これだけですよ
( #ショートショート 本文:776字)
友人は玄関を開けるなり、目を丸くした。
「え、これだけ?」
六畳の部屋には、折りたたみベッド兼ソファと小さな机しかない。壁には何も掛かっておらず、本棚もテレビもない。あるのは机の上のノートパソコンだけだった。
友人は落ち着かなそうに座り、きょろきょろと見回した。
「テレビは?」
「見ない」
「ゲームは?」
「やらない」
「雑誌とかは?」
「全部データ」
俺はスマホを掲げた。
「写真も本も仕事の資料も全部クラウド。これだけあればいい」
友人は感心したようにうなずいた。
「すげえな。これだけで生きていけるんだな」
「むしろ、ないほうが楽だよ。管理しなくていいから」
友人は俺のスマホを見つめ、「かっけえな」と呟いた。
数日後、今度は俺が友人の部屋へ呼ばれた。
「見て驚け!」
扉を開けると、確かに驚いた。部屋が異様に広く、何もない。
「どうしたんだ」
「片付けた!」
友人は得意げだ。床には布団すらない。
「ベッドは?」
「床で寝る!」
「テレビは?」
「我慢!」
「パソコンは?」
「わからん!」
「漫画は?」
「読んだ!」
「グラビアは?」
「妄想する!」
「料理本は?」
「ささみ茹でる!」
そこまではまだいい。問題は、山と積まれた筋トレ雑誌だ。それを指摘すると、友人は自分の頭を指差した。
「全部入れた。おまえの真似してクラウドだ!」
だめだこりゃ、と思った瞬間、押し入れの奥からミシ……と嫌な音がした。次の瞬間、戸が吹き飛び、雪崩のように物が溢れ出した。ダンベル、雑誌、漫画、ゲーム機、巨大なシェイカー、怪しいサプリ、壊れた腹筋ローラー、サンドバッグ。
「結局、全然減ってないじゃないか」
友人は、崩れた荷物と自分の頭を交互に指差し、爽やかに言った。
「わっはっは。押し入れも頭も容量が足りなかったようだ!」
「お前らしいな」
俺がそう言うと、友人はさらに嬉しそうに笑い、俺の肩を力強く叩いた。
(了)
気持ちの良い友情ですね。
はれるや( ´ ▽ ` )ノ。です。
甘野充さんの企画に参加します。
よろしくお願いします。
#アマノ文筆クラブ #これだけですよ
TALESにて、アマノ文筆クラブ作品を連載中。毎週木曜6:30をお楽しみに。
では、今日はこのへんで。
はれるや( ´ ▽ ` )ノ。
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