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「カロ・トリオディオン!」- パスハ(復活祭)への魂の巡礼


東方キリスト教圏では、数日前から「カロ・トリオディオン!(良いトリオディオンの季節を)」という挨拶が交わされています。

トリオディオンは、復活祭へ向かう魂の旅路を照らす祈りと礼拝のガイドです。期間はおよそ十週間、2026年の場合は二月一日から四月十一日まで続きます。


名前の由来は、礼拝で歌われる「三つの歌からなる特別なカノン(三つの讃歌)」にあります。それは形式だけでなく、心の奥深くで響く律動でもあります。信者たちはこれを通して、祈り、断食し、悔い改めることで、復活祭に備えていきます。期間は大きく三つの段階に分かれています。


まずは、準備の三週間(2月1日~2月21日:プレ四旬斎)。
まだ静かで寒い朝のようなこの時間は、身を整え、心を祈りと断食に慣らす季節です。御言葉の深みに沈み、内に小さな余白をつくることで、微かな光が差し込み、眠る悔い改めの泉がやはらかに目覚めます。


次に、約六週間にわたる大斎(2026年は2月22日~4月4日:四旬斎)です。体も心も御霊によって清められることを願いながら、悔い改めの光に向かってゆっくりと歩む期間です。多くの信者は、いつもより頻繁に告解の秘跡に臨もうと心を向けます。また、この時期には、悪習慣や依存から自由にされるために、何らかのデトックスを試みる方も少なくありません。

街の光景も、日常とは少し異なります。人によっては明るく派手な色の服を避け、濃い茶色や黒に近い色を身につけることが多くなります。完全に喪服を着たおばあさんたちを見かけることもあります。

日々の断食と祈りは、魂の奥にある闇をやわらかく照らし、穏やかに沈め、静かに弧を描くように神へと心を導きます。欲望や迷いのざわめきも、少しずつ透明な光の中に溶けていくかのようです。



そして、ついにパスハ(復活祭)を目前に控えた聖週間(2026年は4月5日~4月11日:復活祭直前の週)です。

この一週間は、イエス・キリストの受難と復活を黙想しながら、礼拝の音や沈黙の中に身をゆだねる時です。過去や未来のこと、憂いや心配から離れ、ひたすら「今ここ」に在る神秘的な主の現存の時空間に浸ることが求められます。

家の掃除や洗濯、食事の準備などは、できるだけ前週までに済ませ、時間的に余裕がある人もない人も、自分のできる範囲で聖週間中はイエスさまに心を集中できるよう、環境を整えます。小中高校、大学はこの期間、二週間の休みに入ります。聖週間は朝も夜も何時間も礼拝が続き、福音書の多くの箇所が朗読されます。


↑ 聖木曜日の夜「♪ 今日、木にかけられる 水の上に地を支えた方が。
いばらの冠を戴く 天使たちの王が。偽りの紫の衣を着せられる 雲の中に天を覆う方が。ひとつの平手打ちを受け入れる ヨルダンでアダムを解放した方が。釘で打たれる 教会の花婿が。 槍で突かれる 乙女の御子が。
ああ私たちはあなたの受難を拝します、キリストよ。どうか私たちに、あなたの栄光ある復活をもお示しください。 」



最後の三日間――聖金曜日、聖土曜日、そして復活祭の日曜日――は、霊的な集中力のみならず、体力も問われる期間です。国中が主の受難に思いを馳せつつ、同時にキリストの復活を祝うこの最大の祝祭に向け、祈りを捧げ、ろうそくを灯しながら街を練り歩き、賛美を歌います。



↑ 聖金曜日の夜。埋葬の挽歌を歌う信徒たち

↑ 聖金曜日の夜。礼拝後、信者たちはエピタフィオ(埋葬の挽歌)を歌いながらキリストの受難の死を想い、街中を巡り歩きます。


↑ 聖土曜日の朝。司祭が葉や花びらを舞わせるこのあたりから、聖歌のトーンも「大斎」から「祝祭」の雰囲気に変わってゆき、いよいよ復活だあ!という喜びが湧いてきます。このショート動画からもその様子が伝わってくるのではないかと思います。


パスハ(復活祭)の礼拝は、土曜夜の十一時頃に始まり、日をまたぎ、主日の夜中二時頃まで続きます。


↑ 日曜の夜中、二時頃――ついにパスハの時が訪れます。
「Christos Anesti!(キリスト復活)」 の賛歌と共に、
打ち上げ花火が大空に舞い上がり、爆竹の轟音が街中に響き渡ります。



エルサレムの聖墳墓教会で灯された聖火はギリシャにも届けられ、一人一人のろうそくに火がともされます。礼拝が終わると家に帰り、夜中の三時ごろに少しだけ肉を含むおかゆ状の食事をいただき、満たされた気持ちで眠りにつきます。


そして朝になると、家族や親戚たちが一堂に会し、小羊の丸焼きを囲みながら、復活祭の喜びを共に分かち合うのが習慣です。四十日ぶりに口にする乳製品――チーズケーキ!――の至福は、言葉では言い表せないほどです。甘い祝祭の味が、体と心にゆっくりとしみわたっていきます。



そういうわけで、トリオディオンとは、「復活祭までの心と体の準備のための旅地図」という風に表現できるかなと思います。単に道順を示すだけでなく、歩む者の内に静かに光を灯し、魂の奥に潜む悔い改めと愛を呼び覚ます、こころの地図——。魂の巡礼者たちは、この十週間を通して、少しずつ自分の心を神のもとへと向け、パスハの光に備えてゆきます。



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