見出し画像

詩 秋空は流れ

 空が青い。

秋になって、空の色が凜としてきた。

夏空のようなぎらぎらした輝きはなく、大人びた、凜とした色で、頭上に広がっている。

そこを、薄い雲が流れていく。

繊細な帯状の雲の流れが煙のようになって空を流れていく。

流れはゆったりとしていて、雲に引きずられて空そのものが流れているかのようだ。

せせらぎの音が流れてくる。

段状になった斜面を川が緩やかに流れ、こぼこぼと音を立て続ける。

空を流れていく雲の流れも、その音によって一層滑らかになっていきそうだ。


 ただぼんやりと、秋空が流れていくのを眺めていた。

自分が今まで失ってきたものについて、考え始める。

確かに、失ってしまった。失われたものは、葬式の時に立ち上る煙のように、重みなく空へと昇っていき、やがて消えていく気がする。

そうして自分は、今までの自分にあったはずの可能性を、一つずつ失っていき、やがて、凜とした青を張った空をただ眺めている自分が、そこにあるだけだ。

若気のようなものもだんだんなくなっていき、緩やかに流れていきながらも、静かに動じることなくただそこにある、空のように、なってしまった。


 成熟とは喪失という言葉を思い出す。

自分は一つ失う度に、一つ、人間になった。そしてまた一つと、次々に失い、そしてだんだんと、人間になった。

そんな人間が、空のような心で、秋空を眺めている。清々しい。

失うことは悲しいが、歳を取って生まれ変わる人間の心にだって、瑞々しいものがあるはずだ。

とはいえ、自分はまだ老人でもないが。

いいなと思ったら応援しよう!