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あの日の、わたし。#02 〜はじめてついた”見え透いた嘘。”

ふと、昔の自分を思い出すときってありませんか?
思い出したのは、まだ幼稚園だった頃のわたし。

わたしは、幼稚園の送迎バスの中で揺られていた。
隣の席に座る男の子の制服のベレー帽の被り方かどうにも好きに思えなかった。
私の通う、幼稚園の制服はねずみ色のあご紐付きのベレー帽があった。
当時のわたしは、このベレー帽のふちを内側に織り込んで
前髪の上あたりから軽く乗せるように被るのが好きだった。
少しこだわりでもあったかも。
先生は、帽子のふちなんて気にせず
「ズボッ」と頭をすっぽり包み込むように被せてくる。
「スポッ」「スポッ」と、流れ作業で並ぶ園児たちに順番に。
わたしには、それがどうしても気になって仕方なかった。
ねずみ色のかぼちゃがずらりと並んでいるみたいで。
わたしは送迎バスに乗り込む順番の列で
乗り込み待ちをしている間に毎回、その帽子を被りなおしていた。

となりの席に座る同じマンションに住む男の子は
ベレー帽のかぶり方にこだわりもなく
先生が被せてくれたままの頭すっぽりベレー帽で座っていた。

わたしがバスを降りるのは、
送迎バスの最後の組だった。幼稚園を出発して30〜40分経っていて、
ポカポカ陽のあたる窓側の席でウトウト眠たくなってきていた。

マンションの下のゴミ捨て場横が私たちの送迎バスの昇降場所だった。
同じマンションの子供たちが最後の組でバスから降りる。
確か5人だったと思う。

窓の外にバスの到着を立ち話しながら待っているみんなのお母さんたちが見えた。

わたしは「ドキッ」とした。
そこに見えたのは、「みんなのお母さん」だけだったから。
「あ…お母さんがいない…。」
何も悪いこともしていないのに心臓がバクバクした。
一気に幼いわたしに緊張感が走った。

幼稚園バスの扉が開いて、先生が先に降りる。
にこやかにお母さんたちに挨拶をして、
お友達が一人ずつ、順番にバスを降りていく。
バスを降りたら、先生と向かい合って、いつものご挨拶。
「先生さようなら。明日も元気に来ます。」
だったかな?いつものお決まりの挨拶を済ませたら
笑顔でお母さんの元に走っていってマンションの方へ歩いていく。

わたしはわざとバスから降りる順番を一番最後にするために
一番最後に立ち上がり、一番最後に並ぶ。
わたしの順番がくるまでに、母が慌てて走ってくる姿を
半分、祈るような気持ちで待っていた。
あと…2人。…あと1人…。
わたしは明らかに笑顔が引きつっていたと思う。
バスを降りる。先生が笑顔でわたしが不安にならないように話しかけてくれる。
「ほだかちゃん。お母さんまだだね。少し先生と一緒に待とうか。」
優しい笑顔を向けてもらっているのにもう笑顔を返せないわたしがいた。
わたしは察していた。「あ…。たぶんお母さんこない。」
心臓はさらにドキドキした。この状況をどう脱したらいいのか必死に考えていた。

そしてわたしはふっと顔を上げて先生を見てこう言った。
「あ…、今日はお母さん忙しいって言っていたから来れなかったんだと思う。
だからひとりでおうちに帰れます。」
今思えば、幼稚園児の見え透いた嘘は、
きっと先生にはバレていたと思う。
「そうなの?でもひとりは心配だから、先生おうちまで一緒に上がろうか?」
先生は、やさしい言葉と一緒に、もっとやさしいまなざしを向けてくれた。
何でかわたしは泣きそうになったけど、
必死に堪えた。まずはこの状況をどうにかしなきゃ!!
といっぱいいっぱいだったから。
そして先生がお家まで来てくれることは
幼稚園児ながら「さらにまずい」と思っていた。
だからわたしはまた不慣れな作り笑顔で
「大丈夫です。おうちは3階だし鍵もいつも開いてるからひとりで帰れます。」
先生は少し困っている。当然だ。

わたしは少し歳の離れた姉がふたりいたおかげか、
母の躾がすごく厳しかったおかげか、
本当に幼稚園児?と言われるほど、しっかり者だった。
大人に対しても上手に敬語も使えるような子供だった。
そして子供らしくない子供だった。

先生を困らせていることにも悲しくなりながら、
「大丈夫です。ありがとうございます。帰れます…。
せんせい、さようなら。明日も元気にきます…。」
そうやって小さな声でお別れの挨拶をはじめた。
お辞儀をしして顔を上げると、
困り顔の先生と少し離れたところで
先に挨拶を済ませた一組の親子が
わたしと先生のやりとりを見ていて
お母さんの方が先生に
「うちもいるから大丈夫ですよ〜」と伝えるようなジェスチャーをしていた。
先生はそのお母さんに向かって、
ぺこりと頭を下げて幼稚園バスに乗り込んだ。

今の時代なら絶対こんなことはありえないいんだろうけど、
(いや、当時でもうちくらいだったかも?笑)
その時は何とかそれでわたしはその場をやり過ごせた!

うつむきながら階段を登った。
3階まで登るその間…。
わたしは、「先生に『嘘』ついちゃった…」
とすごく悪いことをした気がして
心臓がドキドキを超え、バクバクしていた。

初めて大人に対して「自覚ある嘘」をついた。
あの日の胸の痛み方はいまだに覚えている。
苦しくなった。悲しかった。
すごくすごく悪いことをしたんだって
階段を登りながら自分を責めていたと思う。

先生、ごめんなさい。
そしてあの日のわたし…嘘をついてごめんね。

これが40年前のあの日のわたしの出来事です。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


あの日…わたしはなにを察して、
ひとりお家に向ったのでしょうか??

うちに帰りつき、玄関の扉を開け中に入り、靴を脱ぎ、

「ただいま〜」とわたし。
リビングでわたしが見たものは、
やはりわたしの察した通り。
寝ている母がそこにはいました。
お酒を飲んで少し寝て…そのままお迎え時間を寝過ごしてしまったのでしょう。

こんな景色を察することができたわたしが頑ななまでに
先生の付き添いを拒んだ理由でした。


わたしの母は、後に”アルコール依存症”で
色々とわたしの人生に様々なことを起こしてくれます。
そんな話は
またそのうち、話したくなったら…

最後に、「あの時の自分を、もう一度抱きしめてあげたい」
…そんな気持ちになれるお話でした。

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