見出し画像

「心的外傷と回復」を読んで 

言わずと知れた名著です。いずれ読みたいと思っていました。ある程度闇を抜けた今なら落ち着いて読めるはずです。とはいえお高い本であり、人気があるので中古でもなかなか手が出せないお値段です。しかしこのほど、大学の図書館で借りられる身分になりました。というわけで、喜び勇んで借りました。

本の概要

初版刊行以来、世界中の読者から感動をもって迎えられ、現在ではトラウマ問題のバイブルの地位をゆるぎないものとした本。あらゆる心的外傷(トラウマ)の諸相とその治療の方向性、回復への道を具体的かつ情熱的に示しています。本書は、原書2022年版にもとづき、長大なあとがきを追加した増補改訂版です。


⚠️ご注意⚠️性暴力の場面を生々しく描写した箇所があります。被害者はフラッシュバックに気をつけてください。性暴力の被害者でなくても、フラッシュバックの引き金になる要素がたくさんあるので、当事者は取り扱い注意です。気が乗らないなら無理に読まない方がいいと思います。


虐待の事実は正視に耐えないから隠蔽する

本を開いたら、私の成育環境がいかに過酷か語る個所でした。本がこのようにメッセージをくれることがあります。

被虐待児といえども自分のケアをしてくれる人に対して何とか一時的アタッチメントを形成しなければならないのだが、その対象ときたら危険人物か、自分を無視している人物かである。

(中略)

いっさいの容赦なく権力のほしいままにゆだねられている自分を知覚しながら、希望と意味とを残すようにする方法をみつけなければならない。それに代わるものは絶望しかなく、これは子どもの耐えられるものではない。

両親への信頼と誠実とを保つためには両親はひどくまちがっているという、これほど明白なものは他にないというほどの最初の結論を撤回しなければならない。自分の悲しい運命に対して、両親の責任と両親に対するいっさいの非難とをなくしてしまうような説明づけをでっちあげるために、どのような現実離れをも冒すようになってしまうだろう。

「心的外傷と回復 増補新版」ジュディス・ハーマン p150

つづいて、ハッとする一節が飛び込んできました。
「被虐待児は、虐待は実はなかったと思い込むほうが好きなのである」(p151)

それはそうですよね。虐待があったと認めると崩壊してしまうから、人はなかったと思い込むために忘却、記憶の改ざんなどあらゆる方法を駆使するようです。頭で考えるというより、命を守るための人体の精緻な仕組みです。

読者の方に念のためお伝えすると、無理に現実を直視しろというつもりはありません。非常に慎重に扱うべきことです。

私は熟練のプロの手助けを4年あまり、その前に20年以上各種の手法で回復に努めてだいぶ楽になりました。親と離れて暮らすことができました。かなり条件に恵まれた方だと思います。それだけのゆとりがあって初めて、ここまで書けるようになりました。


支援者に求められるものとそれを阻むもの

回復のための第一原則はその後を生きる者の中に力(パワー)を与えることにある。その後を生きる者自信が自分の回復の主体であり判定者でなければならない。その人以外の人間は、助言をし、支持し、そばにいて、立ち合い、手を添え、助け、温かい感情を向け、ケアをすることはできるが、治療(キュア)するのはその人である。善意に溢れ意図するところもよい救援の試みの多くが挫折するのは、有力化という基本原則が見られない場合である。その後を生きる者から力を奪うような介入はその人の回復のためにはならない。いくら、その人にその場では役に立つようにみえてもだめである。

「心的外傷と回復 増補新版」ジュディス・ハーマン p194

「その後を生きる者から力を奪うような介入はその人の回復のためにはならない。いくら、その人にその場では役に立つようにみえてもだめである。」当事者として拍手喝采を送ります。

残念ながら、これを体得している支援者は、特に日本では非常にまれだと思います。医療、福祉、教育、家庭などで「あなたのため」と称して相手から力を奪うような介入が当たり前すぎて、疑問すら抱かれません。

日本の医療は米国よりさらにパターナルであり、強く有能な専門家が、弱く無力な患者を救済するという図式からなかなか抜けられないからである。医療だけでなく、日本の社会全体が人を有力化することが苦手である。いじめにあった子ども、レイプの被害をうけた女性、そういう人たちに、私たちが最初にやることはお説教である。これは残り少ないパワーをさらにうばうこと以外の何ものでもない。パワーを与えることなくして、被害からの回復はありえないのに。

「心的外傷と回復 増補新版」ジュディス・ハーマン p415

私はXでトラウマや毒親その他雑多なことを呟いていますが、やっとたどり着いた支援の現場で叱り飛ばされるなどの目に遭ったクライアントの話は、枚挙にいとまがありません。お説教をかます支援者はいったい何様なのだろう、と思います。私がまともなセラピストに繋がったのは僥倖です。

虐められた子供、成績が落ちた子ども、忘れ物をした子ども、レイプされた女性、パワハラに遭った人にお説教したくなるその心情は何でしょうか。もしや、直視したくない自分の弱さを相手のなかに見て刺激されるのでしょうか。何しろ上に弱く下に強い国民性なので。

トラウマは治療法のような手法の領域に留まるものではなく、権威主義、共依存という私たちに根強い傾向の問題でもあるような気がします。最近は安全で効率がいいトラウマケアの手法が開発されてきましたが、大方の人が弱い者いじめをする社会では、トラウマを抱えた人が回復しても生きていくのに困難があります。当事者ではなく、周りの人たちの問題です。

何か個別の名前のついた療法、〇〇療法、をとりいれることに専門家は熱心である。技術はもちろん必要だし、深刻なトラウマを持つ人を前にしておびえやすい専門家の支えともなる。けれども知識や技法だけで武装していくことは、逆に外傷治療の根本をおびやかすことにもなりかねない(中略)
PTSD治療に関わる人だけでなく、自分自身がトラウマを受けた人、トラウマティックではないけれど、ストレスによって無力化されている多くの人にとって、この本はさまざまな指針を与えてくれるはずである。

「心的外傷と回復 増補新版」ジュディス・ハーマン p416

家庭教師の視点では「技術はもちろん必要だし、深刻なトラウマを持つ人を前にしておびえやすい専門家の支えともなる」という個所は、知識やスキルは生徒を前にして怯えやすい先生の支えともなる、と読み替えることができます。

また「けれども知識や技法だけで武装していくことは、逆に外傷治療の根本をおびやかすことにもなりかねない」は、先生が知識やスキルで武装して弱みを見せないようにがんばると、生徒にとって励まされる存在からかけ離れていき、教育(曖昧な言葉ですが)の根本を脅かすことにもなりかねない、と置き換えられます。

トラウマケアを受けてよかったことの一つに、自分の弱さを受け入れることができるようになったことがあります。これは生徒と対面するときに非常に役立ちます。怯えて武装して、生徒に弱点を突かれると怒り狂い、パワハラに走る先生はたくさんいます。おかげさまで簡単に差別化できます。長らく苦しんだのだから、これぐらいお得なことがあってもいいですね。

回復は劇的ではなく地味で気長な道のり

外傷を受けた人は、一歩また一歩とその人生における最低限の安全を、少なくとも人生の予見性を、取り戻してゆくものである。自分も自分以外の人間も頼みにしてよいことにもう一度気づきなおすものである。外傷以前よりもはるかに用心深く、人を信じにくくなっていて、水入らずの親密性は避けるだろうが、自分はまったく孤立して傷つき放題になってしまう存在だとは思わなくなっているとか、自分で自分を守る能力に多少の信頼を置くようになっているとか、自分のいちばん厄介な症状をコントロールする方法をしるようになっているとか、安心してサポートしてもらえる相手はどういう人かがわかるようになっているとか(が第一段階官僚の目安である)。

「心的外傷と回復 増補新版」ジュディス・ハーマン p257

私はこういう道をたどってきたのだと、実に感慨深い気持ちです。回復はとても地味な道のりです。果てしない道のりを一歩一歩進みます。倒れそうになることもしばしばでした。前途の長さに絶望的になります。最初の頃が特に辛くて「しにたい」「消えたら楽なのに」と、人知れず何度も泣きました。

引用箇所では、著者は人を信じられる経験がある人を想定していますが、私が心的外傷を受け始めたのは恐らく出生直後あるいは出生前なので、人生において人を信じる経験が極端に不足しています。こんな私は人間不信が適応的であり、ましてや水入らずの親密性を避けるのが当たり前ですね。

私を励ますつもりなのか、異性との親密な関係(恋愛とか結婚とか)を盛んに勧める人がいてうんざりしました。何となく気が向かず、結婚しないままこの歳になりました。

独りでいるのはそれなりの理由があるのだと、トラウマ関連書を通じて知りました。自分の消極的な決断に拍手を送りたい👏親密な関係から得られる喜びは味わえませんが、代わりに、失わずに済んだことがたくさんあります。残念ながら毒親育ちはモラ男につかまる確率が高いのです。モラ夫に虐げられる生活では、トラウマから回復するどころか、さらなるダメージを食らって動けなくなったかもしれません。

好きな数学を教えつつ母校で時々働くというささやかな幸せをありがたく思います。

珠玉の一節に出会うたびに付箋をつけたらフサフサになってしまいました。まだまだ気になる個所はあるのですが、ここで一区切りして世に出すことにします。

トラウマセラピーを受けて以降の変化や気づき

それより前、20年余りの遍歴はこちら。

note大学現役学生の方限定 有料記事を割引価格で販売



最後までお読みいただきありがとうございました💕

今回の感想文は数回に分けて書きました。自分でいうのも何ですが大作です。チップで応援していただけますと泣いて喜びます。

今後もがんばりますので、スキ、コメント、フォローしていただけますと、とてもうれしいです💛

これからも有益な情報を発信しますので、応援よろしくお願いします✨

**********************************


マガジン 親を赦さなくても幸せになれるの❓大丈夫っす
マガジン トラウマと向き合い繊細さを強みに変えた私のビジネス戦略
マガジン 有料記事 リアルな体験に基づく生きた教訓
note大学現役学生の方限定 有料記事を割引価格で販売

サービス
社会人必見!緊張をほぐし大切な場面で実力を発揮するエクササイズ

いいなと思ったら応援しよう!

ホモルーデンス🔷 京都発・魂の考察 いただいたサポートは、コーヒーを飲んだり本を買ったり、経験の幅を広げたりするのに使わせていただきます。ありがとうございます。