【栃木】鬼怒川温泉「御宿 一富士」_こだわり溢れる田舎料理が楽しめる温泉民宿

東京の奥座敷と称されバブル期に大規模温泉地となった「鬼怒川温泉」は、栃木の有名な温泉地だ。江戸の頃に西岸の滝地区にて「滝温泉」が見つかり、日光の社寺に参る大名や僧侶に利用された。明治の頃に東岸の藤原地区にて「藤原温泉」が見つかり、併せて「鬼怒川温泉」を名乗るようになった。現在は鉄道駅の立地のため、藤原地区の南の大原地区が中心地となっている。

鬼怒川温泉の急発展の要因には、「下滝発電所」(現鬼怒川発電所)の建設がある。かつては源泉が少なく昭和初期まで宿は3軒しかなかったが、上流の発電所が稼働し川の水位が下がると、新源泉が発見されそれを利用する形で宿が増えたそうだ。鬼怒川温泉には渓流の岸壁に建つ施設が多いが、これは景観のためだけでなく岸壁の源泉を使っていた頃の名残とも捉えられる。

報道やSNSの影響で、鬼怒川温泉と言えば「廃墟」というイメージが世間に広まっている。廃墟の存在は事実だが、それは藤原地区の一画であり多くの施設は現役だ。「廃墟」という強い言葉だけ先走り、俯瞰的な実態を無視したネガティブな情報が広まることは良いことではない。人の往来がありお店も多く、観光地としては十分元気な街であることをここに記しておく。
「御宿 一富士」について

「御宿 一富士」は、滝地区に位置する客室数10の民宿だ。大型ホテルが並ぶ鬼怒川温泉では珍しい小さな宿である。日光市が発行するパンフレットでは鬼怒川・川治温泉民宿組合の欄に唯一名前があり、組合が成立しているのか疑問である。宿から150 mほどの北に向かうと姉妹施設「御食事処 一富士」があり、そちらで夕食を取るリーズナブルなプランも販売されている。



建物自体はやや無機質だが、館内には小物や装飾品などが置かれており、雰囲気を良くしている。ところどころに置かれている灯りも素敵だ。古さは感じるが、きちんと清掃されているため清潔感がある。1階にはフロントと浴場および食事処があり、2, 3階が客室がある階になっている。

客室はシンプルな和室でバス・トイレはないが、共用設備は比較的新しく清潔感があるので気にはならないだろう。部屋からは滝地区の街を望める。素泊まりだと安いビジネスホテルのようなシングルルームが手配されるが、食事付きのプランではこの和室が手配される。写真にはないが、お茶請けは鬼怒川温泉の温泉まんじゅう、緑茶も用意されている。
「御宿 一富士」の温泉

浴室は2つあり、札を掛けて利用する。2人以上であれば貸切ができるが、1人客の場合は男湯または女湯の札を掛けて利用する。ただ貸切での入浴を好む客が多いためか、1人で入浴していて他の客が入ってくることはあまりない印象はある。

2つある浴室のうち大きい方を取り上げる。大きいと言っても浴槽自体のサイズにはあまり違いがなく、小さい方との違いは露天風呂の有無である。やはり露天風呂がある大きい浴室の方が人気がある印象で、チェックイン後などタイミングによっては争奪戦になることがある。

左手にカラン、右手に浴槽、奥のガラス戸の向こうには露天風呂がある。換気が弱く少し籠っている。内湯の浴槽のサイズは1-2人向けだ。

露天風呂では、鬼怒川温泉の共同源泉が掛け流しになっている。源泉名は「鬼怒川・川治温泉観光開発1・2号および小原沢市有源泉混合泉」で、泉質は「アルカリ性単純泉」だ。多くの単純泉は芒硝を主成分とするが、この源泉の主成分は石膏である点がやや珍しい。お湯は無色透明無味無臭で癖がない。浴槽には程度の広さがあり、1人なら足を伸ばしゆったり入浴できる。壁があるため眺望はないが、簾や植木が空間を演出している。

湧出温度が低いための加温と衛生管理のための消毒がされており、完全な源泉掛け流しではない。とは言え、温泉の湧出量に対して施設の数と規模が大きすぎる鬼怒川温泉で、このようにお湯を掛け流している施設は珍しい。温泉にこだわりがある人も満足できるはずだ。
「御宿 一富士」の食事
〜夕食〜

食事は夕朝食ともに会場食となる。先に建物自体は無機質だと述べたが、食事処のデザインは例外だ。木を基調とした古民家風の造りになっている。半個室とまでは言えないが、他の席とは程よく隔てられており、落ち着いて食事を取ることができる。

田舎料理と称した食事が提供される。鹿のたたき、里芋の柚子味噌焼き、韮の茎の和物、湯葉の餡掛け、ぜんまいの煮物など地のものを使った料理が多く並ぶ。どれも素朴で優しい味わいだ。

鹿のたたきはこの宿の名物料理だ。脂肪分が少なく臭みもないヘルシーなお肉で、とても美味しい。この後の料理が続々と提供される。



一品一品のクオリティが高くこだわりを感じられる味付けになっており、満足感がある料理だ。良い意味で豪華な料理が出るわけではなく、身体への優しさを感じられる。こういった料理を楽しめる宿は、鬼怒川温泉に限らず貴重である。


雑穀ご飯と小さなうどんも提供される。これらはドリンクでアルコールを頼むと〆で提供されるようだが、そうでなければ途中で提供される。

鍋はかなりあっさりとした味付けだ。秋-冬のメイン料理は地鶏の鍋だが、春-夏は日光市のブランド鱒を使った鍋料理になるとのこと。

最後にはジェラートと熱々の緑茶が提供される。ジェラートはフルーツのフレーバーでさっぱりとしており、口直しに丁度良い。
〜朝食〜

写真だと少し暗いが、朝の食事処に朝日が入り非常に雰囲気が良い。木を基調にした空間であるため、まるで木漏れ日のような印象を受ける。

朝食は野菜中心の料理が集まったプレートと、焼鮭や温泉卵など温泉宿の王道が提供される。写真を撮り忘れたが、鍋はシンプルな湯豆腐だ。一応、卓上には内容を解説する絵も用意されている。

切り干し大根、ひじき煮、きんぴらといった様々な野菜料理が載せられたプレートが素敵だ。写真を撮り忘れたが、中央の小鉢は千切の長芋だ。


ご飯と具沢山の味噌汁も提供される。味噌は自家製のものを使用しているそうだ。

食後には珈琲を提供いただける。
まとめ
こだわりの田舎料理が魅力の宿である。山菜やジビエなどその地の食材を味わうことができる上、料理一品一品のクオリティも高く特別感がある食を体験できる。食事処の雰囲気も素敵だ。館内や客室は簡素なものの、綺麗に管理されている。また掛け流しの温泉に入れる点も魅力だ。癖がなく優しい鬼怒川の名湯を、心行くまで楽しむことができる。
1人客は土日に泊まれず先の予約も取れないが、枠はそこそこある。また簡素な設備を考えるとやや値が張るが、料理のクオリティを考えれば妥当な料金だと考える。良い意味で鬼怒川温泉らしくない施設なので、日光観光の際などにぜひ宿泊してほしい。
【メモ】
・宿泊時期:2025年末頃
・宿泊費用:~¥20,000
・施設:民宿
・温泉:単純泉、アルカリ性、掛け流し、露天風呂
・食事:和食、田舎料理、ジビエ、山菜
