ポテトチップスの袋が白黒に?通関士が読むべきナフサ不足と包装資材リスク
ポテトチップスの袋が白黒に?通関士が読むべきナフサ不足と包装資材リスク
「ポテトチップスの袋が白黒になる」
最初にこのニュースを見たとき、多くの人はこう思ったかもしれません。
「え、デザイン変更?」
「中身に問題があるの?」
「コスト削減なの?」
しかし、通関士や物流に関わる人間の目で見ると、このニュースは単なるパッケージ変更ではありません。
これは、ナフサ不足が印刷インキ、包装資材、食品流通にまで波及していることを示す、サプライチェーンの小さな異変です。
カルビーは2026年5月12日、「ポテトチップス」「かっぱえびせん」「フルグラ」など計14商品のパッケージについて、印刷の色数を白黒2色に変更すると発表したと報じられています。変更後の商品は5月25日の週から順次店頭に並ぶ見込みで、商品の中身には影響がないとされています。
つまり、味が変わるわけではありません。
品質が落ちるわけでもありません。
変わるのは、袋の「色」です。
しかし、その色の裏側には、原油、ナフサ、印刷インキ、包装フィルム、食品メーカー、倉庫、配送、小売までつながる大きな流れがあります。
袋は白黒になりますが、背景はかなり複雑です。
白黒パッケージは「品質低下」ではなく「安定供給」の判断
まず大切なのは、消費者に誤解を与えないことです。
ポテトチップスの袋が白黒になると聞くと、「商品に何か問題があるのでは?」と感じる人もいるでしょう。
しかし今回のポイントは、食品そのものではなく、包装に使う印刷インキや関連原材料の調達不安です。
企業にとって、商品を売るには中身だけでは足りません。
ポテトチップス本体が製造できても、袋がなければ出荷できません。
袋があっても、必要な表示や印刷ができなければ販売できません。
販売できなければ、物流も小売も止まります。
つまり、包装資材は「おまけ」ではありません。
食品流通においては、商品を市場に出すための重要な部品です。
今回の白黒化は、見た目を簡素にしてでも商品供給を続けるための判断だと考えられます。
これは物流の現場から見ると、とても重要なメッセージです。
「商品本体の在庫はあるのに、包装材が足りないから出荷できない」
このような事態は、物流やメーカーの現場では十分に起こり得ます。今回のニュースは、それを一般消費者にも見える形で示した事例といえます。
そもそもナフサとは何か
では、なぜナフサがポテトチップスの袋に関係するのでしょうか。
ナフサは、原油から得られる石油製品のひとつです。日本石油連盟によると、ナフサからはエチレン、プロピレン、ブタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの石油化学基礎製品が作られ、それらはプラスチック、合成繊維、合成ゴム、塗料など幅広い製品の原料になります。
つまりナフサは、目に見える完成品ではなく、さまざまな製品の「上流」にある原料です。
身近な例でいえば、プラスチック容器、フィルム、接着剤、塗料、包装材、インキなど、多くのものが石油化学製品の流れの中にあります。
ポテトチップスの袋も例外ではありません。
食品パッケージには、印刷、フィルム、ラミネート、接着剤、表示、加工など、いくつもの工程が関わっています。そのどこかでナフサ由来の原料が使われていれば、ナフサの供給不安は包装資材の問題として現れます。
ここで大事なのは、ナフサ不足が「ナフサそのものを輸入できない」という単純な話だけではないことです。
ナフサから作られる基礎化学品。
そこから作られる樹脂や溶剤。
さらにそれを使ったインキや包装資材。
このように、何段階も先の製品に影響が出るのです。
印刷インキは「色」だけではない
印刷インキというと、多くの人は「赤」「青」「黄色」などの色を思い浮かべます。
しかし、インキは単なる色の液体ではありません。
印刷インキ工業会によると、印刷インキは大きく、着色材、ワニス、添加剤の3つの要素で構成されています。ワニスは合成樹脂などを溶剤に溶かしたもので、着色材を印刷素材に定着させる役割を持ちます。
また、印刷インキの製造工程では、合成樹脂、乾性油、溶剤などを使ってワニスを作り、顔料などと混ぜてインキを作ります。
つまり、インキは「色材」だけでは成り立ちません。
色を出すための顔料。
それを運ぶ溶剤。
素材に定着させる樹脂。
乾燥性や印刷適性を調整する添加剤。
これらがそろって初めて、食品パッケージにきれいな印刷ができます。
だから、ナフサ由来の溶剤や樹脂の供給が不安定になると、印刷インキにも影響が出ます。
今回、色数を減らすという判断は、単に「カラーをやめる」という話ではありません。限られたインキや資材を使い、できるだけ安定して商品を供給するための工夫と見るべきです。
物流現場で怖いのは「通関後のボトルネック」
通関士や物流担当者にとって、このニュースで注目すべき点はここです。
輸入貨物が無事に通関したとしても、それだけでサプライチェーンは完了しません。
原料が国内に入る。
工場で加工される。
包装される。
ケースに詰められる。
倉庫に入る。
小売店へ配送される。
消費者が買う。
この一連の流れのどこかが詰まれば、商品は市場に届きません。
特に食品の場合、包装は非常に重要です。
袋にはブランドデザインだけでなく、商品名、内容量、原材料、アレルゲン、賞味期限、保存方法、製造者情報など、消費者に必要な情報が表示されます。
つまり袋は、単なる「見た目」ではありません。
商品情報を伝える媒体であり、品質を守る容器であり、販売するための条件でもあります。
だからこそ、包装資材が不足すると、物流は止まります。
通関士の仕事は、輸入申告を正しく行うことです。
しかし、これからの通関士には、もう一段上の視点が求められます。
「この原材料は、国内で何に使われるのか」
「この資材が不足すると、どの工程が止まるのか」
「顧客はどんな説明を必要としているのか」
ここまで読める通関士は、単なる手続き担当ではなく、サプライチェーンを読む参謀になれます。
ナフサ不足は一部業界だけの問題ではない
ナフサ不足の影響は、印刷インキや食品パッケージだけに限られません。
帝国データバンクの調査では、ナフサ由来の基礎化学製品を扱う主要化学製品メーカー52社を起点に、直接・間接的に仕入れを行う製造業が全国で4万6,741社に上り、集計対象の製造業の30.4%に相当するとされています。
さらに同調査では、ナフサ関連の商流は自動車部品からハンバーガー包装紙まで幅広く、パルプ・紙・紙加工品製造、出版・印刷関連産業、食料・飼料・飲料製造にも影響が及ぶ可能性が示されています。
これは、非常に重要な数字です。
ナフサ不足という言葉だけを聞くと、石油化学業界の問題に見えます。
しかし実際には、食品、印刷、包装、紙加工、物流、小売など、生活に近い分野まで影響が広がる可能性があります。
ポテトチップスの袋は、その影響が消費者の目に見えた一例にすぎません。
政府は「必要量は確保」と説明している
一方で、過度に不安をあおる必要はありません。
佐藤官房副長官は、印刷用インクやナフサについて、現時点では直ちに供給上の問題が生じるとの報告は受けておらず、日本全体として必要な量は確保されているとの認識を示しています。
ここは冷静に見たいところです。
今回の問題は、「日本中でナフサが完全になくなる」という話ではありません。
むしろ見るべきポイントは、全体量は確保されていても、特定の用途、特定の企業、特定の工程で目詰まりが起きる可能性があるという点です。
物流ではよくあります。
港全体では貨物が動いている。
しかし、あるコンテナだけ遅れている。
倉庫全体は稼働している。
しかし、特定の資材だけ足りない。
輸入はできている。
しかし、国内加工の工程で詰まっている。
全体として大丈夫に見えても、現場では困っている。
これがサプライチェーンの難しさです。
だからこそ、通関士や物流担当者は、ニュースを一面的に見てはいけません。
「不足しているのか、していないのか」ではなく、
「どこで、何が、どの程度、詰まっているのか」を見る必要があります。
通関士・物流担当者が確認すべき5つの視点
今回のニュースから、実務者が確認すべきポイントは5つあります。
まず1つ目は、ナフサそのものだけを見ないことです。
ナフサの輸入量だけでなく、印刷インキ、溶剤、合成樹脂、包装フィルム、ラベル、接着剤など、川下の関連品目を見る必要があります。
2つ目は、HSコードだけでなく用途を見ることです。
同じような化学品や資材でも、食品包装向けなのか、工業用なのか、印刷用なのかで影響は変わります。分類だけで終わらず、その貨物が国内のどの工程で使われるのかを見ることが大切です。
3つ目は、原産国・積出地・船積みスケジュールをセットで確認することです。
中東情勢が関係する場合、原料の調達先や積出港、代替ルート、船積み遅延の有無が重要になります。ニュースだけでなく、実際の船積み状況を見なければ判断できません。
4つ目は、価格改定や受注制限の通知を早めに拾うことです。
メーカーや商社からの「価格改定」「納期未定」「新規受注停止」「代替品提案」といった言葉は、サプライチェーンの早期警戒サインです。これらの情報は、現場の温度感を知るうえで非常に役立ちます。
5つ目は、顧客に通関後のリスクまで説明することです。
「輸入通関は完了しました」で終わるのではなく、
「その後の包装資材や加工工程で遅れが出る可能性があります」
「包材の在庫状況も確認した方がよいです」
と伝えられると、顧客からの信頼は大きく変わります。
通関士の価値は、申告書の正確さだけではありません。
顧客がまだ気づいていないリスクを、先に見つけることにもあります。
企業が今すぐできる3つの対応
このニュースを見て、企業がすぐにできることもあります。
1つ目は、包装資材の在庫確認です。
原材料の在庫は見ていても、包装資材の在庫は後回しになりがちです。しかし、袋、ラベル、フィルム、ケース、結束テープがなければ商品は出荷できません。最低でも、在庫日数、次回入荷予定、代替品の可否は確認しておくべきです。
2つ目は、多色印刷や特殊仕様の洗い出しです。
色数が多いパッケージ、特殊インキ、ラミネートフィルム、複合素材、特殊ラベルなどは、調達リスクが高まりやすい部分です。どの商品が影響を受けやすいのかを一覧化しておくと、判断が早くなります。
3つ目は、部門横断の情報共有です。
包装資材の問題は、購買部門だけでは解決できません。
物流は出荷を見ます。
品質管理は表示を見ます。
営業は得意先対応を見ます。
製造はライン変更を見ます。
通関・貿易担当は輸入と納期を見ます。
だからこそ、部署ごとに情報を抱え込まず、早めに共有することが大切です。
サプライチェーンの問題は、ひとつの部署だけでは見えません。全体をつなげて初めて、どこが詰まりそうかが見えてきます。
ポテチの袋は白黒でも、通関士の視点はフルカラーで
今回のポテトチップスの白黒パッケージ化は、生活者にとっては少し驚くニュースです。
しかし、通関士や物流担当者にとっては、もっと深い意味があります。
それは、輸入原材料の変化が、遠く離れた食品売り場のパッケージにまで影響するということです。
ナフサは原油から生まれます。
ナフサは石油化学製品の原料になります。
それが樹脂や溶剤になります。
それが印刷インキや包装資材になります。
そして、私たちが手に取るポテトチップスの袋になります。
この流れを知っている人は、ニュースの見え方が変わります。
「ポテチの袋が白黒になった」
そこで終わるのではなく、
「どの原料が詰まっているのか」
「どの工程に影響が出るのか」
「自社の取扱品目にも波及するのか」
「顧客に何を先に伝えるべきか」
ここまで考えることができます。
通関士は、貨物を通すだけの仕事ではありません。
輸入の入口から、国内の製造、包装、出荷、販売までを読むことで、会社の中で価値を出せる仕事です。
今回のニュースは、そのことを教えてくれています。
袋の色は白黒になるかもしれません。
しかし、物流を見る目まで白黒にしてはいけません。
原料、商流、現場、顧客、社会。
それぞれの色を見分けることが、これからの通関士・物流担当者に求められる力です。
ポテトチップスの袋の色が変わる。
その小さな変化の裏には、世界の原油、輸入、化学品、包装、食品流通がつながっています。
このニュースを、ただの話題で終わらせるのはもったいない。
明日、職場で包装資材の在庫を確認してみる。
顧客に納期遅延の背景を一歩深く説明してみる。
輸入品目の用途を、もう一段川下まで考えてみる。
それだけで、ニュースは実務の武器になります。
ポテチの袋は白黒でも、通関士の視点はフルカラーでいきましょう。

