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半月は見ていた

「バイバイ、ばいばーい。さよーならー」

長男の声が響く。飛び立っていく蝉を、小さな手が見送っていた。

あの夏、蝉を追いかけた。

それから何年か経った夏。

「蝉の羽化、見に行く人ー?」

次男はすぐに、「行く!」とゲームをやめた。長男は返事をしなかった。そのままゲームを続けていた。やっぱり来ないか、と思った。

次男と玄関で靴を履いていると、後ろに長男が立っていた。帽子を深くかぶっていた。

玄関を開けた瞬間、熱のこもった空気がまとわりついた。遠くで蝉が鳴いていた。空には半月が浮かんでいた。

「虫取りなんて、久しぶりだな」

歩きながら、長男が言った。長男は次男と手をつないで歩いていた。私はその後ろを、少し早足で追いかけた。

次男がふと空を見る。ピンクと青が混ざった空。それから私の顔を見る。

「ぶきみないろー」

湿った空気に、草や土の匂いが混じっていた。

公園に着くと、木々の間から蝉の声が聞こえた。虫あみは一つしかなかった。長男は次男に持たせた。

次男は虫あみをブンブン振りながら歩く。見つけた抜け殻を服につける。一つ見つけては服につけ、気づけば二つになっていた。大事そうに歩いていた。

その時、長男が足を止めた。視線の先に、ロープに引っかかった蝉がいた。

「いた」

長男が、独り言のように言った。

最初は、ただの抜け殻に見えた。割れた殻の中から、小さな緑が見えていた。二人は声を小さくして、その姿を見ていた。

そっと虫かごに入れた。

家へ帰る道。額から汗がつーっと流れる。長男は虫かごを両手でそっと抱え、ゆっくり歩いていた。

家に帰ると、何度も虫かごをのぞいた。透けるようだった羽は、少しずつ色づいていった。まだ飛べない蝉は、虫かごの枝につかまったままじっとしていた。


カーテンの隙間から、光が差し込んでいた。

元いた場所へ返しに行く。

長男が蓋を開ける。蝉はすぐには出てこなかった。枝につかまったまま、じっとしている。羽が小さく震える。しばらく枝につかまったまま動かない。

そして、突然、大きな羽音が響いた。

蝉は枝を離れ、空へ飛び出していった。右へ、左へ。まだ上手には飛べないのか、ふらつきながら落ちた。

「あっ」

次男の声が漏れた。長男は蝉を見たまま言った。

「……大丈夫」

しばらくすると、蝉はもう一度飛び立った。

「バイバーイ、せみさーん」

次男の声が響いた。

長男は何も言わず、飛んでいった先を見ていた。私も、その横で同じ空を見ていた。

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