1週間限定でトラを飼う
あさ目覚ましに起こされると、左の首が少し痛く感じた。ん、なんだろう。少し気になったけれど、まあいいかとまた次のアラームが鳴るまで寝た。そのうち意識は起きてきて、もぞもぞと布団をかぶり直しながら心で(うーん)と唸った。やっぱり首が痛い。
ああ、これは。どうやら寝ている間に寝違えてしまったらしい。寝転がったまま頭だけ横を向けたり体の向きを変えてみたりしたけれど、やっぱり左の方がキッ、キッと痛んだ。
はあ。私は目を瞑ったまま心の中でため息をついた。嫌だ、本当にイヤだ。一度寝違えたらずっと痛いのだ。私はその大変さを知っているから、心の底からため息が出た。
そういえば、前に寝違えたときそのことをnote書いたことを思い出した。いつだっただろうかと過去の投稿を遡ると、昨年の1月5日とあった。約一年半前ということになる。私は一年に一度か一年半置きに首を捻らないといけないのかと思うとすごく悲しくなった。ということは、次に首を捻るのは再来年の年明けくらいということになる。できればやめて欲しいのだけれど。
しかし、いくら首を捻ろうと会社にはいかなくてはならなかった。私は仕方なく布団をめくってのっそりと起き上がると、ベッドから降りて、そろそろそろとカーテンを開けた。
ここまでの動作で何度首が「キッ」となっただろう。まるで首にトラでも飼っているような気分になった。この凶暴なトラを一日手懐けないといけないのかと思うと、今日を過ごすのがとても嫌になった。
そしてこのトラとの共同生活が始まった。私はどうにかしてこのトラを手懐けないといけない。とりあえずそっとしておくのが一番だと思い、何をするにもゆっくりすることを心がけた。けれどたまに忘れて「くいっ」と横を向いてしまうものだから、しっぽを踏まれた猫のように「シャーッ」と怒られてしまうのだった。はあ、ほんとうに困ったものだ。
仕事が終わるとドラッグストアに寄った。湿布を買うためだ。早く湿布を首に貼りたたかったのだ。もうこれ以上痛みを我慢するのはごめんだ。結局、一日経ってもトラは大人しくはならなかった。何か手を打たなければ、トラは一向に出て行ってくれないような気がした。手ごわいトラだ。慣れない湿布の購入に戸惑いながらなんとか湿布を手に入れると、さっさと家へ向かって車を走らせた。
お風呂に入り、鏡を見ながらむむむと湿布を貼った。一人だととてもやりにくかった。肩からツーンとあの湿布特有のにおいがして、そしてじんわ~と肩に入り染み込んでいくのを感じた。これだ、と思った。私はこのじわりとした感じを求めていたのだ。湿布はいつだって味方だと思った。早くこのトラを大人しくして、さっさと檻から出て行って欲しかった。
今日一日、私は運転をしながら、パソコンを打ちながら、コピー用紙を補充しながら、備品を運びながら、ずっと左の首が痛かった。なんとなく前回よりはマシだ、と思ったけれど、思うように首が動かせないのは本当にストレスだった。
首にトラなど飼わない方がいいと思った。ろくなことにならない。偶然飼ってしまったのだけれど、もう飼わないようにする手はあるんだろうかと頭を抱えて、やめた。寝相が悪い私には難しい話しだ。また飼ってしまったときはその時だ。
私はまたしても当たり前にあった大切さは失ってから気づくのだと思った。少なくとも二・三日、長ければ一週間は左首にトラを飼うことになるだろう。首のトラよ、こんなせまっこい檻に閉じこもっていないで、さっさとどこかへ逃げ出しておくれ。
