【大人の嗜み】#2 ステーキの火入れ
先日、自宅でステーキを焼く機会があった。
その時ふと思った。
火を扱う行為は、なぜこんなにも人を――その時の心の状態を――映すのだろうか、と。
こんばんは、【今宵の肴】です。
今回はステーキの火入れについて、【大人の嗜み】シリーズとして書いていきます。
自宅でステーキを焼くとき、みなさんはどうしているだろう。
意外なほど「その人らしさ」が出る行為なんじゃないだろうか。
•冷蔵庫から出してすぐに焼く人
•強火で決着をつけたい人
•とにかく早くひっくり返したくなる人
肉は何も言わないが、
こちらの性質を鏡のように映し返してくる。
フライパンが温まり、油が薄く揺れる。
その瞬間にそっと肉を置くと、静かに「ジュ」と音が立つ。
ここから先は、もう自分との対話だ。
強火にしたくなる衝動は、きっと誰にでもある。
けれど、そこをぐっと堪える。
焦げ目を急ぐほど、結果は遠ざかっていく。
美味しさとはーー
力技でねじ伏せられるほど単純ではない。
ひっくり返したくなった時こそ、まだ触れない。
肉が自ら離れようとするまで待つ。
熱に委ね、余白を与える。
こうして初めて、中心まで静かに火が入る。
焼き上がったら、すぐ切りたくなる衝動もあるだろう。
そこを、ほんの少しだけ待つ。
休ませることで、肉は落ち着き、旨みを抱え直す。
この「待つ」「触れない」「委ねる」という三つの所作は、
どこか“育てる”という行為にも似ている。
部下でも、子どもでも、
急かせば縮こまり、押し込めば固くなる。
それでも適度な距離と少しの余白を与えれば、
驚くほど柔らかくなることがある。
ステーキは黙ったまま、
そんな当たり前のことを、ただ静かに教えてくれているのだと思う。
火を扱うというのは、
自分の内側の熱を扱うことに近い。
欲も、焦りも、衝動も、
強すぎればすべてを硬くしてしまう。
ーー僕らは日々、いろんなものに火を入れている。
料理にも、仕事にも、誰かの成長にも。
たまにはそんなふうに考えながら、
ステーキを焼いてみるのもまた、大人の嗜みなのかもしれない。
そして、皿の上のステーキが美味しくできた夜は、最高の一杯で締めくくろう。
きっといつもより少しだけ、心が満たされるはずだ。
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