夜職保育士さんと僕④ 比べるもの
この物語はたぶんフィクションです
ミキさんと僕もたぶん空想上の誰かです
でも、空想上でも良いから、2人のかけがえのない時間を残せたら良いなと思います
当時ミキさんは26歳
僕より6つ年上だった
今考えると、26歳にしては大人だったんだなって思う
いや、年齢的には十分大人なんだけど、自分が26歳の頃を考えるとしっかりしてると思う
アクセサリーは保育士って仕事の都合上ほとんど着けなかったけど、おばあちゃんから貰ったっていう2カラットのダイヤモンドがはまってる指輪をネックレスにしてた
本物かどうかわからないけど、終戦直後にお祖父さんが香港から密輸してお祖母さんにプレゼントした物なんだって教えてくれた
夜職始めたばかりの頃に着けてお店に出たら、店長さんから分不相応だからやめた方が良いって注意されて、それ以来お店では着けてない
結構ロマンがある代物だから、話題には事欠かないだろうし、大事な物なんだから別に良いだろうと思ってた
その年のミキさんの誕生日に、その指輪を巡って、自分が特大のダメージを負う事になろうとは思ってもみなかった
ミキさんも僕も夏生まれで誕生日が近かった
お互いにプレゼント買おう!ってなって、一緒にアクセサリーショップへ向かった
そこでミキさんの指輪が店員さんの目に止まって、調べさせて欲しいって言われたから、別に時間もあるしお願いしてみた
ちょっとした大卒サラリーマンの年収くらいの価値があったらしい
店員さんもびっくりしてたけど、それ以上に僕は比喩でもなんでもなく震えてた
この指輪と比べたら、今見てるペアリングなんてゴミみたいな値段じゃないかって思ってしまった
プレゼントなんだから気持ちが大事
そんな事は分かってる
ミキさんも
「この指輪は別枠だから、あんまり気にしないでよ」
って言ってくれた
でも、僕はあまりのショックに
「いや、でも」
としか言えなくって、そうしてるうちにミキさんの顔がどんどん悲しそうになって、ちょっと小さなため息をついて、それから
「とりあえず行こうか」
って、ギリギリ僕に聞こえるくらいの声で言ってアクセサリーショップを出た
ミキさんはそこから僕の手首を掴んで歩く
新宿駅まで歩く間、ミキさんはずっと無言だった
当然僕も何も言えなかった
京王線の改札前でミキさんは
「私、お店でいっぱいプレゼント貰ってるし、いっぱいお金も使ってもらってるよ。でも、君と比べたことなんかないよ」
いっそ怒鳴ってくれた方が罪悪感も薄れたのかもしれない
ミキさんは少し涙が溜まってる以外はいつも通りの、少し笑ってるようなまっすぐな眼で、いつも通りの優しい声でそう言った
「お願いだから、今日は一人で帰らせて」
って言うミキさんに、結局何も言えなかった
その日、久しぶりに僕は実家に帰った
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