夜職保育士さんと僕⑥ 離せない手
この物語はたぶんフィクションです
ミキさんと僕もたぶん空想上の誰かです
でも、空想上でも良いから、2人のかけがえのない時間を残せたら良いなと思います
ミキさんが夜職で帰りが遅くなる日
「先に寝てて良いからね」って言われてた
でも、それができなかった
使命感?寂しかったから?理由は自分でもよくわからない
お店の退勤は0時だけど、アフターが入ると帰りは4時か5時だった
基本的には本業の休みの前日に出勤だったから、ほとんど毎回朝方の帰宅になった
まだ居候し始めた頃は寂しさが強かった
実家を出た経験も、一人暮らしをした事もなかったし、ミキさんのいない家でどう時間を過ごしたら良いか分からなかった
一度ミキさんが帰ってくるまで玄関で待っていたことがあった
すごいびっくりされて
「まじでびっくりするから、二度としないで」
って言われた
今でも、飼い主の帰りを待ってる犬の映像を見ると胸がチクチクする
ミキさんはお酒が強かった
一緒に飲んでいても自分を失うような事はなかったし、お店でもあんまり飲んでなかったみたい
「そういうお店って、お客にも飲ませて、自分もたくさん飲んで稼ぐんじゃないの?」
ってバカな質問をしたことがあった
「私は若手ホストじゃないよー」
って笑われてしまった
いまいちそういうお店のシステムを分かってなかったみたいだ
夜職から帰宅したミキさんは洗面台に直行
手を洗って、なぜか歯磨きをする
うがいが終わったら、リビングに来て服を脱いで、ポイポイとソファや床に投げ捨てていく
下着だけになったらバスルームへ
シャワーを浴びて、パジャマを着たらリビングでお肌のお手入れ
顔に色々塗ってる間に、僕がドライヤーで髪を乾かす大体こんなルーティンだった
あの頃は、女の子の髪を乾かす作業があんなに大変なのを知らなかった
週に3回こんなルーティンをこなして、それが当たり前になっていき
僕の存在がミキさんの生活の一部になれた気がした
一緒にいるって実感があったんだと思う
でも、一緒にいる事を感じられるようになればなるほどに、どうしても寂しさも感じてしまう
ミキさんは僕じゃない誰かと、その誰かが望む時間を過ごしてる
嫉妬?独占欲?あの頃の気持ちを表現できる言葉は見つからない
「そろそろ寝る?」
一緒に横になって、そっと左手を、僕の右手に乗せてくる
やっぱりそういう日だったんだ…
言葉には出せない
差し出された手を少しだけ強く握る
ミキさんも握り返してくれる
絶対に離さない
離してしまったら自分が、自分だけがミキさんの中から消えてしまう気がしたから
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