネットワークを見ていると、
「つながり」は比喩ではなく、生存の仕組みそのものなんだとわかってくる。
そして鍼灸の施術は、私の中ではこういう位置づけです。
分断された“通路”をつなぎ直すこと。
巡るべきものが巡れるように、道をひらくこと。
その結果として、人が自然な状態に戻り、自己治癒しやすくなること。
それは個人のからだだけの話ではなく、
人と人の関係の中にも、同じ構造があるのかもしれない。
つながりが切れてしまうと、孤立する。
孤立は、からだにも、こころにも、静かに効いてくる。
森が教えてくれるのは、まさにそこでした。
科学なのに、東洋哲学みたいだった
もうひとつ、強く印象に残ったのは「発見のされ方」です。
この本は、東洋哲学の話をしていません。
けれど、全体がどこか東洋的なんです。
部分ではなく全体。
個体ではなく関係。
目に見える現象の背後にある、見えない流れ。
科学の方法論で、そこまで行けるんだ、という驚き。
そして、だからこそ、いまの時代に必要な本なのかもしれない、とも思いました。
この本を勧めたい人
鍼灸師や、からだを扱う仕事の人には、特に勧めたいです。
理由は単純で、私たちは日々「関係性」を扱っているから。
症状を“点”で見ない。
からだを“部品”として見ない。
その人の生活、人間関係、季節、環境まで含めて診る。
その感覚の延長線上に、森がある。
『マザーツリー』は、そんなふうに感じさせてくれる本でした。
最後に
本を読まなくても、まずはTEDトークだけでも観てほしい。
森の話なのに、なぜか自分のこととして聴こえてくるはずです。
私たちは、見えないところでつながっている。
そのつながりが、弱ったときに弱る。
つながりが戻ったときに、戻る。
森を見て、そんなことを思う日が来るとは、少し前の私は想像していませんでした。
