産後ケア事業を利用する(宿泊・通所・訪問の違いと自治体への申込み手順)
制度確認日:2026-08-14
この記事は、申請者が公式要項と自分の条件を照合し、比較、判断、必要書類の準備、申請後の管理まで進められる実務用ガイドです。金額・期限・対象・様式は改定や地域差があるため、申請時点で必ず公式ページと担当窓口に再確認してください。
2026年8月14日時点の公式確認
こども家庭庁が2026年3月に改定した産後ケア事業ガイドラインと2026年通知一覧を確認しました。利用期間、回数、費用、対象要件は自治体・施設ごとに異なります。
この記事が整理すること
出産後、病院から自宅に退院してからの数週間は、体の回復と育児の両立という意味で、人生のなかでも特に体力的・精神的な負担が大きい時期です。夜間の授乳、乳房トラブル、育児への不安、慢性的な睡眠不足——これらが重なると、産後うつや育児困難のリスクも高まります。
こうした状況を支えるために、市区町村が運営している公的な支援が「産後ケア事業」です。助産師や看護師などの専門職が関わり、宿泊・通所・訪問のいずれかの方法で母子を支援します。費用の一部は公費でまかなわれ、住民税非課税世帯などは無料または大幅減額になる自治体も多くあります。
ただし、この制度が複雑なのは、利用料・利用回数・減免・申請方法が自治体によって異なる点です。同じ都道府県内でも条件は共通とは限りません。居住自治体の最新案内で、対象期間、利用形態、自己負担、減免、予約方法を一つずつ確認してください。
この記事では次のことを整理します。
産後ケア事業とは何か——制度の定義・法的根拠・対象者の変遷
3つの実施形態(宿泊型・通所型・訪問型)の違いと選び方
自己負担の仕組みと減免制度の原則
複数の自治体を例に、実際の費用と利用回数のイメージ
申請の手順と準備しておくべき書類
産後ケア事業と他の支援制度(No.04・No.12の育児給付)との違い
2025年4月からの制度変更と今後の展望
よくある誤解・注意点とFAQ
本記事は情報提供を目的としており、個別の申請代行・書類作成代行・医療的助言を行うものではありません。
産後ケア事業とは何か
制度の定義と目的
産後ケア事業は、出産後の母親と乳児を対象に、助産師や保健師・看護師などの専門職が、心身のケアと育児のサポートを行う事業です。退院後の早い時期から専門職が関わることで、産後うつの予防・早期発見、育児不安の軽減、孤立の防止を図ることを主な目的としています。
この事業が広く整備されるようになった背景には、日本の出産を取り巻く環境の変化があります。かつては産婦が退院するまでの入院期間が1週間以上あることも珍しくなく、その間に助産師や看護師が授乳・育児の指導を行うことができました。しかし医療コスト削減の流れのなかで、経腟分娩では産後4〜5日、帝王切開でも産後6〜7日前後での退院が標準的になっています。
退院後の「空白の時期」——専門職のサポートなしに自宅で育児と体の回復に取り組まなければならない期間——において、支援が届かないことが課題として認識されてきました。核家族化が進んで実家のサポートを受けにくい家庭が増えた現代では、退院直後から孤立した状態で育児をせざるを得ない母親も多く、産後うつや育児困難の背景にこの「孤立」があることが指摘されています。
産後ケア事業はまさにこの空白期間を埋めるために整備された制度であり、「退院後から産後1年の間に専門職が関わる機会を作る」ことが目的の核心にあります。
利用者が施設に宿泊してケアを受ける「宿泊型」、日帰りで通所する「通所型(デイサービス型)」、専門職が自宅を訪問する「訪問型(アウトリーチ型)」の3つの実施形態があり、市区町村が地域の医療機関や助産所に委託する形で運営されています。
法的根拠の変遷——母子保健法から子ども・子育て支援法へ
産後ケア事業は、もともと母子保健法の改正(令和元年法律第69号)によって市町村の努力義務として位置づけられ、令和3年(2021年)4月1日から施行されました。これにより、各市区町村が産後ケア事業を行うよう努めなければならないとする法的根拠が整備されました。
その後、2025年4月1日(令和7年4月1日)から、子ども・子育て支援法の改正によって、産後ケア事業は「地域子ども・子育て支援事業」の1つに位置づけが変更されました。これは単なる名称変更ではなく、財政の仕組みが根本的に変わることを意味します。
旧制度では国が費用の1/2を補助し、残り1/2を市町村が負担していました。新制度では国1/2・都道府県1/4・市町村1/4という3者分担に変わり、都道府県が新たに財政的な関与を担うことになりました。
この変更の実務的な意義は2点あります。1つ目は、市町村の財政負担が1/2から1/4に軽減されることで、特に財政力の弱い小規模自治体が産後ケア事業を継続・拡充しやすくなることです。2つ目は、都道府県が1/4の財政責任を持つことで、県内での広域調整(市町村をまたいだ利用など)が促進されやすくなることです。
対象者の変遷——「必要とする者」へのユニバーサル化
産後ケア事業の対象者は、かつて「心身の不調または育児不安等がある者」に限定されていました。この条件があることで、「自分はまだそこまでひどくない」「申請したら大げさと思われないか」という心理的なハードルが利用を妨げていたという指摘がありました。
2023年度以降の制度改正により、対象者の要件は「産後ケアを必要とする者」と改められ、ユニバーサル支援として広くすべての産後女性が使えるサービスとする方向が明確になりました。大阪市では令和8年(2026年)4月1日から、従来の制限を取り除き「誰でも利用いただけるようにした」と明記しています。各自治体によって移行のタイミングは異なりますが、この方向性は全国共通です。
利用期間の原則——産後1年以内
産後ケア事業は原則として「出産後1年を経過しない女性とその乳児」が対象です。ただし、宿泊型は子どもの月齢制限を設けている施設が多く、たとえば産後5か月未満までしか受け付けない施設も少なくありません。訪問型や通所型は産後1年未満全体を対象にしている自治体が多い傾向があります。
利用日数の上限は「宿泊型は原則7日以内」とガイドラインに記されており、多くの自治体がこれに準じています。ただし、延長が認められるかどうかは自治体の判断によります。早産や長期入院後などの場合に、期間を延長して対応している自治体もあります。
なお、産後ケア事業は「産後1年以内」を基本としていますが、これは医学的な「産褥期(分娩後6週間)」とは異なる概念です。産褥期は医学的な子宮回復・体の回復に注目した概念ですが、産後ケア事業の1年という期間は、育児の不安や孤立リスクが産後1年を通じて続くという観点から設定されています。特に産後3か月・6か月・1年のタイミングで育児環境の変化(職場復帰・保育施設入園など)が生じやすく、それぞれの時期に特有のサポートニーズがあることも踏まえての設定です。
3つの実施形態の詳細比較
産後ケア事業には宿泊型・通所型(デイサービス型)・訪問型(アウトリーチ型)の3形態があります。市区町村によって提供している形態の組み合わせが異なります。たとえば「宿泊型と訪問型のみ」「3形態すべてあるが施設は少ない」など、自治体の実態はさまざまです。まず自分の住む自治体がどの形態を提供しているかを確認することが第一歩です。
宿泊型(ショートステイ)
宿泊型は、市区町村が委託した病院・診療所・助産所・産後ケアセンターなどの施設に、母親と乳児が一緒に宿泊して支援を受ける形態です。
提供されるケアの内容は施設によって異なりますが、一般的には次のようなものが含まれます。
乳房ケア(おっぱいのトラブル、授乳姿勢の指導、乳腺炎への対応など)
授乳指導(ミルクと母乳のバランス、授乳量の確認)
沐浴指導(新生児の入浴の仕方)
母体の身体的な回復への観察とアドバイス
育児全般の相談・悩みへの対応
育児中に「赤ちゃんを預かってもらい母親が休む」という休息の提供
宿泊型の最大の特徴は、家事や育児から一時的に離れて身体を休める機会が得られることです。自宅では休もうとしても「赤ちゃんが泣けば対応しなければ」という状況になりますが、施設では夜間のミルクあげや見守りを専門職が担ってくれる時間を設けることができます。育児疲れや睡眠不足が深刻になっている母親にとって、身体的な回復という点で最もダイレクトに効果を発揮しやすいのが宿泊型です。
一方で、宿泊型を提供できる施設は他の2形態に比べて数が少ないという現実があります。空きベッドの確保が必要な宿泊型は、出産件数が減少するなかで産科病棟の縮小が進む地域では提供施設が限られることがあります。
宿泊型を選ぶ際は、施設ごとに以下を事前に確認することが重要です。
受け入れ月齢(産後何か月まで対応しているか)
夜間の対応体制(夜間も助産師が常駐しているか、夜間対応の形式)
提供するサービスの内容(乳房ケアに強い施設・育児全般に強い施設など)
差額料金の有無(個室・半個室・大部屋の違い、食事の内容など)
通所型(デイサービス型)
通所型は、施設に日帰りで通い、決まった時間帯にケアを受ける形態です。宿泊を伴わない分、費用が安く、施設の数も宿泊型より多い傾向があります。
通所型で提供されるケア内容は宿泊型と基本的に重なります(乳房ケア・授乳指導・育児相談・沐浴指導など)。日中数時間を施設で過ごし、専門職のサポートを受けながら育児の不安を解消していく使い方が典型的です。
集団で行うグループ型と、個別に対応するマンツーマン型の両方を設けている自治体もあります。グループ型は同時期に出産した他のお母さんたちとの交流ができる点が特徴で、孤立感の軽減に効果があるという報告があります。一方でマンツーマン型は、具体的なトラブルや不安をじっくり相談したい方に向いています。
訪問型(アウトリーチ型)
訪問型は、助産師や保健師・看護師が利用者の自宅に出向き、その場でケアを行う形態です。「外出できる状態にない」「施設までの移動が難しい」という母親にとって、最もアクセスしやすい形態といえます。
自宅でのケアという性質上、自宅内の育児環境そのものを見てアドバイスできる点が他の2形態にない特徴です。授乳の姿勢が自宅の部屋のレイアウトと合っているかどうか、沐浴に使っている道具が適切かどうかなど、その家庭の実際の生活に即した具体的な指導が可能です。
訪問時間は1回おおむね1〜2時間が多く、双子など多胎児の場合は対応時間を長めに設定している自治体もあります。
訪問型の注意点として、対応できる助産師・看護師の人数が限られているため、予約が取りにくい場合があることが挙げられます。利用希望日の2週間以上前から予約の準備を始めると安心です。
3形態の比較
3つの形態は目的に応じて使い分けることが重要です。どれか一つを選ばなければならないわけではなく、同じ産後期間中に複数の形態を組み合わせて使える自治体も多くあります。
身体的な回復を最優先したい場合は宿泊型が向いています。日中のケアと育児相談を繰り返し受けたい場合は通所型が使いやすく、外出が難しい状況や自宅での実践的な指導を求める場合は訪問型が適しています。
時期によって使い分けるという視点も有効です。産後すぐの退院直後は宿泊型で集中的にサポートを受け、身体が安定してきた産後1〜2か月頃からは通所型で定期的なケアと他の母親との交流を活用し、育児の具体的な問題が出てきた時期に訪問型で自宅での実践指導を受ける——というように、産後の各段階で形態を変えて使うことが「総合的な産後支援」として有効です。
形態主な対象ニーズ利用時期の目安費用感(目安)宿泊型身体的疲弊・睡眠不足・退院直後の乳房トラブル出産後1年以内を基本に自治体・施設の条件を確認自治体・世帯区分・施設により異なる通所型育児相談の繰り返し・他の母親との交流産後〜1年(利用回数上限あり)1回500〜2,000円程度訪問型外出困難・自宅での実践指導産後〜1年(利用回数上限あり)1回500〜1,500円程度
(金額はあくまで参考目安。実際の金額は自治体・世帯区分・施設により異なります。確認日:2026年8月14日)
【無料サンプル】渋谷区在住の方が宿泊型産後ケアを1ケースだけ無料で全部見せます
産後ケア事業は「どんな感じで動けばいいのか」がわかりにくいという声が多いため、ここでは東京都渋谷区を例に、宿泊型産後ケアを1回(1泊2日)利用するケースを最初から最後まで具体的に紹介します。
渋谷区を選んだ理由は、公式サイトで情報が整理されており、費用・手順が明確に公表されているためです。他の自治体でも手順の骨格は共通していますが、金額・回数・申請方法は必ず居住自治体の公式情報を確認してください。
想定するのは次のような状況です。
渋谷区在住の方が第1子を出産し、退院後2週間が経過しました。夜間授乳が続いて睡眠が十分に取れず、乳房に張りと痛みが出てきています。夫は仕事が多忙で日中はほぼいない状況で、実家も遠く家族のサポートが受けられない状態です。「一度専門職に見てもらいたい」「体を休めたい」と感じています。
ステップ1:妊娠中に事前申請をしておく(申請受付:妊娠28週〜)
渋谷区の産後ケア事業は、妊娠28週から利用希望日の14日前までに申請が必要です。産後になってから申請しようとすると、疲弊した状態で手続きをすることになります。妊娠中(8か月以降)に事前に申請しておくことで、産後すぐに使えるようにしておくことができます。
申請方法は3つあります。渋谷区公式LINEアカウントから申請する方法、窓口に来所する方法(渋谷区保健センター)、郵送で申請書を送る方法です。
産後ケア事業利用申請書(渋谷区が指定の様式)に氏名・連絡先・妊娠週数・出産予定日・利用希望の形態などを記入します。
住民税非課税世帯など減免対象の場合は、「世帯全員の住民税非課税証明書」または「生活保護受給証明書」を添付します。一般世帯の場合は本人確認書類があれば申請できます。
申請後、渋谷区から承認の通知(利用登録承認通知)が届きます。これが「使える状態」になったことを示す書類です。
ステップ2:出産後、施設を選んで予約する
渋谷区が宿泊型で委託している施設の一覧は、区のウェブサイトに掲載されています。施設ごとに得意とするケアの内容、月齢の受け入れ範囲、空き状況などが異なるため、いくつかの施設に問い合わせて比較することをおすすめします。
退院後すぐに使いたい場合、退院前に施設に電話して予約を入れておくことも可能です。施設によって予約の方法が異なるため(電話のみ・ウェブ予約あり等)、事前に確認しておきます。
ステップ3:費用のイメージを確認する
渋谷区の宿泊型の自己負担は、1泊2日で7,000円です(2026年8月14日確認時点)。
渋谷区の公式利用者負担額が7,000円です。施設独自サービス等の実費が加わることがあるため、予約時に「区の利用料のほかに支払う費用があるか」を確認します。
住民税非課税世帯・生活保護受給世帯については、利用者負担が免除されます(渋谷区の場合)。
5日間を上限として利用できますが、ここでは1泊2日の1回利用を想定します。
ステップ4:施設に持参するもの
渋谷区が発行した利用登録承認通知(利用者証)を施設に提示します。これがないと自己負担の割引が適用されないため、必ず持参してください。
施設側で準備を必要とするものは事前に確認します。一般的には、母子健康手帳(乳児の健康状態の確認に使います)・着替え・タオル・産褥パッドなどが必要です。施設によって「持ち込みOKなもの・不要なもの」が異なるため、予約時に確認しておきます。
ステップ5:施設で受けるケアの流れ
チェックイン後、担当の助産師などから現在の状況をヒアリングされます。今困っていること・気になっていること(乳房の張り・授乳の悩みなど)を遠慮なく伝えてください。
この方の場合、乳房の張りと痛みが主訴なので、助産師による乳房のアセスメント(状態の確認)と必要に応じたケアが行われます。授乳姿勢の確認・改善、ミルクの量の見直しなどのアドバイスも受けられます。
夜間は、施設のスタッフが乳児の見守りを行う時間を設けてくれることで、母親が連続して休眠できる時間を確保できます(施設の方針・体制によって異なります)。
ステップ6:チェックアウトと次のステップ
1泊2日の利用が終わったら、担当スタッフから帰宅後の過ごし方についてアドバイスを受けます。解決しなかった問題があれば、次の利用(デイサービス型や訪問型、または2回目の宿泊型)の検討について相談できます。
渋谷区の場合、宿泊型の上限は5日間(1泊2日+それ以降は1日3,500円の加算)、デイサービス型は最大7回、訪問型は最大3回です。今回の1回を使っても、まだ複数回の利用余地があります。状況に応じて継続的な利用を検討してください。
この1ケースから読み取れること
渋谷区の例では、宿泊型1泊2日の自己負担は7,000円です。一見高く感じるかもしれませんが、助産師によるケア・夜間の赤ちゃんの見守り・施設内での休息という内容を含むことを考えると、民間の産後ケアサービスや産後ケアホテルに比べると公費負担で大幅に抑えられています。
また、渋谷区の費用は他の自治体と比べると高めの部類に入ります。千代田区や神戸市・大阪市など他の自治体では、同じ宿泊1回の自己負担がより低額に設定されているケースがあります(前述の自治体別比較参照)。
重要なのは、「料金が高いから使えない」ではなく、自分の自治体の制度を事前に確認した上で、妊娠中に登録を済ませておくことです。産後になってから「もっと早く知っていれば」という後悔をしないために、妊娠8か月になったら保健センターへの確認と申請手続きを行動の優先事項としてください。
ここから先は、申請に直結する実務です。
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