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媚びると重苦

#ショートショート  本文:669字)

 夕方のオフィスは、帰り支度の気配でふわっと軽くなりかけていた。ただ一角だけ、妙に湿った空気が漂っている。

 そこでは、一人の部下が課長に向かって
「それ、すごく参考になります」
「さすがです」
 と、声の高さと表情を微調整しながら話していた。笑顔は常に最適化され、相手に合わせて即座に修正される。周囲には「自分を押し殺している」ようにしか見えなかった。

 入社以来、ずっと隣のデスクで彼を見てきた先輩は「そこまでしなくていいのに」と常々思っていたが、休憩スペースで二人きりになったとき、ついに声をかけた。
「ねえ、なんであんなに合わせるの?」
 彼は、例の柔らかい笑顔を出したが、その裏に隠していた疲れが透けて見えた。
「……合わせてるつもりは……ないわけじゃないんですけど……」
「そうなんだ。でも、あなたが軽くなる瞬間、見たことないんだよね」
 先輩の言葉に彼は視線を落とした。
「……どうしたらいいんでしょうね」
「まずは、あの人の前で無理に笑わないところからでいいんじゃない」
 彼は深く息を吸い、ゆっくり吐いた。
「……じゃあ、今日は笑わないで帰ります」
 そう言った彼の顔は、笑っていないのに少し晴れ晴れとしていた。

 翌日、彼は緊張で顔を引きつらせながらも、無理に口角を上げることなく淡々と「おはようございます」と挨拶した。課長は一瞬、戸惑ったように眉を動かしたが、すぐに「ああ、おはよう」と短く返した。

 媚びのない態度が、かえって対等な緊張感を生んだのかもしれない。彼の中にあった自分自身を縛り付けるようなわだかまりは、いつの間にか消えていた。

(了)

職場での人間関係、むずかしいですね~。


はれるや( ´ ▽ ` )ノ。です。
甘野充さんの企画に参加します。
よろしくお願いします。
#アマノ文筆クラブ #媚びると重苦


TALESにて、アマノ文筆クラブ参加作品を連載中。毎週木曜の朝をお楽しみに。

では、今日はこのへんで。
はれるや( ´ ▽ ` )ノ。

#オフィス #部下 #家長 #先輩 #笑顔 #挨拶 #媚び #わだかまり

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