思いつかない
非常ベルが鼓膜を突き刺す。
赤い警告灯が狂ったように回転し、壁の向こうでは何かが爆ぜるような轟音が連続していた。廊下を駆ける無数の足音と、悲鳴に近い怒号。建物全体が、断末魔のような震動を上げている。
私は動かなかった。死の気配が背中を撫でているというのに、机に向かったまま、腕を組み、じっと目を閉じる。
「まだだ……まだ足りない……」
脂汗が額をつたい、顎から滴り落ちる。
扉が蹴破るようにして開いた。
「早く逃げろ! もう限界だ、床が抜けるぞ!」
私は首を横に振った。
「今は無理です」
「何が無理なんだ!」
「もう少し待ってください」
外ではガラスが割れる音がした。
「ここにいたら死ぬぞ!」
「わかっています。でも、このままでは死にきれない」
私は立ち上がり、部屋の中を何度も歩いた。窓際へ行き、壁を見つめ、天井を見上げる。腕を組み直し、また座る。
「違うな……」
「何が違うんだ!」
「これでは出てきません」
「何が!」
私は引き出しを開けて、チョコレートを一粒食べる。
「糖分が必要なんです」
「そんな場合か!」
頭をひねる。右に、左に。
「ひねっただけでは無理か」
「もう何でもいいから逃げろ!」
私は真剣な顔でうなずいた。
「逃げます。でも、その前に一つだけ」
「その一つのせいで死ぬぞ!」
ディスプレイのカーソルが点滅している。画面右下、タスクバー上の時刻は23:59を表示している。あと1分で日付が変わる。キーボードの上に置いた指は動かない。唇を結び、全身全霊で考え抜く。だが、どうしても――
最後の一行が思いつかない。
(了)
それで、締め切りには間に合ったのかな。
はれるや( ´ ▽ ` )ノ。です。
甘野充さんの企画に参加します。
よろしくお願いします。
#アマノ文筆クラブ #思いつかない
TALESにて、アマノ文筆クラブ作品を連載中。毎週木曜6:30をお楽しみに。
では、今日はこのへんで。
はれるや( ´ ▽ ` )ノ。
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