行かないで
波の音が、島の白い砂浜をのんびりと洗っていた。
その音に合わせるように、一人の姫が目を覚ます。人魚姫だ。魔女の薬と引き換えに声を失い、ようやく想いを伝える相手を見つけた。
王子は焚き火の前で魚を焼いていた。
嵐の夜、海に投げ出された自分を誰かが助けてくれたことだけは覚えている。目を覚ましたら、この浜にいた。
姫は必死に身振り手振りで伝える。
「あなたを助けたのは私!」と言いたいのだろうが、王子にはさっぱり分からない。
姫は悩んだ末に、砂浜に指で大きく文字を書く。
『あなたをたすけたのは わたしです』
王子は文字を読み、目を輝かせた。
「そうだったのか! 本当にありがとう!」
姫は満面の笑みで何度もうなずく。
王子は姫の透き通るような瞳と、懸命に想いを伝えようとする健気な姿に見惚れていた。言葉はなくとも、その清らかな心に触れた気がして、王子の胸は高鳴る。
しかし王子は、少し申し訳なさそうな顔で続けた。
「命の恩人にこんなことを言うのは気が引けるんだけど……」
王子は言葉に詰まりながらも彼女にクレームを出した。
「できれば 無人島じゃなくて陸へ打ち上げてほしかった」
姫はその言葉を聞き、肩を落とした。
そのとき、魔女の薬の効き目が切れた。姫の足はきらきらと光るうろこへ戻り、身体は海へ引かれていく。
王子は慌てて駆け寄ったが、姫は微笑んだまま波間へ消えた。浜辺には、月明かりを浴びて光る一枚のうろこだけが残っていた。
王子はそれを拾い上げると、高らかに宣言した。
「決めた! 私は、このうろこがピタリとはまる人魚を妻にする!」
王子は、少し間を置いてため息をつく。
「……まずは、この島を出られたらの話だけど」
(了)
純愛物語ですね。二人、結ばれるといいですね。
はれるや( ´ ▽ ` )ノ。です。
小牧幸助さんの企画に参加します。
よろしくお願いします。
#シロクマ文芸部 #波の音
では、今日はこのへんで。
はれるや( ´ ▽ ` )ノ。
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