【無料記事】『マンガワン事件について(2)』2026年3月号①
マンガワン事件がネットで拡散されたきっかけは、こちらの弁護士ドットコムの記事であった。
まずはあらためて、そもそもの女性の被害とはなんだったのかを振り返ってみたい。
判決によると、当時15歳だった女性は、男性が担当する授業をきっかけに話すようになった。男性は女性を車で自宅まで送るようになり、車内でキスをしたり、身体を触ったりすることがあった。
女性が16歳になると、男性は校外で会うよう誘い、ホテルで性行為に及んだ。その後も関係は続き、男性は父親のようにふるまいながら、「おしおき」などと称して性行為を求めた。
さらに、女性に自分の排泄物を食べさせたり、身体に「奴隷」と落書きして撮影する行為もあったという。
女性は訴状などで「拒否すれば高校生活に支障をきたす恐れがある」「密室で2人きりの状況で断ればどうなるかわからない」と考え、行為に応じざるを得なかったと主張した。
こうした行為は、女性が高校を卒業した後、18歳まで続いた。女性は重度のPTSD(心的外傷後ストレス障害)や解離性同一性障害と診断され、現在も日常生活に支障が出ているという。
・・・・・・ちょっと待て。
解離性同一性障害だと?
精神疾患の名前というのは、きわめてセンシティブな情報であることもあり、負のイメージの蓄積や当事者心理などを考慮して変更されることがある。
たとえばかつて「精神分裂病」と呼ばれていた疾患が「統合失調症」になった。これはネットでも「統失」→「糖質」とスラングになっているのでご承知の方が多いと思う。
また躁鬱病と呼ばれた疾患は、現在は双極性障害という名称になっている。
解離性同一性障害にも旧称がある。
多重人格というのだ。
だが彼女と加害者――さしあたり、本名の栗田和明氏と呼ぼう――と性的行為がはじまったのは16歳である。交流を始めたのさえ15歳。
それで、多重人格?
...…というのは、多重人格は幼い頃の凄惨な児童性虐待などのような、小児期の極限的トラウマ体験でしかほぼ発症しないからだ。
解離性同一症(dissociative identity disorder)は,かつて多重人格障害と呼ばれていたもので,交代して現れる複数のパーソナリティ状態(交代人格ないし交代する同一性[alternate identity]や別の人格とも呼ばれる)を特徴とする解離症の一種である。この疾患の症状には日常の出来事,重要な個人情報,心的外傷的出来事,ストレスの強い出来事などを想起できないことが含まれ,それらはどれも通常のもの忘れでは典型的には失われない記憶である。患者は発話,感情,および行動に突然の侵入的な不連続性を経験することがある。原因はほぼ例外なく小児期の圧倒的な心的外傷である。診断は病歴に基づくが,ときに催眠法または薬剤を使用する面接法も併用する。治療は長期の精神療法であり,ときに併存する抑うつや不安に対する薬物療法を併用する。
(強調引用者)
この疑念をXで口にしたところ、一部の方から「解離性同一症には非憑依型もある!」という抗議の声があった。
どうやらこの人たちは、憑依型の解離性同一症=多重人格、非憑依型の解離性同一症=多重人格ではない(ので小児期の心的外傷がなくても不自然ではない)と思っているらしかった。
実際はそうではなく、解離性同一症の「憑依型」と「非憑依型」の違いというのは、人格の交代が外から分かりやすいかどうかであって、多重人格であることには違いないのである。

多重人格が憑依型と非憑依型それぞれについて説明されている。
「女性に自分の排泄物を食べさせたり、身体に「奴隷」と落書きして撮影する行為」……これらは確かに普通の人は行わないし、虐待とか性加害という言い方でぼやかしているので、なんとなくそうだったような気がしてくる。この言葉選びに多くの人が騙された。
が、要はSMプレイである。
もちろん、これらのような行為はその趣味のない人にとっては不快極まることでろうが、「『拒否すれば高校生活に支障をきたす恐れがある』『密室で2人きりの状況で断ればどうなるかわからない』と考え、行為に応じ」たそうである。
今現在、彼女には栗田氏に対する強い報復感情がある。もしも栗田氏が、被害者の高校生活に何らかの害を加えるむね脅していたのであれば、彼女はそう言うであろう。つまり「拒否すれば高校生活に支障が生じる恐れがある」というのは彼女が勝手に思ったことであり、特段の強制性はなかったと考えるべきだろう。
また弁護士ドットコムの記事だけを見ても、彼女は「当時は栗田氏に好意を持っていた」ことがありありと伺える。
私は当時15歳で、何もわかりませんでした。裁判で男性がわざと父親のようにふるまっていたと知りましたが、良い人と悪い人の区別もつきませんでした。
これらのことを総合的に考えれば、少なくとも最終的には彼女は「同意」のもとでSMプレイを受け入れた可能性が高いと考えていい。
こう言っては語弊があるだろうが、その程度のリスク認識と天秤に掛けて受け入れた程度のイヤさだったのである。食糞行為を含むSMプレイは、彼女にとって。
客観的に見ても、栗田氏が強制性交等罪・強制わいせつ罪で起訴されず、ただ送らせた画像による児童ポルノでしか訴追されなかったことからみても、強制性を見いだす根拠は乏しいだろう。
16歳以後の、ましてやその程度のことで多重人格を発症するだろうか?
多重人格を「疑う」ということ
「ヒトシンカ!お前はなんて酷いヤツだ。可哀想な精神疾患の人を、しかも性加害でそうされてしまった人を疑うなんて!これだからアンチフェミは!これだからミソジニストは!」
という声が今にも聞こえてきそうである。
まあ私の性格については我ながら、酷くないとは言わない。
しかし、そもそも多重人格という概念は、その実在すら疑われてきたのだ。言い換えれば、全ての多重人格者は、嘘吐きや思い込みだという疑惑が掛けられていたのである。精神医学的に正当な議論の俎上において、である。
そしてほぼ全ての多重人格者は「幼少期に性的虐待を受けた者」として捉えられてきた。つまり多重人格を疑うことはほぼ確定で、イコール性被害者を疑うことであり、このことから見ても彼らを疑うことが正当な知的プロセスであることがわかる。
そもそも、1970年代に多重人格概念をアメリカで広める起爆剤となった女性患者、シャーリー・メイソンその人が、詐病であったことが暴かれ、いや本人すら告白しているのである。
また法廷に目を向ければ、米国の「ヒルサイドの絞殺者」ケネス・ビアンキのように多重人格を装って罪を逃れようとした殺人犯もいる。
べつだん私のような「下劣なアンチフェミ」だけが多重人格者を嘘や妄想だと疑ったわけではないし、今回の被害者だけが正当に疑われた多重人格者でもないのである。
「憑依型」「非憑依型」の分類にしても、いちいち医療関係者の間で病名自体の成立が争いになっていると医療上マイナスなので、他人格の存在が外から確定しにくい場合にも診断を下ろすことができる余地を残した、一種の妥協の産物であろう……と少なくとも私は理解している。
このへんの論争の経緯及び結論については専門的になるので、興味がある方は『臨床心理学における科学と疑似科学』などを参照されるとよろしいだろう。
いずれにせよ「多重人格は本当にあるのか」という議論が存在したこと自体は、現在40代以上の人――1992年にダニエル・キイス『24人のビリー・ミリガン』という本をきっかけに日本での多重人格概念の流行が始まったことをご記憶の人なら、おぼろげにでも聞き覚えがあるのではないだろうか。
これによって多重人格の概念が一般大衆にも知られるようになり、大塚英志・田島昭宇『多重人格探偵サイコ』の主人公や、冨樫義博『幽遊白書』の仙水忍など、サブカルチャー分野にも「多重人格キャラ」がしばしば取り入れられるようになっていった。
解離性同一症は吹き込まれたのか
さて、あまり話題になっていないが、精神科医の林公一氏のサイトにおける質問コーナーに、彼女からのものと考えられている相談が見られている。
これは私がXで他の方からお知らせいただいたものだ。
被害女性と思われる方の相談です。
— めこちゃん (@Maekkol0708) February 27, 2026
読んでいて辛い。洗脳ですよこんなのhttps://t.co/MqG8AFF5Es pic.twitter.com/awGSsOzEWG
少し長いが、元のサイトから全文引用する。
Q: 私は今年で20歳になる大学生の女で、普段は絵を描いたり、短歌を詠んだりしながら過ごしています。
PTSDについての相談です。
私は15歳から18歳までの高校3年間、通っていた高校の先生とセックスをしていました。先生は50過ぎになる人で、私の家庭環境の酷さから声をかけてくれて、仲良くなりました。特殊な性癖を持っており、主に先生の排泄物を食べさせられながらセックスしたり、私のお尻にグリセリンを入れて腹痛を起こさせたり、外で全裸にさせられたりしていました。奴隷と呼ばれており、人間扱いされない日々を送っていたと思います。
私は初めて先生にセックスをされた日から意識がぼんやりしており、当時は全く苦しみを感じられませんでした。しかし、大学への進学で地元を離れてから事の大きさに気がつきました。その先生は昨年に逮捕されたのですが、最近、当時感じられなかった苦しみが一気に雪崩れ込んでくる感覚があります。
日常生活を送っていて突然、過去の自分のアホ加減に愕然としたり、先生と会っている時、頻繁にパニックになったり号泣してしまう事があったのですが、それをすぐに苦しさと紐づけられなかった自分にショックを受けたり、初めて排泄物を食べさせられたりした日は胃を壊して一晩中吐き続けてしまったのですが、その時の全身が震えて勝手に涙が出るような記憶が蘇ってきて、何もできなくなってしまいます。
かと思えば、当時のように何もかもがぼんやりして、何も苦しくないけど何も楽しくないような状況になったり、過去の無知な自分が悔しくて一日中泣き続けてしまったり、当時突然号泣するような状況になったときに、先生から、「貴女は解離性同一性症候群です。今は〇〇ちゃんが出ているから泣いているんですね。」という慰められ方をよくしたのですが、3年間近くそのような事を言われ続けたせいか、本当にそのような症状が出ることもあります。好きなアーティストの曲を聞いていて、「先生」という単語が出てきただけで丸一日動けなくなったり、街中を歩いていて先生と似た顔つきのひととすれ違うだけで過去のことしか考えられなくなったりします。
17歳のときに精神科を訪ねてみたことがあるのですが、その時は苦しみの元凶が先生だと自覚できていなかったせいかうつ病だと診断されました。先生のセックスが始まってから五年、終わってから二年、逮捕から丸一年経っています。日を追うごとに段々良くなると思い放置していたのですが、悪化しているような気すらします。これはPTSDになるのでしょうか?また、苦しくなった時に自分で行える対処法はありますか? 一度うつ病の診断をいただいたので気が引けるのですが、一度診断を貰っていても他の病気だと診断してもらうことは出来ますか?
お忙しい中、長々とすみません。よろしくお願いします。
林: 大変な過去を背負っておられるご苦悩、お察し申し上げます。幼少時や十代のころは、あとから考えればとても受け入れ難い仕打ちを受けていたことが明らかであるにもかかわらず、当時は重大さが認識できず、成長されてから後遺症に苦しむというのは一つの典型的なパターンです。この【4285】のケースの現在の状態はPTSDといっていいと思います。
17歳のときに精神科を訪ねてみたことがあるのですが、その時は苦しみの元凶が先生だと自覚できていなかったせいかうつ病だと診断されました。
とのことですが、トラウマにかかわるケースでは、初診時にも、その後の診察でも、本人はトラウマのことを語らないことはしばしばあるものです(【4256】もご参照ください)。
したがって、
一度うつ病の診断をいただいたので気が引けるのですが、一度診断を貰っていても他の病気だと診断してもらうことは出来ますか?
そのようなことは気にされる必要はありません。決して今からでも遅くはありませんので、高校時代のことを主治医の先生にお話しください。場合によってはその先生からトラウマ治療専門の先生を紹介していただくことが適切ということになるかもしれません。
(2021.4.5.)
実際、この質問文に書かれている相談内容は、栗田氏の事件と時期・内容とも相当に共通している。
そしてこの文章がもしも本当に今回の被害者のものであるとすると、そもそも彼女に解離性同一症という概念を吹き込んだのは栗田氏である可能性が高い。
注目したいのは、明示的に解離性同一性症候群(候群はいらないのだが、これは彼女が素人だからしょうがない)という名前が質問文中に出ているにもかかわらず、専門家である林医師はそれには触れず、PTSDのみの病名を回答していることだ。
これは私の想像になるが、おそらく彼女の解離性同一症とは、実際にそうであったというより、彼によって吹き込まれたが故の妄想、あるいは別の精神症状に対する解釈に過ぎなかったのではないか。
そして、いくらSMが伴っていたからといって、交際相手に吹き込まれてそのような状態に陥っていた彼女は、元々あまり精神的に健全ではない……というか、かなり精神疾患と親和性の高い素養があったのではないだろうか。
そうなると、彼女の精神的な病態(PTSDも含めて)は、本当に栗田氏の「性加害」というかSMプレイそのものによって発生したのだろうか。
むしろ元々かなり病的な状態であった彼女が、交際時の相手の態度とか酷い振られ方とか、そういったストレスによって悪化したに過ぎないのではないか。
であれば、これは単に性的な交際関係における不幸な事故であったとも言える。
繰り返しになるが、栗田氏が訴追された事実、つまり未成年に自身の裸画像を送らせてしまったこと自体は、児童ポルノ法に違反するまぎれもない犯罪行為である。
そこを擁護するつもりはない。
また、教師が自身の女子生徒と性的交際をしたのもいわゆる淫行であり、また彼の感情的にも、いわゆる「真摯な交際」とはかけ離れたものがあったのかもしれない。
しかし、彼女と交際してSMを行ったことについては、少なくとも当時の性交同意年齢はクリアしているし、強制があったという根拠にも乏しい。
本当に彼は「性加害によって少女をPTSDと解離性に追いやった」のだろうか?
終章
そして筆者も、先ほど小山晃弘氏が上梓したばかりのnote記事で初めて知ったのだが、やはり内容・時期からみて被害者のツイートと考えられるものが発掘されているという。
これによると、彼女はすでに幼少期から、自分の親による虐待を受けており、さらに中学生時代に統合失調症を発症していたというのである。
のであれば、解離性同一症もあるいは本当であるかもしれない。
ただしその原因は、16歳にもなって以降のSMプレイなんかではなく、まさに医学上「ほぼ例外なく」解離性同一症の原因とされるその幼少期の虐待の方であろう。
PTSDにせよ、そちらが原因ではないのか。
そして小山氏も指摘しているが、彼女はメディアに対しての事件の「語り」において、自身が以前から精神疾患者であること、親から虐待を受けていたことをおくびにも出してはいない。これは極めて不誠実である。
最新の『週刊文春』3月12日号に至っても、自分の症状の原因としての非難は、すべて彼女が「先生」と呼ぶ栗田氏に向いている。
しかし彼は本当に、それだけのことをしたのだろうか?
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