【翻訳】いとこのレンの不思議な形容詞貯蔵庫【ジャック・フィニイ】
いとこのレンが、その不思議な「形容詞貯蔵庫」を見つけたのは質屋だった。
彼は何かと、ホコリまみれの質屋を練り歩く男であった。
いわく「自然から解放されるから」だと。
レンは自然をこよなく愛する人間ではないようだ。
にも関わらず、「森の魅力と伝統」というコラムを連載している。
一日の大半は、森でその資料集めに束縛されているのだ。
本人は配管工にでもなりたいようだが。
~中略~
レンがその貯蔵庫(見た目は普通の塩入れ)を買った翌日。
コラムの執筆中に事件は起こった。
「妖精の森で宝石の輝きを放つ枝々は、葬儀のように静かだ。」彼の筆がうなった。
「凍てついた鋼鉄のごとき冬の手が、夏の緑に満ち溢れた木々のざわめきを握りつぶした。
数え切れない虹色の鳥たちが歌う、銀色に輝くフルートの調べも消え去ってしまった。」
一通り記した後、当然のごとく彼は休憩した。
そして件の塩入れを調べ始めた。
メーカーの刻印がないかと手でひっくり返したりしているうちに、それが原稿から1インチほどの所に来た。
やがて彼は、自分の書いた原稿に異変が起きているのに気づいた。
「 森 の 枝々は、 静かだ。」
「 冬の手が、 木々のざわめきを握りつぶした。
鳥たち の調べも消え去ってしまった。」
さて、いとこのレンは馬鹿ではないので、改善された事にはすぐ気づく。
そこで彼は、原稿をいつもの倍の長さで執筆した。塩入れを磁石のようにスライドさせ、原稿の文章に1行また1行と近づけてみる。
すると文章に書かれた形容詞や副詞が、シュッと小さな音を立てて消え去ったのだ。
掃除機に吸われるホコリのごとく。
出来上がったコラムは、ちょうど良い長さで、これまでにない出来となった。
文章に余計なうなり声が一切なく、引き締まってキレがあった。
妻のルイサなどは「これを読むと森に行きたくなるわね」と言ったほどだが、彼はと言えば自慢のうなり声を一切合切かき消されたので、それほど良いか?と不満が残るのだった。
以来、レンはこの「形容詞貯蔵庫」を使うようになった。
原稿から1インチの距離だと最長を含む全ての形容詞、1.5インチの距離だと中くらいの長さまでの形容詞のみ、2インチの距離だと3~4文字という軽めの形容詞のみが消える事が分かった。
彼のコラムは瞬く間に人気となった。
ある老婦人から寄せられた手紙には「あなたが書くコラムは死亡欄の次に読む価値があります」と記されていた。
レンいわく「コラムが死亡欄の隣だから、新聞記事の中では一番読まれている」という意味らしい。
~中略~
いとこのレンの形容詞貯蔵庫は、電報を打つ時にも役立つ。
私もこれを書くにあたり、塩入れを1.5インチの距離に置いた。
おかげでこの文章は、かくも短くなっているのだ。
原文:Words and Music: Cousin Len's Wonderful Adjective Cellar
