私、どろんします|#アマノ文筆クラブ
山里の外れに、古くから忍びの技を伝える家があった。家の主は年季の入った忍術使いで、ひとり娘を大切に育てていた。
ある日、娘に婿がやって来た。婿は礼儀正しく、どこか頼りなげで、しかし妙に憎めない若者だった。
「うちに来たからには、忍びの基礎くらいは覚えてもらわねば」
主はそう言って、婿を弟子として迎えた。
婿は不器用ながらも、ひとつひとつの技を丁寧に身につけていった。
影に溶ける術では、竹林の揺れと呼吸を合わせることを覚えた。
足音を消す術では、夜露の上を歩いても水滴が揺れないほどになった。
変装の術では、村の子どもに「知らないおじいちゃん」と呼ばれるほど化けた。
娘はその姿を誇らしげに見つめ、主も「案外やるものだ」と目を細めるようになった。
卒業の技は、忍びの象徴とも言える「消える術」。煙玉を使い、気配を断ち、視界から消える。だが婿はどうしても成功しなかった。
「これが最後の挑戦です」
婿は深呼吸し、特大の煙玉を地面に叩きつけた。
――ドカンッ!!
山が震えたかと思うほどの煙が立ちこめ、白い渦がゆっくりと晴れたとき、婿の姿はどこにもなかった。
娘は口元を押さえ、主は腕を組んだまま動かない。
「……やりおったか」
「……本当に消えてしまったの?」
主は娘の肩に手を置いた。
「婿殿は……星になったのだ。忍びの者は、時にそうして空へ帰る」
そう言って空を見上げた瞬間だった。
夜空を横切る、巨大な黒い影。ゴウゴウと風を切る音。
「……あれは……」
娘も目を凝らす。
主は深いため息をついた。
「……どろんと消えたのではなく……ドローンに乗って逃げおったな」
娘はぽかんと口を開けたまま、固まっていた。
(了)
忍者の修業だけに、忍耐力が必要なんですね。婿殿、戻ってくるかな。
はれるや( ´ ▽ ` )ノ。です。
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