「ニューヨークに広がる会員制クラブの現在地──2020年代の隆盛と、次のフェーズ」
先日、「Members Club Mania in New York City」というリール動画を見ました。ここ5年で19もの会員制クラブがオープンし、Soho Houseのようなレガシーなクラブにさらにレイヤーが重なっている、という内容です。2020年代のニューヨークでは、いま何が起きているのかを、自分なりに整理してみたいと思います。
ニューヨークで進む「会員制クラブ・マニア」
背景には、パンデミック後に「安心して集まれるクローズドな場」へのニーズが高まったこと、そして富裕層やクリエイティブ層が「サードプレイス」をブランドとして買うようになったことがあります。一般のバーやレストランに比べて、空間デザインやサービス、客層のコントロールが効きやすいことも、クラブの増加を後押ししました。(GQ)
代表的なクラブとポジショニング
同じ「会員制クラブ」といっても、マーケティングの軸はかなり異なります。
・Aman Club(Midtown)
アマン・ニューヨークの会員制クラブは、入会金20万ドル+年会費1万5千ドルと言われ、超富裕層だけを対象にした“頂点モデル”です。会員はスパ、ダイニング、プライベートスペースをフルに使え、世界各地のアマンとの連携も暗黙のベネフィットになっています。(South China Morning Post)
・Zero Bond(NoHo)/Casa Cipriani(Seaport)
どちらもセレブやインフルエンサーの出没で知られ、「カルチャーとステータスの交差点」として位置づけられています。ゴシップメディアやGQ、Vanity Fairが繰り返し取り上げることで、「ここにいる=いまのNYカルチャーの内側にいる」という物語がつくられてきました。(GQ)
・The Ned NoMad
ホテル一体型で、「1920年代のグランドホテル×現代のソーシャルクラブ」という世界観を前面に出しています。宿泊、会員制ラウンジ、イベントスペースが一体となり、旅行者とローカルのハイブリッドなコミュニティを狙った設計です。(Modern Luxury)

・Kith Ivy(West Village、オープン予定)
ストリートブランドKithが手がける新しいクラブで、「ウェルネスとスポーツ」を軸に、パデルコート、ジム、スパ、地中海レストラン、さらに東海岸初のErewhon(超高価格帯のオーガニック・グロサリー)を組み込んでいます。ファッション、フード、ウェルネスを一体化した“ライフスタイル・クラブ”路線の象徴的な例です。(Business Insider)
・Soho House
ロンドン発のレガシー・ブランドですが、近年は競争激化とブランドの希薄化が課題になり、2025年には非公開化と会員の「選別」強化に舵を切りました。米国各拠点で数百人単位の会員整理を行い、改めて「クリエイティブ層向け」という原点に戻ろうとしています。(New York Post)
ビジネスモデルの共通点と違い
(1) 収益構造
多くのクラブは、
・高額の入会金(あるいは登録料)
・年会費
・飲食、宿泊、イベント利用による売上
の三つを組み合わせています。Amanのような超高額モデルもあれば、年数千ドルの比較的「手の届く」モデルも存在しますが、共通しているのは「会費そのものよりも、会費を払うことで『お金を使う場へのアクセス権』を売っている」という点です。(South China Morning Post)
(2) ブランド戦略
・世界観の明確さ(アールデコ、1920s、イタリアン・グランデなど)
・客層のストーリー(クリエイター、金融、アート系、ファミリーなど)
・メディア露出と「ここにいる人たち」のイメージづくり
この三つをうまく組み合わせて、単なるレストランやバーではなく、「所属」そのものをブランド化しています。Zero BondやCasa Ciprianiのように、セレブの写真がタブロイドに載ることも、マーケティングの一部になっています。(Vanity Fair)
(3) サービスの多層化
最近のトレンドとして、
・コワーキング/オフィス機能
・スパやクリニック(レッドライトセラピー、NAD点滴など)
・会員限定フィットネス、ウェルネスプログラム
などを組み込むクラブが増えています。これは「出社するオフィス」「通うジム」「集まるバー」が一つのメンバーシップの中に統合されていく流れとも言えます。(InsideHook)
ほころびの兆し:NeueHouseの破綻と賃料

この数年で「会員制クラブ・マニア」がピークに近づいているのではないか、という指摘も出ています。象徴的なのが、コワーキング系クラブの代表格だったNeueHouseの破綻です。
ニューヨークとロサンゼルスに拠点を持ち、アートイベントやクリエイター向けのワークスペースとして人気でしたが、2025年にチャプター7を申請し全拠点をクローズ。高額な長期リースやレストラン事業の失敗、税金・家賃の滞納などで、負債は8,300万ドル規模に膨らんでいたと報じられています。(artnews.com)
パンデミック期に好条件で結んだ賃貸契約が、更新のタイミングで一気に重荷になるケースも増えています。会員制クラブと言っても、基本的には「高級レストラン+ラウンジ+イベントスペース」であり、ニューヨーク特有の高い不動産コストからは逃れられません。
これからどうなるか:拡大から「選別と分化」のフェーズへ
・新規オープンは鈍化し、資本力や世界観の弱いクラブから淘汰が進む
・Soho Houseのように、既存クラブは会員基準の見直しとリノベーションでブランドを再定義する動きが続く(Page Six)
・Kith Ivyのように、ファッションやウェルネス、リテールを組み合わせた「複合型ライフスタイル・クラブ」は、まだ伸びしろがある
・旅行文脈では、ホテルチェーンやリゾートが会員制コミュニティを拡張し、「旅先でもホームクラブの延長で過ごせる」ネットワーク型モデルが広がっていく(Travel + Leisure)
一方で、会員側の視点に立つと、複数のクラブに入る人は多くなく、「どこか一つ」に絞る動きが出てきます。そのときに問われるのは、
「このクラブに属していることで、日常や仕事との接点がどれだけ増えるか」
「人生のどの時間帯をここで過ごしたいと思うか」
という、ごく実務的な価値です。
おわりに
ニューヨークの会員制クラブは、単なる「夜遊びの場」から、「働く・整える・出会う・家族で過ごす」を束ねたライフスタイルのプラットフォームへと変化してきました。
ただし、排他性そのものは必ず薄れていきます。都市のリズムが変われば、人の動きも変わる。そのなかで、どのクラブが「一時のブーム」で終わり、どこが「街のインフラ」に近い存在になっていくのか。
これから数年のニューヨークは、その実験の結果が少しずつ見えてくるフェーズに入っているのだと思います。

