比嘉葵は女優を目指します。No.6
比嘉葵は女優を目指します。No.6
著者 七海 文〈ななみ あや〉
葵は、
海沿いの、
比嘉家の先祖らが
眠っている墓所に、
向かっている。
葵の大好きだった、
おじい、おばあが、そこにいる。
葵は、家から
この南の島の人が、
つくっているお酒を、
持ってきていた。
元々ある、
カラフルなガラスの器に、
そのお酒を入れる。
そして、スマホから、
おじいとおばあが、
よく歌っていた、
この島の音楽を流す。
そして、目には見えぬ、
おじい、おばあに、
心の中で声を掛ける。
いつも、
見守ってくれて、ありがとう。
今日もきたよ。
まだ、来年の春までは、
ここにいるよ。
春になったら、
この島を出ます。
比嘉家の比嘉葵は、
東京で働きながら、
女優になっていくことを誓います。
見守っていてね。
おじい、おばあ、
父、母、兄のことを、
よろしくお願いします。
葵は手を合わせながら、
祈り続けていた。
優しい南風が吹いていた。
葵は、
いつもの海に向かう。
今日も誰もいなかった。
今日も葵だけの海になっていた。
いつものように、
砂浜に座る。
東京で暮らし始めたら、
平日は学校が、
推薦してくれた職場で働く。
土日は劇団の稽古場に、
通うことを目標にしていた。
まだ、この島にいる友人は、
葵がこの島を出ることを知らない。
葵は、自分からは言わずに、
黙っていようと思っている。
ただ、
お喋りが好きな父と兄が、
話してしまうだろう。
その時はその時……。
親友の伊波英美里には、
いつか話すつもりでいる。
葵は、
英美里の兄の伊波蓮のことを、
思い出していた。
伊波蓮と葵は幼馴染のまま。
葵は伊波蓮に、
本当は恋をしていた。
しかし、葵は、
伊波蓮の気持ちを、
確かめたことはない。
いつも、微妙な距離感。
それでいいと思っている。
多分、言わないまま、
この島を出ていくだろう。
女優への夢を追いながら、
女優として、
生きていけるようになったら、
この島を訪ねよう。
それまでは帰らないと決めている。
絶対に女優になる。
どんな役も、
与えられた役、
全てを演じ切っていく。
どんな人間も演じていく。
喜怒哀楽の全てを、
人を惹きつけるように、
引きこませるように
表現したい。
どんなことにも、
私は立ち向かってきたもの。
全てを超えてみせる。
葵は海と空に向けて誓った。
〈続〉
七海 文
〈ななみ あや〉
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